毛皮の染色後の毛癖取りと仕上げ
今日は毛皮が染色されたときに、一般的にどうなるのか?を書いてみます。毛皮の染色は、わたしは専門ではないので、いつもの自分のやったことのように100%の自信を持って書く事はできませんので、ご了承ください。
毛皮の染色の染料は、聞いたところによると特に毛皮用ということではないらしいのです。染色には酸性染料と酸化染料があるらしく、これは髪の毛も同じですね。このことについては、また次回お話することにして、今回は染色後の毛がどうなるか? そして、それをどうやって仕上げるかを書いてみます。
毛皮の染色後は、60~70度くらいのお湯のなかで染めるらしいので、熱がかかった状態で、おそらく、その毛皮を絞り、乾燥させるために、毛が上の写真のようにギラギラうねった状態になってしまいます。
染色濃度が強ければ強いほど、うねりがでやすくなり、さらに、そのうねりが取れにくくなります。このうねりは、簡単には取れません。熱をかけてなったものは熱をかけて直すしかないようです。
一般的には、その直し方や仕上げの完成度に違いはあっても、ほとんどの加工屋さんや工場では、この癖を多少は取ります。
某ブランドのチンチラコート
先日仮縫いがあり、某百貨店に行き、たまたま、某ブランドの前を通り、お~~っと驚きました。なんと染色してあるチンチラコートが、まったく染色でできた毛の癖をとっていないのです。ですから、その見栄えの悪さは、驚くほどのものでした。販売員さんも、出来が悪いと言っていましたが、しかし、何故、出来が悪く見えるのかは分かっていないようです。
チンチラは皮が弱いので、そのチンチラを加工する職人さんが、スチームをかけられなかったかどうかは解りませんが、まったく仕上げがされていません。
間違いなく、あのチンチラコートは毛の癖を取れば、今よりも綺麗な仕上がりになります。チンチラの毛の癖は、一般のミンクのようには簡単にとれないものもあり、さらに、元々、キャラクター(背中心部分の黒いところ)は毛のうねりのあるものが全体のなかで半分くらいあります。そのため、染色後も、そのうねりは残ります。
アトリエでは、このうねりを取ることができますが、一般的には特殊なアイロンや設備がないと取れません。あのブランドのチンチラコートも毛のうねりが取れれば見違えるようになり、価値もあがるのですが、とても残念な気がしますね。素材の本来の良さが出ていなく、とても、もったいないです。しかし、あのブランド力なら、なんでも売れてしまうのかもしれません。
毛のうねり(癖)を取る
下にある写真Bは写真Aを蒸気とアイロンで仕上げたものです。一般的には、当アトリエにもありますが、回転アイロン(ローリングアイロン)を使って、グレージングというように毛の癖を取ると思われがちですが、染色やなめしの過程で、毛がうねったものは、回転アイロンでは絶対に取りきれません。少しはましになるのですが、完璧に取るには、水分+熱+引っ張る力が必要なのです。
私たちの髪の毛が、水に濡れて癖がついたものは水をつければ直りますね。しかし、パーマで熱をかけて癖にしたものは洗ってもとれません。あれと同じです。染色後の毛の癖は簡単にはとれません
回転アイロンをする前に毛に水分を吹きかけてやれば、理屈上では直りそうな気がしますが、それでも、実際は直りません。
毛皮屋さんで一般的に使われている、ガンタイプのものでも少しはましになりますが、くどいですが、やっぱり100%はとれません。
写真Bは完璧に毛癖が取れていますね。これをさらにスチームをバランスよくあてて、一度伸びきった綿毛を縮れさせ、ボリューム感を出すのです。
こうして、本来の持つ毛の魅力・魔力を引き出して行けば、綺麗な毛皮になります。毛皮だから、どうやっても綺麗なのではありません。女性のお化粧と同じです。素材がよく、さらに、それを引き出すことが必要になります。
ひとつ、素人の方に、お伝えしておこうと思いますが、染めてある毛皮は、自分で多少のアイロンの蒸気をかけても縮むことはありませんが、染色していないナチュラルな素材は絶対にスチームを皮に届くほど強くはあてないでください。染色される毛皮はクロムなめしといって耐熱処理されています。だから、皮面に届くほど蒸気をかけても多少は大丈夫なのです。アトリエでは、皮裏面から強いバキュームで蒸気を吸い取り冷やしながら毛に熱をかけていますから問題が起きないだけです。そこは絶対に注意が必要なところです。
安易にスチームを使うのは厳禁です。
よくクリーニング屋さんで、同じことをやり皮が縮み、私のところに持ち込まれることがありますが、クリーニングのプロでも間違います。気をつけてください。
長澤
*関連リンク
毛皮のクリーニング(毛ぐせとり)
長澤祐一