毛皮用スチーマー

今日は毛皮用のスチームという言葉で、よく検索されて、このブログに入っていらっしゃるケースが多いので、この「毛皮用スチーマー」というタイトルで書いてみます。

アトリエでも、以前はナオモト工業(株)さんが毛皮全盛期に作っていた小型ヒーターの付いたスチームを使っていました。これはガンタイプになっていて、美容室で使うドライヤーのような形をしていて、ガンの先にバネがついていて毛皮に先のノズルが直接触れないようにできています。

しかし、これは小物くらいのものを仕上げるのであればいいのですが、コートクラスになるとパワーが足りなすぎるのとガンタイプなので、要は一つのポイントしかスチームをあてられず、とても時間がかかってしまったり、ノズルの跡が出来てしまったりとコートをメインで作る私たちにとっては欠点が多過ぎました。

その後、ガンタイプから (さらに…)

モデリストI氏のいうの技術とテクニック違い

今日は前回のブログ記事に出てきたモデリストというテーマで書いてみます。私が本当にモデリストと尊敬するのは、以前、HBというアパレルの会社に在籍し、その才能が生かしきれないまま、今は退社されたI氏という方です。

私が毛皮をアルバイトで始めたころの30年くらい前のことです。彼はHBという会社を辞めて一時的に毛皮を勉強してみようとされていて、私が働いていた加工会社に入社してきました。その後、私も、その会社を辞めI氏も辞め、I氏は毛皮で一時独立をされました。私は、別のところでお弟子さんとして一時働き、その頃に、彼のところに、度々お邪魔して、仕事のやり方、考え方、彼の哲学も学びました。

I氏氏はそんなことは記憶にないでしょうが、私は必死に何かをつかもう、盗もうとしていたのを今も思い出します。

当時、彼の元で作業をして、今でも、印象に残っている言葉は、  めんどくさいということに慣れたおしまいだ、面倒くさいと思うなら簡単に出来る方法を考えろ  さらに、こうも言いました。技術とテクニックは違うと、、、 私は聴いた時、技術とテクニック?? 同じでは? と思いましたが、I氏が言ったのは技術とは会社に蓄積していくものであり、会社の中の誰でもが使えて、人が変わっても品質が変わることがなく続いていくものだと。テクニックは個人の技で、その人が辞めてしまえば、企業には何も残らないというものだ。それは技術とは言わない、、、と、厳しい口調で言い放ちました。だから、人が変わっても品質が変わらない技術というものを考えていかなければ考える意味がない。と熱い口調で語り続けていたのを今も思い出します。

その後20年以上もお会いすることがなく、三年前程に、また古巣に戻っていらっしゃるということを聞いて、直接、HB社に電話を入れて連絡がとれましたが、丁度退社する直前で、あ~~せっかく戻っても、また彼の大きな能力を使いこなすことができずに退社されるのかと思いました。

I氏は各方面でも、派手な知名度や活躍はされていませんでしたが、会ったかたは、おそらくほとんどの方が彼の能力の高さを認めていたのだろうと私は確信しています。モデリスト協会というのがあるらしく、そこに誘われたと言っていましたが、あまり興味もなく入ることはなかったそうです。私は、I氏こそがモデリストと呼んでまちがいのない高い能力を持っていたと今も確信しています。

最近、どこかの毛皮業者のサイトにて、女性の方でしたが(女性だからという訳ではありません)ファーモデリストとサイトに紹介されていて、おいおい、そんな簡単にモデリストという名前を使うな、、、と、苦笑いしたものです。私も長年、この仕事を学んでいますが、いまだ毛皮の分野においてさえも、I氏のレベルに達したとはいえず、道は深いと技術を知れば知る程、余計に不安にかられます。それほど、あまり一般には知名度のないモデリストという言葉ですが、その意味は広く深く、そして価値があるのです。

技術とテクニック、私にとってはI氏からいただいた永遠のテーマ。このテーマこそがパショーネの哲学である、あたりまえのことをあたりまえにこなすという思想につながっているのだと思っています。

下記の日本モデリスト協会のリンクにモデリストの定義らしきものが書いてあります。
http://ifashion.co.jp/jnma/modelist/background.html

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外注委託加工を使わない訳は?

