毛皮のコートの重く感じる原因は大きく分けて四つあります。
一つは中に入れる副資材の問題があります。以前は毛皮であれば何でも売れた時代があり、どんなに重くても売れた時代でした。
その頃のコートには毛芯から始まり、分厚いドミット芯、そしてオーガンジー等を中に使い、裏地は裾に刺繍の入ったものやルーシングが全体についたもの等、付属全体で400gくらいになってしまうようなこともありました。これがまず、第一の原因でしょう。
次に、皮そのものの問題があります。
なめし上がった毛皮の皮には、柔らかくするために脂を入れます。その脂が水溶性であるために湿度の高い日本ではたくさんの水分を吸収してしまいます。皮に入っている脂自体の重さも重なり、かなりの重さになります。
さらに、皮の厚さを決定する”すき”の問題もあります。最終的に毛根ギリギリまで、すけるかどうかで皮の厚さが決まりますが、最近のものに比べると以前のものは厚かったように思われます。
皮を薄くすくということは、場合によっては大事な毛皮を破いてしまう可能性もあり、なめし工場さんにとっては大きなリスクがありますので、なかなか全てをギリギリまで均一に薄くすくということは難しいのです。
しかし、なめしの技術もどんどん進化しており、脂の分量やすき加減の度合いも最近は少しずつ良くなる傾向にあります。しかし、それは、最終的にドレッシング(なめし)をする工場の技量によって決まると私は思っています。国内でも良い工場はあります。
もうひとつ、加工方法によっても重さが変わることを説明致します。
毛皮の皮はドレッシングという方法でなめされており、通常のレザー等と比べると良いなめしをされたミンクの皮等はとても柔らかく、よく伸びます。そのため、コートを作るなかで歩留まりを考えると、皮を強く張り大きく引き伸して使うことがコスト面から考えても有効な手法と考えられています。あくまで一般的にですが。
基本的には、しっかり皮を張って使うか、張り過ぎないように風合いを大事にして加工するかは、コストを優先するのか、仕上がりを優先するのかによって選択されます。ただし、誤解のないよう言っておきますが、皮を強く張ることの全てが悪い訳ではありません。良い仕上がりに向けて、強く張らなければならない場合もあります。あくまでどう仕上げるかで、その強さが決まります。
ここにひとつ、参考になる加工方法をご紹介します。
毛皮の加工方法のなかにレットアウトという技法があり、その技術の中にもいくつか考え方があります。中国製のように歩留まりを最優先にした作りと、以前のニューヨークで作られたコートのように皮の繊維を縦に引き、毛のボリュームをだし、ラインを綺麗に揃えて綺麗に見せるという方法があります。
後者の作りはミンクのメスの軽い皮を使っても、毛皮を縦に引き綺麗に見せようとするために枚数をたくさん使用するという結果になり、コート重量もとても重くなります。これは、加工方法や作り手の考え方次第で軽さや柔らかさが大きく変化するという、ひとつの良い例でしょう。
以前は、ニューヨーク仕立ての綺麗なミンクにとても大きな価値がついていましたが、最近の傾向では、デザインと同じくらいの割合で軽さや柔らかさが購入の大きな要因のひとつになってきています。綺麗だけど重い、、、では売れない時代になってきています。
一般的にロングコートの重量はどんなに重くても2キロが限界だと思います。しかし、重いものの中には2.4キロくらいのロングコートも以前はよくありました。私たちが作るレットアウトのロングコートの基準は1.5キロくらいと考えています。
次回は私たちの作るコートの軽さについて書こうと思います。楽しみにお待ちください。
写真はスカングローミンクをレットアウト加工したものです。
長澤