正しい仕事(鞣し)をしても、川下の勉強不足で、正しい仕事が出来ない辛さ

今日のタイトルは長いですね。そして業界関係者には怒られるかもしれません。

私はよく鞣し屋さんと毛皮の皮の仕上がり具合について意見交換したり、実際に鞣しを依頼するときに、こんな風にしてほしいとお願いすることがあります。その理由は製品の仕上がりに大きく影響するからです。

鞣しで大事なことは毛根を切らずにより薄く鋤いてもらうことです。しかし、業者さんにとってはそのこと以上に大事なことがあります。原皮価格がサイズで決定しますので、より長さが出るように鞣して欲しいのです。もちろんすべての業者さんがそうではないかもしれません。

しかし、そのことと鞣しの最高条件とは異なるのです。私は鞣し上がった毛皮の皮を回転アイロンという大きな機械のアイロン部分に紙やすりのようなものをつけて仕上がった皮を毛根を切らないようにしながら鋤きます。もちろん失敗も散々しました。原皮をダメにすることなどしょっちゅうだったのです。

その時に感じたのは原皮を縦に引いて鋤くと、皮の繊維は縦に集中して繊維が固くなり鋤ずらいのです。

原皮価格を上げようとして縦に引いて鞣しをするとサイズはアップしますが、皮は薄くなりにくいのです。ならないとはいいませんがなりにくいのは事実です。

じゃあ、最大限薄く鋤いてから縦にひけば良いだろうとも考えられますが、作業工程は微妙で手順が少し変わるだけで手間が大きく変わります。ですから、口で言うほど簡単じゃないはずです。

私が頼んでいるところはホントに優秀な技術者さんです。私の話もしっかりと理解してくれます。そして再鞣しでは私の思うような鋤き方と脂の量にドライクリーニングで調整してくれます。技術者でも何度言っても理解できない人もいるのです。

ところがです。私が良いと思う方法や仕上がり方法で他の依頼者のものを仕上げるとクレームが来るというのです。脂の量を減らし軽く柔らかく仕上げても、その後の職人による作業中の水加減で硬くなったりします。

この話を聴いたときにはさすがに国内加工のレベルが低いなとがっかりしました。生意気いいますが、仕上がった私の商品とその職人さんの仕上げた商品を比べてみればわかるはずです。

ここに今日の一番言いたい、仕事を受ける立場からすると、どんなにそれはおかしいだろうと思っても、お金をもらう人のいうことを聞かざる得ないのです。どういう立場のひとがそれにあたるかは支障があるのでいいませんが、せっかく鞣し屋さんに技術があっても、その技術を最大限に活かせないという、川下のレベルが低いことで川上にある技術が生かしきれずに、結果、国内毛皮製品のレベルが上がらないという結果になり、世界中の、例えば中国にさえも圧倒的に負けてしまうという結果になってしまうのです。

しかし、何十年も同じ発想と方法で仕事をしている川下関連の業者さんの大半は変わることは難しいと感じます。自分が新しい、よりベストなものを求めない限り進化・進歩などありません。他人が教えてなどくれませんから。

もちろん、川下だけじゃありません。川上にいても技術を最終的な仕上がりに合わせて磨かなければ意味がなく、そのために仕上がった商品を見る必要があるのです。

毛皮の場合には、クロム鞣しでないかぎり10年単位では必ず皮の劣化と向き合わないといけないのです。湿気を吸収しやすい皮質としにくい皮質があるのです。

しかし、中間の加工屋さんにはそんなことは、まったく関係なく、商品として形になればよいのです。

そこがいつも難しいと感じます。 

最後はテーマから少しずれましたが、毛皮加工で向き合わないといけないことは作ることだけではないのです。綺麗に作るためにどうするのか?劣化しないためにどうするのか?を常に考えなければならないことがたくさんあります。

それが出来ていないと、業者であれば、自分の在庫が年々劣化していき、顧客に対してどこかで嘘をつくことになってしまうのです。何もしないことが嘘をつくということになりかねないのが、この毛皮という素材なのです。いつも悩みます。

煌びやかな世界と、その裏側にある難しい管理の問題でずっと悩みます。

長澤祐一