ご無沙汰しています。本日からまたブログ投稿を再開いたします。昨年9月に少し書いて、その後、2015年11月の更新が最後になっていました。
最初は、もっとしっかり更新しようと思っていましたが、お客様の受注を遅らせながら更新するわけには行かず、ずっと更新できずにいました。まだ、新規受注以外に難しい仕事が数点残っているなかでの更新ですが、今日はそのお客様達にも少しお伝えする意味でも更新をしようと思いました。
私とところでは、オーダーであれリフォームであれ、毛と皮の状態を最高の状態にするということに差はなく、どちらも徹底して自分の納得のいくところまでやらさせていただいております。それを知っているお客様もいらっしゃれば、知らないお客様もいらっしゃる訳で、しかし、知っていようといまいと、毛質と皮の状態についてはとことんやらせていただいております。
特殊なものは、その分どうしてもお時間をいただいていて、昨年11月にも、このブログにてお詫びをさせていただきましたが、毛質をよくするという部分につきましては、特にブリーチしたもの以外には、そうリスクがかかることはないのですが、こと、皮の部分になると、その後の劣化の進行度合いや、仕上りの良さにも大きく影響を及ぼすこともあり、特にリスクの高いものは、お時間をいただいております。
その訳もご説明しながらの今日のメインの話題ですが、今日はドラムについて書いてみます。
毛皮用のクリーニングドラムについて
ここ数ヶ月間、このドラムの調子が悪く、とても困っていたのですが、シーズン中ということもあり、修理することもままならずにいて、ようやく、自分で点検をし、問題箇所を確認して業者さんにお願いをして、やっと数日前に修理が完了しました。
このドラムという機械はドライクリーニングの機械のような構造をしていますが、毛皮のドラムはドライクリーニングのように、ジャブジャブ溶剤で洗うことはしません。基本的な役割は、加工でカットして出た毛を取り除いたり、オガを入れてさらに綺麗に毛取りをしたり、ツヤ出し剤や静電気防止剤をオガに混ぜて毛を綺麗にするということが主な役割です。さらに、ドラムに入れて回転させることで毛皮を柔らかくすることもできます。これが一般的なドラムの使い方です。
オガに有機溶剤を混ぜて、毛や皮の脂分を除去
当社では、さらに、オガに有機溶剤(ドライクリーニング屋さんで使う、パークのように規制されていない安全なもの)を混ぜて、毛や皮の脂分を除去することに使っています。もちろん、業者さんに依頼して本当のドライクリーニングをしてもらうこともあります。毛皮のなめしやさんや染色屋さんでも、ドライクリーニングの機械を持っていて、ジャブジャブ洗ってから、おがドラム回しながら、ゆっくり乾かしていくことをやっていらっしゃいます。
一度、話がそれますが、ジャブジャブ洗うと、コートの形が崩れてしまうように思うかもしれませんが、有機溶剤では形が大きく変形することはありません。それがドライクリーニングの長所です。生地も毛皮も水洗いしたら、形は崩れてしまいます。毛皮は水につけておいたら、クロムなめししていないものはどんどん皮が溶けてしまいます。大変なことになります。
一番わかりやすいのは、例えばティッシュを水と有機溶剤で濡らすと、水で濡らしたものは、溶けて触っただけで切れていってしまいますが、有機溶剤は濡れても引っ張らない限り切れることはないのです。そして、油を溶かす効果もあるために洗剤と混ぜて洋服を洗うことが出来るのです。
毛皮も洗剤は使いませんが、この有機溶剤を使って脂分を落とすことができます。
当社が使う有機溶剤は、一般的に市販されていて規制のかからないものを使っています。そのかわり、乾燥時間や効力が少し落ちます。プロが使うのは乾燥が早く、脂の落ちも強く、その代わり、身体や環境にも悪く規制のかかっているものを使っています。詳しくはわかりませんがパークロエチレンやフッ素系や石油系のようなものがあり、用途によって使い分け、さらに、100%回収機能のついている設備を使っているようです。
私は、このドライクリーニングを業者さんに頼むこともありますが、リフォーム品などは劣化の度合いを見ながらドライクリーニングをすることになるので、リスクが高く業者さんには依頼できません。そのため自分で一点ずつ有機溶剤で手洗いします。脂の抜け方を見ながら、最後に半乾きくらいで、今回のテーマである、ドラムにかけるのです。
