今年また設備を少し増やしました。昨年11月27日付けの当ブログ「毛皮の毛の癖をとる」で書いたインバータコントロール付きで、仕上げ馬が二台付いていて、バキューム/吹き上げの付いたバキューム台です。
これでバキューム/吹き上げの付いたバキューム台が二台と吹上のないタイプが一台になり、表生地を縫う時などは、片方で通常のアイロン、もう片方で仕上げのアイロンというように同時作業も出来るようになり効率が上がりました。
本縫いミシンも、通常の平縫いを廃棄して、二台の1本針本縫差動上下送りミシンを入れました。これは、通常のミシンが下送りのみで生地を送っていくのに対して、このミシンは上下で送ります。
そして、その上下の送り幅を変えることができるので、縫いずれの起きやすい生地などや薄いシルクの裏地、ピリがでやすいシルクの表生地などには最高のミシンです。これは本当にすごい効果がありました。表生地も、これまではパッカリングとかも起きて、なにか素人臭さがぬぐえなかったのです。
言い訳する訳ではないですが、毛皮のコートでリバーシブルやライナータイプに使われている生地は、一般の縫製工場でもカシミヤコートを得意としているようなところでも、まともに仕上がってきません。それくらい難しい生地なのです。ですから、私たちが必死に縫っても、生地のプロが縫って苦労しているのですから、さすがに難しいのです。
しかし、このミシンでほとんどの問題が解決しました。シルクコートのパリッとした生地は伸縮性がない訳ではないですが、あまり自由が効くとはいえません。そのため、上下でわずかな縫いずれも、アイロンをかけた直後は良いのですが、さすがに時間が経つとピリがでてきます。何度しあげても同じです。
この上下作動送りミシンで縫うと、さすがにアイロンを一度すればあとは戻りません。それくらい綺麗に縫えます。
よく投資対効果と言われ、あんな高いもの、いくらも使わないのに、とてもじゃないけど買えないということを加工屋さんから聞くことがありますが、投資することで、いつも生地を縫わない私たちでも本当のプロ中のプロの仕上がりを手に入れることが出来るのです。
プロとして仕事をする以上、投資対効果などと言って必要な設備に投資をしないのは、結果として受ける仕事が減り、効率も下がり、どんどんジリ貧にならざるを得ません。
人に投資するのも大事なのです。しかし、その人を雇い、機械のほうがはるかに正確に綺麗にできる仕事を都度、仕上がりがぶれる人を使うというのは疑問が残ります。人がやらなくてもいい仕事はたくさんあります。人でしかできないことをやって初めて仕事と言えるのです。
毎日毎日、パターンの縫い代を昔のように人がつけている時代は終わり、毛皮のような古いタイプの、もの作りの現場ででも、機械とデジタルと人の、融合が、今求められていると私は感じています。そんな意味でもアトリエにとって設備投資はとても重要なテーマなのです。
写真は今年の初めに導入したヒートレスアイロンHSP320(ナオモト工業)です。これはシルクの生地の細かい部分の仕上げや縫い代の仕上げなどをするために導入しました。蒸気だけで仕上げをするのでアイロン部分に熱がないぶん、縫い代の厚みのある部分などの”てかり”を防ぐことができます。
さりげないところなのですが、こんなところにプロと素人の差がつくところだと思い、得意とはいえない生地の部分でも素人臭さのない顔に仕上げたいと導入しました。