毛皮技術の伝承 | 下積みは必要か?

一昨日、カンブリア宮殿という民放の番組で「東京すしアカデミー」という、すし職人になるための学校の放送を観ました。

寿司職人になるために下働きで、毎日何年も皿洗いをさせられ・・・、それがあたりまえになってしまっている。しかし、ほんとうに職人になるのに、そんなに毎日毎日皿洗いが必要なのだろうか?もっと効率よく技術を伝達する、または吸収する方法がないだろうか? そんな短期間で、すし職人になるための技術を教えるという内容でした。

私自身の35年の毛皮業界での生業を振り返ってみて、この「東京すしアカデミー」の「効率よく技術を伝達する、または吸収する方法を模索し、短期間ですし職人になるための技術を教える」の人材育成コンセプトに共鳴しました。

下積みは必要か?

下積みが必要だというひともいらっしゃるでしょう。しかし、下積みの中身については、よく吟味する必要はあるように思います。毛皮の仕事も、多種多様な技術を求められます。最近、国内職人さんの仕事のなかで、主流になりつつあるリフォームなども、たくさんの技術の蓄積のなかで、ようやくそのリフォームという仕事ができるようになるわけです。

毛皮業界でも、昔は上記の寿司職人修行の下働きというようなポジショニングに近い作業があり、毎日毎日、毛皮を水で濡らして、それを伸ばしながら釘、またはタッカーの針でとめて、裁断しやすいように張るというような仕事、さらには毎日ミシンを縫う、とにかくひたすら、同じことの繰り返しをするというような仕事がありました。

レットアウトという言葉を毛皮の業界でよく耳にしますが、細かくカットしてずらして縫い、長さをだしたりする作業ですが、これも、私がこの業界に入ったころは、ちゃんと縫えるようになるのに10年かかると言われていたことを思い出します。

確かに、レットアウトも難しい技術のひとつです。例えば、カットの角度や幅、ずらしピッチによってどう面積の移動ができるのかや、皮の厚さ、硬さに対して、縫いの厚さ、縫い目の細かさ、糸のテンション調整など、確かにたくさんあります。

だからといってミシンばかりを下働きと称して何年もさせるのは、あまりにも矛盾が大きく、それ以外に覚えなければ、レットアウトそのものが理解できないということを知っていても、使う側の都合で、先に進ませないという現実もよく昔はみかけられたように思います。

昔、腰痛を経験し、それを少しでも鍛えることで治そうと、高校時代にやっていた剣道を近くの町道場でやったことがあります。

教士七段の先生方もたくさんおられ、いい道場でしたが、練習方法はどこも同じことの繰り返しで、なにかつまらなさを感じ、当時、名前は忘れましたが、剣道の雑誌を買い、そんななかで面白い記事を読んだのを思い出しました。

話していたひとは、剣道の世界でも、おそらくとても有名なかたで、段位も最高位(すみません何段か記憶にありません)の先生だったかと思います。その先生も、これからは・・(といっても30年くらいまえの話です) 『ただ毎日同じ稽古をするだけでは剣道をするひとの人口が増えない。なにか新しい技術の伝達方法や稽古の方法を考え、少しでもはやく剣道の面白さを理解してもらえるような仕組みが必要だ・・』と、こんなことをインタビューかなにかで仰ったのです。

多分、そうとうに上の人だったように思います。当然年齢も相当いってらっしゃったように記憶しています。そんな方が、こんな発想をするのか?と、私には衝撃だったために今も、そのことを覚えています。

パターンナー(パターンメイカー)という職種でも、毎日縫い代付けをやらせていたような時代もあり、よく、紙ベースに慣れてしまった方は、紙で実寸をみながら作業をしないとダメだというひともいらっしゃいます。しかし、CADが最初からあり、CADを使うことがあたりまえだったら、どうでしょうか?

または、プロッターが最初からあり、縫い代をつけてカットする仕事など存在しなかったらどうでしょう?そう考えると、無駄な雑用をさせている時間がどれほど多いことかがわかります。それを修行や下積みという言葉で、これまでは片付けられてきたのです。

アトリエの設備を増やしてきた意味

 

私たちのアトリエには一般的な毛皮縫製工場にはない設備を揃えております。それは人の感性を生かした最良のもの作りを行う為です。大半が手仕事である毛皮製品作りは作業そのものに時間をとられがちです。

そんな部分をデジタル・機械化することにより正確さとスピードそして私たちの感性を生かす時間が生まれました。

この、私たちのクラフトマンシップと設備の融合により私たちは製品を作る中で最も重要な部分でPassioneの能力(感性や技巧)を最大限に生かしたもの作りをしています。

 

上の文は当社ホームページにある弊社の簡単な紹介文で、当時在籍していた服部という女性スタッフが、私が思いを語り、それを文章にしてくれたものです。

ここに書いてあるように、毛皮の作業は、ほんとうに大半が手仕事なのです。しかし、機械化やデジタル化がまったくできないかというと、そんなことはありません。レットアウトを機械に任せることによって、色を合わせたり、毛の長さをしっかり合わせたり、最後のまとめを丁寧にやることだったりと、本来、ひとの手仕事や感性でしかできない作業に時間をたくさん使って、より高りクオリティを作り出すことができるのです。

今、どの業界もなかなか人材が育たないのが現状です。そして、覚えることもたくさんあり、無駄な下積みを過去のようにして、限りあるひとりひとりの時間を無駄にはできません。

そんなことを久しぶりに思い出させてくれた、一昨日のカンブリア宮殿でした。

長澤祐一

にほんブログ村 ファッションブログ オーダーメードへ
ファッションブログランキング