もちろん、オガを入れてオガに有機溶剤を少しずつ吸収させてコートから有機溶剤を抜いていきます。ここでひとつプロ的なことを言いますが、オガに吸収をさせながら、当然ドラムで回転してコートが揉まれながら乾いていくので、通常のドラムがけよりも、柔らかくなるのです。ここは、本来はシークレットなところですが、今回は、お客様にも知っていただきたいので書いてみます。
中国で作られたもののなかに、極端に柔らかい仕上がりのものがありますが、あれも有機溶剤を使って、おそらく商品として仕上がった段階でかけているのだと思います。このやりかただと、とても、風合いは綺麗になるのですが、実際にはコートのなかに使っている接着芯のような糊のついているものや、それ以外の接着芯も溶剤で溶けてしまい、外れてしまうことが多いのです。リフォームのときに、そんな状態の商品を多く見かけます。
中国では規制がしっかりしているのかどうかは不明です。強力に脂を抜くには強い溶剤が必要ですが、中国での仕上がりを見る限りでは、もしかしたら国内では使用不可になっているフロン系、フッ素系の溶剤を使っているのかもしれません。あくまで推測ですが。
それと、いかに有機溶剤は形が狂わないといっても、実際に毛皮は加工するときに、強く皮を張っている場合が多く、多少は縮みが発生します。ですから、当社のようオーダーでつくる場合には、すべて裏地も付いた状態でドライするわけにはいかないのです。形が若干崩れたりしたものや剥がれたテープを補強し直したりする必要があるからです。
そして、脂の抜きすぎも問題があります。仕上がりとしては、毛も皮もサラサラになりますが、強度や万が一水に皮が強く濡れてしまうと乾いた後、パリパリと紙のようになってしまう可能性もあり、やりたいけど、、、、やりすぎてはいけない、、 という、この辺のバランスが難しいのです。
今回のドラムの修理のために、 大切なお客様をお待たせしていた原因は、ドラムの動きがとても重くなり、原因が特定できませんでした。
ドラムのメンテナンス
ドラムを支える軸にベアリングがついているのですが、ここが磨り減って回転が重くなったのかモーターか?は少し機械をバラしてみないと解らなくて、なかなかその時間がとれずにいて、やっとのことでモーターだということが解り、モーターもすぐに手に入るのかと思ったら、最近は在庫はもたずに、すべて受注生産だと聞かされ、しかもひと月くらいかかるらしいと言われ、頭をかかえてしまいました。
このモーターは特殊な構造をしていて、軸の先に5段階のギヤで回転を遅くさせ力を強くしているギヤが密閉式で組み込まれていて、ここのギヤが重たくなってしまっていることがわかり、現状は、使えるがいつ、モーターが焼けるか解らないと鉄工所の社長さんに言われ、焼き付いた時に漏電を起こす可能性もあると言われました。
私は特殊なものは丸二日かけっぱなしで柔らかくしたり油を抜いたりするので、夜中、誰もいない時にモーターが焼ききれてしまい、漏電や、万が一火事にでもなったら、、、とおもうと、手間のかかるものは仕掛かることができずにいました。
先日、修理が終わり、ドラムの動きも軽くなり、安全な状態に戻りました。
私のところのドラムについて最後に少し説明します。これは多分フランス製でシーカムという名前のドラムです。
昔、国内でもっと小さくて二層式のオガを入れられる密閉されたものとオガや毛を払うための網の扉がついたものがありましたが、あれでは私が使うには小さすぎます。シーカムのドラムは、なめしやさんが使うような大きなものではないですが、一層式で網と密閉式をふたを取り替えることで切り替えるタイプです。ドラムのサイズはそこそこあり、原皮100枚やコート5着くらいは余裕ではいります。
写真をよくみてもらうとわかりますが、白い部分はネジや木の傷があり、裏地などを傷つけてしまう恐れがあったので自分でパテで埋め、ひっかかりをなくし、さらにドラムの中全体を薄くラッカーで塗って、サンドペーパーでツルツルにしてありますので、傷がついたり皮が切れたり、擦れて擦り切れるなんてことはありません。
アトリエにある機械すべてに言えることですが、与えられて、そのまま使うことなどはないということです。なにかしら工夫や改良をして使います。
次回、また同じことが起こっても大丈夫なようにモーターもスペアを買ってあり、とりあえず安心して使えるようになりました。
これから、少しずつ難しいものに、 細心の注意をはらって仕掛かって行こうと思います。今シーズンには必ず、喜んでいただけるように致しますので、もうしばらくお待ち下さいますよう、お願いいたします。お待たせしていて申し訳ありません。