今日は前回に続いて、ロシアンセーブルの作りについて書いてみます。
最近のロシアンセーブルコートは、ほとんどが中国で作られているせいか、それとも、セーブルを作るための基本的な技術をもった技術者が少なくなったせいか、正確には解りませんが、毛の長さ、色、雰囲気を全ての接ぎ合わせ部分でチェックして綺麗に仕上げるというコートが、ほとんど見られなくなりました。
セーブルのテクニックとしては、私がいつも言っている、あたりまえのことをあたりまえにこなす、、、ということにもつながりますが、こんなことは基本中の基本なのです。しかし、今は価格も下落し、そして技術も下落したと言わざるを得ません。有名百貨店でさえも、今はシルバリーチップがこれだけ入ったものは見ることはできませんし、作りもほんとに雑なものばかりです。
そんなこともあり、買う方のために、どこを見ればいいのかを前回から書き始めました。
もちろん、デザインさえよければセーブルであればなんでも良いという方もいらっしゃるでしょう。そんな方には、このブログで書いてあることは価値がありませんので、特に読む必要はないのです。
しかし、ロシアンセーブルの本当の価値を知りたいと思われる方には、是非読んでいただきたいと思います。
前回は、肩や背中の部分を少しだけ書いてみましたが、今日はエリについて書いてみます。
まずは下の画像をご覧ください。
この画像をみるとグリーンの矢印が左右にあるのがわかりますね。この矢印の延長線上に実際には、裏えりと表エリの接ぎ目があります。画像では接ぎ合わせてある縫い目は、ほとんど見えません。ここも、テクニック的にはとても難しいところです。
私が、30年くらい前にみたインペリアルセーブルのコートは、とにかく、どこもかしこも、完璧に仕上げれれていました。
毛皮は当然、何枚も使って作られ、その一枚一枚をつなぐときに縫い目ができ、そこで必ず毛の長さ、色、毛質、を合わせ、綺麗なつながりにしなければならないのですが、実際にやってみると、ここを合わせても、ここがうまく合わない、、、、というように、どこもかしこもパーフェクトに仕上げるというのは本当に難しいのです。
まず最初に、頭のなかで、シミュレーションをし、そして、それを実際に作っていくテクニックも必要になり、さらに、途中で、これくらいでいいや!!などと、妥協や挫折をしてしまうことのないような精神力と時間のゆとりも必要になります。
毛皮の作りのなかでもこのセーブルコートは、テクニック、センス、気力、、と、このすべてが揃わないと、本当に綺麗な作りができないと私は思っています。
次に、下の画像をご覧ください。
これは、エリのバックセンター(BC)を接ぎ合わせた画像です。この画像にもグリーンの矢印がありますが、その延長線上に接ぎ目が、うっすら見えますね。
よく、高度なテクニックとして、昔の職人さんのなかで、バックセンターを接ぐときに左右の毛皮を細かく差し込むように縫い合わせて、接ぎ目をごまかすように作るひともいらっしゃいましたが、インペリアルセーブルのコートはそんな小細工はせずに、毛の長さ、毛の色、全てをパーフェクトに合わせ直線で縫い合わせていました。
ここがすごいところです。小細工なしで、毛の長さ、色、ボリュームをぴったり合わせていくのです。つい、目の錯覚を利用して、ごまかしたいところでも、そんなことはやらないのがインペリアルセーブルでした。
作りの中で、あ~~ここはしょうがないよな~~ というところがよくあるものです。
技術者にしかわからないところもありますが、そんな技術者でさえ、目を見開いて立ち止まってしまうほどの、衝撃を受ける、そんな作りが30年くらいまえには、あったのです。
今では、ショップでみることもなく、販売に携わるひとたちも、そんなものはみたことがないという、そんな時代になってしまいました。
先日ある百貨店の某有名毛皮ブランドの毛皮サロンで、お客様について行って、そこの販売員さんの説明を聞いていたとき、シルバリーチップもなく、綺麗でもなく、、、というより汚いセーブルをシルバリーコートですと・・・説明され、思わず苦笑いしましたが、売り場も素人になってしまったのです。
今は、セーブルの価格も下がりました。しかし、よく見てください。下がったのではなく、安い原皮、安い作りで作られたものばかりになってしまったことが、価格が下がった一番の原因なのです。
もちろん原皮そのものの価格が昔からみれば下がったことも要因ではありますが、今でもちゃんとした原皮で本来の作りをすれば、やはりそれなりの価格になるのです。
話が脱線しましたが、セーブルのレットアウト自体は、ブラックグラマのショートナップのミンクに比べれば簡単だと書いたことがありますが、前回と今日のエリの接ぎ合わせ部分等は、セーブル独特の難しさであると私は感じます。
今日の記事のなかに載せた写真でセーブルの魅力をわずかでも感じてもらえれば嬉しく思います。
長澤祐一