当アトリエでは基本的には、アトリエで絶対に出来ない、毛皮のなめしや染色等の加工以外の縫製に関わる全ての作業はアトリエ内で行っています。一般的に毛皮部分の加工は工場内で行われ、残りのコートのまとめや裏地付け等は外注(下受けや内職)にまわることも多く見られます。

今日は弊社(PASSIONE)が全ての製造及びリフォームをアトリエ内で作成する理由と、外注委託加工に出さない理由をご説明したいと思います。

一般的に外注加工に出す理由がいくつかります。例えば、縫製機能を持っていないメーカーもそれにあたります。そして、縫製工場が外注委託加工を使う場合もあります。今回は二番目の縫製工場自らが外注加工を使うケースについて当社との比較をしながら書いてみます。

外注加工や内職に出す理由はいくつかあり、例えば生産が間に合わないとか、出来るだけコストを下げようとかが、その理由にあたります。

毛皮の職人さんのなかには毛皮しか出来ない人、または針仕事ができない方もなかにはいらっしゃいます。もの作りの完成度をあげようとするならばパターン、デザイン、染色、原皮、なめし、毛皮縫製、生地縫製、まとめ等の全てを熟知しているエンジニアのようなタイプの技術者が全体を仕切る必要があると私は思っています。

アパレル業界で言えば例えば、モデリストというような位置付けになるでしょうか。

余談になりますが、私はどちらかというと職人というよりはエンジニアであったりモデリストであったり、、、というようタイプを目指して、これまで仕事をしてきました。ですから、自分は確かに職人ではありますが、職人と呼ばれることには、あまりしっくりとこないのです。

話は戻りますが、アパレルではテキスタイルとパターンや縫製はアパレルというひとつの業種のなかに括られますが、業態としては少し距離があるようにおもわれます。ところが、毛皮は、生産数量が少量ということもあり、洋服に例えれば、一つの工場で生地もつくり、さらに同じ場所で形にする縫製を行うという流れになり、大半のことは一つの工場内で行われることが多いのです。

そんなこともあり職人さんの能力の大半は毛皮本体の部分を作ることに使われてしまい、かたちや風合いを表現する意味では以外に大切な最後の芯や綿入れ、それ以外のまとめ部分に、なかなか関われないことが多いのです。もちろん全てではないですが、そういう傾向も多くみられます。

私たちのアトリエでは、最終的な”求めるカタチ”や風合いを表現することに最後まで、とことん力を注ぎます。アトリエ内での作業は、価格に左右されないと言えば嘘になりますが、基本的には仕事を受けた価格に応じて、というよりも目の前にある問題や表現したいテーマに集中していきます。軽さや柔らかさが必要なデザインならば出来る限りのトライはします。場合によっては自分たちで皮を鋤くこともします。

都度、作りの途中でパターンも変更していきますし、加工の方法も様々に変化していくことになります。

そして、ここが以外に今回のテーマで大事なところですが、リフォーム等では、特に求められるのは、お預かりしたコートのデザインを替えて、さらに出来るだけ着丈を長く作りたいというような、作り手からすればかなりハードルの高い要望が、少なくありません。

例えば、元の毛皮のエリでで新たに作ろうとするデザインのエリが取れない場合は、エリ等を身頃の裾から取らなければなりません。そうなると、身頃を一旦最初の予定の長さまで出して、その後、エリを残った裾で作り、万が一、身頃を長くするゆとりがあれば再度、パターンを修正し、最終的に着丈を決定していくという臨機応変な作業が常に求められます。

更に、リフォームで最も大事な皮の状態は、作業をするなかで部分的な劣化を発見したり等、様々な問題が発生いたします。それを無視して求められたパターンに入れようとすれば皮は切れるか切れる寸前の状態になり、完成後にも大きな不安を抱えることになります。そんなときにはパターンを瞬時に変更し、使う水の量を控えたり、場合によっては水を使わない方法も選択しなければなりません。これは、現場で都度、毛皮の状態をみながらではないと出来ないということです。もちろん、気の効いた職人さんのなかには、お客様の要望を出来る限り聴いていこうとするひともいるでしょう。

しかし、外注加工の現場では、途中での作業の変更や段取り替え、またはパターンを都度修正するというのは、思ったよりも手間がかかり加工賃もあらかじめ決められているので、なかなか難しさがあります。パターンについても場合によっては外注であったりすれば、パターンメイカーは毛皮を見ながらパターンを引く訳ではないので、発注する側が、あらかじめゆとりをもった設定のなかで発注をしていきます。そんなこともあり、お客様との打ち合わせでは、この着丈が限界ですと言い切られてしまう場合も、おそらく少なくはないでしょう。

そんな意味からも、パターン作成から始まって、最終の仕上がりまでアトリエ内で行うというこだわりは私たちの理想であり、考え方(哲学)でもあり、外注加工を使わないという、ひとつの大きな理由です。

