有機溶剤で脂分が気化するということ

新年明けましておめでとうございます。投稿が二か月半くらい空きました。

今年の受注は難しいものが多く、なかなかブログを書く気分になりませんでした。

ブログのタイトルはいろいろと書き溜めていたのですが、また毛皮のクリーニングのことになってしまいます。

毛皮の皮と毛を洗うのに有機溶剤を使うことは、このブログで散々書いてきました。毛皮の汚れや脂を有機溶剤で溶かしてオガに吸収させて汚れや脂を取り除くこともたくさん書いています。

おが屑に汚れを染みこませて汚れを取るという理屈は確かによくわかるのですが、それでも本当にそれだけか?とずっとすっきりしませんでした。

もともと自動車のブレーキ部分等も有機溶剤で洗い流すのですが、というか、パーツクリーナーとかいう一般に売られている缶スプレーのものにはそう書いてありますが、ほんとうのところはわかりません。

以前、家庭用洗濯のソフターの水分を抜くとどうなるかを試したことがあります。ブログでもどこかで書いたかもです。

ソフターを脂っこいタイプとサラッとしたタイプをビニ版の上に少量たらして水分が抜けるまで待つとべたべたしたタイプと石鹸のようにサラッとしたタイプがあります。毛皮用の柔軟剤にもシリコン系のサラッとしたものと、乾いてもべたつくタイプがあり、効果がそれぞれに違います。

よく、クリーニング屋さんまたは、和服のクリーニング屋さんが毛皮をアイロン蒸気で縮ませてしまって、修復依頼をうけますが、その時には少し強めの後者の柔軟剤をつかいますが、都度リスクがあり簡単ではありません。

話を元に戻しますが、有機溶剤で溶け出した汚れや脂の全てがオガに吸収されるのだろうか?といつも疑問に思っていました。

もしかしたら汚れはオガに吸収されたにしても、脂はもしかしたら有機溶剤で溶かされて半分くらいは気化してしまうのかと、ずっと考えていたのです。

完全にその理屈は立証できてなく、それを証明するような化学的な知識もないのですが、ひとつだけ実証できるものがあります。

毛皮に使われている脂に脂というのか油というのかはわかりませんが、毛皮の繊維に吸収されるということを考えれば脂ということなのかと想像し、現実に使われている毛皮用の柔軟剤も水溶性であることから、あぶらとは脂なのだろうと考え、その脂を抜くにはどうするのか?と考えると有機溶剤が思いつくわけで、ただ、身体の脂も実際は油のようにも感じたりと私には難しすぎる課題でした。

ただ、最近少しだけ解決したことがあります。

例えば、肌の汗汚れが付いた部分に有機溶剤を付けるとどうなるのか?を考えてみてください。

何か布やティッシュペーパーで拭き取れば、カサカサに白っぽくなります。完全に皮脂が飛んでしまった証拠です。

じゃあ、拭き取らなかったら皮脂は有機溶剤で溶けただけで、肌に残るのか?と仮説を立てて試しました。

結果は何かで拭き取ったほど、白くカサカサに肌がなりません。しかし、半分くらいの油分は無くなってサラサラした状態になります。カサカサではないですが、そこそこサラサラになります。べたつきは大分取れます。

こうして考えると毛皮に染みこんだ有機溶剤が脂を溶かし、その半分くらいは気化するのか?という考えも、まんざら私が勝手に作った嘘ではなさそうなのです。

実際に手に柔軟剤を少量ですが、付着させて有機溶剤を付けると、何もしなくても乾くと、最初よりは柔軟剤はなくなっています。

例えば、毛皮の皮面に有機溶剤を大量にしみ込ませると、大きな輪染みになり輪染みの真ん中は脂が抜け、輪染みの端は柔軟剤が溶けて端によったために黄色くなります。

輪染みの真ん中は真っ白になりカサカサに皮も硬くなります。柔軟剤がぬけたことを意味します。

こんないくつかの検証をするなかで、もしかしたら汚れは溶けてオガに吸収され、脂分の何割かはオガに吸収され、さらにその何割かは気化したと考えられそうなのです。

そのことを裏付けることになるかどうかはわかりませんが、オガと有機溶剤でクリーニングした際に、途中、例えば一日くらいで出してしまう結果よりも三日間ドラムで回し続けたほうが良い結果が出るということでも少しですが証明できそうな気がします。

有機溶剤が毛皮の脂を溶かし少しずつ気化させる時間を与えているともいえるからです。

毛皮は本当に難しい素材です。毛の美しさも皮の状態に大きく左右されるからです。

でも、そんなこと考えて作る職人はいません。世界中どこを探してもです。

 長澤祐一