毛皮クリーニングの問題点

やっと、昨年のものが終わり、ようやく新しいシーズンがスタートします。せっかく立ち上げたブログも二か月手つかずになっていました。

昨年始めたブログを読んで、お問い合わせいただいた、大切なお客様の大半がシーズンに間に合わず今シーズンまでお待ちいただいてしまいました。そのお客様にお詫びのメールをだし、やっと、今日から、また、始めることができます。

今日は、クリーニングについて書いてみます。毛皮は基本的には水洗いができません。理由はなめしの方法にあります。レザー製品のようにクロムなめしという手法ではなく、ドレッシングという手法でなめされています。

毛皮の場合柔らかさを出すために、この手法が用いられているのですが、このドレッシングというなめしがあまり水には強くありません。

水に漬け込む際に塩を適量入れたりして耐水の条件を作りますが、毛皮が古く少しでも劣化が進んでいると水につけただけで溶けていってしまうか、ボロボロになる場合があり、製品になって時間の経過とともに劣化が進んでいるコートなどは、水洗いなどは絶対にできません。

そのため、一般的には毛皮専門のクリーニングとしてパウダークリーニングという手法が使われています。詳しい溶剤の配合割合はわかりませんが、一般的にはオガくずに溶剤、その他を混ぜて使います。オガと言っても、毛皮用に作られたもので、粗いものから細かいものや、ふるいにかけてクリーニング用に細かいものだけを取り出したものなど、いくつか種類があります。

オガは、クリーニングだけではなく、なめし工場や染色工場でも頻繁に使われています。今回のクリーニングの問題点とは、このオガのことです。

毛皮を洗うには水洗いができませんのでオガにいろんな薬品、その他のものを混ぜ合わせて、タイコ(またはドラムとも呼びます)という、乾燥機のようなものにオガと一緒に入れて、ゴロゴロ回転させて、オガを毛皮の毛の奥まで入り込むようにして洗います。

オガを拡大してみると、細かい毛羽立ちがあるそうです。その毛羽立ちが毛皮のほこりや汚れをとり、さらにはオガに混ぜられてた薬品が毛皮の毛の奥まで入り、汚れを落としたり、においを取ったり、ほこりを落としたり、毛の艶を出したりするための手助けをしています。

ですから、裏地等の汚れがドライクリーニングのように汚れが劇的に落ちることはありません。あくまで毛皮の部分のみの洗浄効果しか期待できないということです。

そして今回のテーマである毛皮クリーニングの問題点は、この汚れを取るためのオガがドラムのなかで回転するうちに、裏地のなかにも入り込み、さらには毛皮本体の中に入ってしまい、袖口や裾にたくさんたまってしまうことです。最終的には、オガを落とす作業もしているはずですが、残念ながら大半のクリーニングしたコートには量の違いはありますがオガが必ず残ります。

場合によっては袖口や裾には触ってもはっきりとわかるほどのオガが残ってしまっていて、どうやっても取れない状態になっているケースもあります。さらに、タイコのなかで回転させるために、タイコのなかで何度も毛皮が叩きつけられる状態になります。

これは毛皮の皮を柔らかくしたり、無駄毛を取ったり、オガを毛のなかに混ぜて汚れを取るのには必要な作業なのですが、仕上がったコートは時間とともに劣化が少しずつ進みますので、場合によってはチンチラのように保管の仕方によって劣化の進みが早いものはドラムのなかで回しただけで皮が切れてしまうものもあります。

私たちがリフォームの仕事を受ける場合には大半クリーニングも自社アトリエでいたしますが、ドラムもかけていいものと悪いものを判断し、オガも使用します。

リフォームの過程で裏地を外す場合はオガを使い、それ以外はオガを使わずにドラムをかけ皮の柔らかさやほこりを落とし、毛の洗浄は手でじかに毛皮のふき取り作業をします。オガももちろん使ってやります。そうすることで裏地やコートの中にオガが入り込むのを防ぎ、そして、毛の奥まで洗うことができます。

裏地を外しデザイン替えをするような場合には、皮の状態を見てドライクリーングをする場合もあります。皮の脂が多すぎで劣化がしやすい状態のものも中にはありますので都度、判断をしながらドライするか、しないかを決めます。

一般的に毛皮製品で大事なのは毛の部分だと思われがちですが、毛は切れたりしない限り意外に丈夫です。劣化が進むのは毛よりも皮の部分がほとんどです。その以外に知られない、そしてお客様が気づかない、皮の部分を最良の状態にするのが私たちの仕事でもありますが、一般的には皮の状態に手をかける業者は少ないでしょう。

その理由は、皮の状態の判断には都度、とても大きなリスクが伴うからです。場合によっては皮が全部駄目になる場合もありますので、なかなか皮の部分に手をかけることが出来ません。

よく、リフォームをしても硬いままのコートや小物がありますが、あれも、加工段階で水を使い、その結果、皮に硬さが出てしまうためです。なめしの段階での脂入れも、基本的には手作業ですので脂の入り加減はすべてが均一とは言えません。

そのため皮によって脂が多かったり、もしかすると工場によっても違うのかもしれませんが、その脂の量が皮の劣化の大きな要因となるために、加工段階でも皮をしっかり判断し、脂が足りなくて硬いのか、またはその逆に、脂が多すぎで劣化が進み硬いのかで、加脂するか、ドライするかを決めなければなりません。

最後にひとつ、付け加えますが、従来のクリーニングが悪いということではありません。現状あれしか毛皮をクリーニングする手立てはないのです。

但し、リフォームをするならば、本格的なクリーニングは裏地を外した、このタイミングしかないとも言えます。ここが重要なことなのです。リフォームされる場合は、どの業者を使うにしても、是非、本格的な毛と皮のクリーニングをすることをお勧めします。

写真はおそらく、クリーニングのドラムによって劣化したチンチラコートの袖が切れてしまったか、もともと切れていた部分から、大量にオガが入り込んでしまったと思われるものです。

長澤

クリーニングの問題点

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