今日は久しぶりに毛皮のテクニック的なことを書いてみます。以前、当ブログのシルバーFOXマフラー(Silver Fox) でも書きましたが、わたしが書いた記事ではないのでテクニック的なことがあまり書かれておりません。今回、少し書いてみようと思います。
フォックスのボリューム感
フォックスは見たとおり、毛も長く毛皮のなかでも、最もボリューム感のある素材です。そのため、エリなどはフルスキンで使う場合が多いですが、コート全体になると、ボリュームが出すぎてしまい、以外に綺麗に見えないことがあります。
そのボリューム感を減らすテクニックはたくさんあり、例えば直線で縦にレザーを挟んだり、横にレザーを挟んだり、Vにカットしてレザーをはさみこんだりしてボリューム感を落とすテクニックが一般的ですね。商品でもそのようなものは、よく見かけます。
今回の作りは、長いサイズの、頭と尻尾付きのボアでしたので、しかも、裏地を使った平ボアのようなものではなく、大きくしても、両面毛皮という作りでした。
そのため、横や縦に直線でレザーを入れてしまうとレザーの部分でパクッと毛が割れてしまい、肩にかけたときにカーブになり、立体的になったときに毛割れがでてしまい綺麗にみえませんので、レザーを縦に入れてからVにカットしてレットアウトしてずらし、チェス盤のように加工して毛割れが極力目立たない作りになっています。
レットアウトの角度の大切さ
今回は単純なレットアウトではなく、レザーと毛皮がひし形でチェス盤のように互い違いになるようにしているので、カット幅やずらすピッチをしっかり計算してVカットの角度を決めなければなりません。以外に、これが難しいのです。適当にやってしまうと、チェス盤のように市松模様にならずにレザーが揃ってしまい、毛割れがしやすくなってしまいます。ボアはコートと違い、どうしても表面と裏面の折り目ができ、その折り目の角で毛が割れやすくなりがちです。ここを綺麗にみせるには、この方法しかないのです。手間はかかっても、これがベストと思えば、このテクニックを選択する以外にありません。
島精機PGMでレットアウトのシミュレーション
伸ばしたい長さを決め、カット本数とずらし幅(ピッチ)、角度を求めてCAD上でパーツを移動して縫い上がりを見てみるのです。
ただし、これができたからといって上手くいくとは限りません。毛皮はどうしても伸びることもあり、正確にカットし、正確にずらし正確に縫う、、、という個人のテクニックは必要です。フォックスの毛足が邪魔をして意外に、計算通り縫えないものです。写真は、まあまあの縫い上がりです。少し伸ばしたり、ずらしを多くしたりするとすぐにレザー同士が揃ってしまいチェス盤のように綺麗にずれません。
毛皮の作り デジタルとの融合
よく私の記事のなかで、デジタルとの融合なんて書くことがありますが、PCをどのように利用するかという部分を説明するには、今回はよいテーマなのかもしれません。
一般的には、職人さんは ”経験にもとずく勘” というもので処理することが多く見受けられますが、後進に続くものに伝える、または失敗をしない確かなもの作りをする、、という意味では、シミュレーションをしてみるというのはとても大事なことだと思います。
それと、最後に、今、現在、毛皮も多種多様なテクニックがデンマーク、フランスやイタリアから入ってきて、そのテクニックを中国で使われ商品として輸入されていますが、今日書いたような古典的なテクニックがすべての土台になっていることを忘れてはならないということでしょう。
パショーネコンセプトのなかに”あたりまえのことをあたりまえにこなす”とあります。口でテクニックを語る人はたくさんいますが、実際に正確に縫える人はひと握りだということも最後に付け加えておきたいところです。
長澤祐一