今日は、珍しく小物の裏地を付けた写真です。アトリエでも、小物の数は少ないですが作ります。この受注はカシミヤコートのテーラーカラーの上えりに乗せエリとして取り付けるミンクのカラーです。
みなさんも毛皮の裏地付きの小物をお持ちでしたら見てみてください。意外に裏地が毛皮から吹き出していたり、裏地がたるんでいたり、毛皮の寸法と合っていなかったり、なかなか綺麗に裏地がついているものが少ないはずです。
どうしても、小物を作るところは、数を作らなければならなかったりして、ものすごいスピードで仕上げられているので、なかなか細かいところまで気を使って作ることができないのです。
この写真のように台エリがついたような作りは意外に難しいときがあります。ひとつ、付け加えるとすると、写真では、毛皮側が見えませんが、裏地ではエリ腰部分で切り替えてあります。しかし、毛皮は、もちろん、カットして切り替えたりしていません。毛皮の皮がどちらにでも伸びる性質を利用して伸ばして立体的に作っています。
そのかわり、伸びてはいけないエリ腰部分には伸び止め処理をしています。こうすることで、無駄に毛皮をカットして見栄えを悪くしなくて済むのです。
皮の性質を知る
そして、毛皮が伸びる性質を持っているといっても、あとで伸ばせるように張らないといけないことだけは注意してください。やみくもに張っても、伸びないときもありますから。
海外の作りや、海外のパターンで 袖の肘の部分でたたむ印が入れられていて、毛皮を重ねて張ったりしているのを見かけますが、実際には、そこに伸ばすゆとりをもって張っておけば、重ねて張る必要もなく、もっと綺麗な立体に作ることができます。
アトリエでは基本的にはすべてアトリエ内で作ったパターンを使いますから、特に問題はおきませんが、年に一二回くらいは他社からの依頼でつくる場合もあり、その時にもパターンナーの指示どおりに作ることはありません。
殆どの場合、毛皮の作り方に合わせてパターンを修正します。後ろ身頃の肩ダーツなどもイセが入るくらいの寸法ならカットせずにイセてしまいます。
よりパーフェクトなものを作ろうとすれば、原料の性質や毛の長さ、パターン、すべてを知った上で作らなければなりません。そうすれば、毛や皮を傷めず、より完璧なものがつくれます。そして、毛や皮を傷めないということは、手間も楽になるということです。
委託加工を受けていた時代を振り返ると、偉そうな職出しやパターンもまともに引けないデザイナーが、あれやこれやと強制的な指示をだしてきて、指示など全く聞かずに作り、指示通りに作りましたなどといい、喜ばれていた時代もあったことを思い出します。
そして、そんな理不尽な対応しかできないひとたちの会社は今はもうすべてなくなっています。
外注加工先を大事にできないところは、私が見る限りでは、飛ぶ鳥を落とす勢いのある時代もあるのですが、やはり、いつかは、外注加工先も、そこよりも良い取引先が見つかれば、みんな離れていって、いつかは潰れてしまいます。30年もやっていると、いろんなものが見えますね。しかし、残念ながら自分のところが、これで良いのか悪いのかはよくわからないのです。(笑)
毛皮という素材のなかで、モデリストの意味とは?
話が逸れてしまいましたが、紙ベースのパターン、そして二次元の平面上のパターンを見て、どれだけ頭のなかで立体を組み立て、そこに毛皮の長所、短所をどれだけ、あてはめて作りを考えていけるかが、パーフェクトなもの作りをするための大事な作業だということを忘れてはいけないのです。
そして、それが、以前も書いたモデリストの本来の意味であり、毛皮業界にモデリストがいるとするならば、こういったことが、あたりまえにできて、さらにずっとずっとその先にあるのだろうと私は思います。ですから、以前、ファーモデリストという名前を簡単に使って欲しくない、、、、と、うっかり言ってしまったのです。少しだけですが反省しています。
長澤祐一