動画は、ヌートリアの皮の劣化を映しています。このヌートリアやビーバーは皮がしっかりしてる割に劣化が多いようです。このブログ記事でも何度も書いてますが、水がタンパク質に与える影響は大きく、通常のドレッシング(毛皮用のなめし)では特に影響があります。染色したクロム鞣しがされたものの劣化は以外に少ないということもあり、毛皮がどんな状態かを見て加工をしなければなりません。最初の映像は水に濡らすまえの皮です。ほとんど紙のような状態ですが、まだ強度があります。そして次の映像が水に濡らした皮です。もうほとんど、皮の繊維のチェーンが外れた状態で、紙を水に濡らしたような状態になっています。見た目、しっかりしている皮でも、劣化が進んでいる皮は水につけると、ほぼ映像と同じようになります。作る側にも常に大きなリスクがあるのです。

長澤


皮の劣化 – PASSIONE

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リフォーム品 | 保管の仕方考

今日はリフォーム品を承るにあたっての縫製以外での注意点を書いてみます。リフォーム品には多かれ少なかれ、毛皮にはほこりや汚れ以外に、香水、カビ、場合によってはダニなども付着している場合が多くみられます。コートから裏地や芯を外しているときにも、よく私たちの手や身体にかゆみがでることもあり、個々のお預かり品ごとに、かなり慎重な取り扱いをしなければなりません。コートを預かっている期間または加工期間は、常に他のお客様のお預かり品と触れることのないように厳重にカバーを幾重にもかぶせます。

その理由は、預かったコートには香水やカビ、さらには樟脳(きものなどを虫やカビからまもる薬)などの匂いが混ざり合って、とてもきつい匂いになっている場合が多く、隣同士にハンガー掛けしていると確実に匂い、その他のものも移ります。カビ等が一旦移ったら、まず取れないと思って良いでしょう。ですから要注意品は特に厳重な保管が必要になります。

アトリエでは全体をほどいて毛皮と裏地が外された後に、必ずドラムという毛皮の毛を落としたり柔らかくしたりする機械にオガと脱脂溶剤、さらに消臭剤を入れて余分な脂や汚れ、ほこり、匂い、さらに出来る限りのカビやダニ等の駆除を行います。

この記事を読まれて、同じことをされる方がいるかも知れませんので、念のためお伝えいたしますが、消臭剤は液体で水(H2O)を含んでいて、劣化しかけた毛皮の皮のタンパク質をその水分によってさらに劣化させることもありますので、ご注意ください。

基本的にはクリーニング用のオガには消臭効果もありますので皮の劣化状態を見ながら、消臭剤を追加するかどうかは決めるべきでしょう。

このようにして、一着ごとに一般的なクリーニング屋さんでやるパウダークリーニングと言われるもの以上のクリーニングをしていきます。そうしなければただ形が変わっただけのリフォームになってしまいます。もちろん、オガも通常の毛とりのときは再利用しますが、クリーニングの場合は都度、新しいオガでクリーニングします。余談ですが、パウダークリーニングしたコートのほとんどが裏地とコートの裾の隙間や袖口などにオガが入った状態になっています。おそらくオガドラムに入れて最終仕上げの段階でオガを落とし、さらにポケット等の中のオガを掃除機等で吸い取るのでしょうが、コートの中に入り込んでしまったオガは取りきれていません。時には裾や袖口に一杯入っているときがあります。

そういう意味ではリフォームの時以外に、徹底したクリーニングと皮のメンテナンスをする機会はないのです。よく裏地交換をする場合もありますが、あれはあくまで裏地のみを交換するだけで、芯を外して軽いものに付け替えるということはしませんので、結果としては完璧なクリーニングができる条件にはなりません。

そして、このクリーニング処理はリフォームが決定してお預かりした段階ですぐにやります。そうしないと保管期間に他のコート同士が触れ合い、匂いやカビ、ダニ等が他のお客様のコートに移るのを防ぐことができません。

あと、やれることがあるとすると、よく布団乾燥機のカバーのようなものがありますが、あの中で高温状態でダニ等を殺すことです。

しかし、やれるだけのことをやっても、100%取れるとは限りません。匂いなどは毛の表面はとれますが、毛の奥や皮のなかに染み付いたものは完全に取りきることができません。オガドラムをかけた直後は良いのですが、時間の経過とともに空気中の水分などと混ざり合い、匂いが出てきます。それでもやらないよりは格段に違いがあります。元の匂いのきつさはほぼ取れると私は考えています。

このように、リフォームをするには、小物クラスのリメイクならば問題がないでしょうが、着用するものに再度作り替えるならば、毛や皮の状態を出来るだけ綺麗な状態に戻す必要があるでしょう。

そして、毛以上に注意しなければならないのは皮に入っている脂の状態です。少なくて、このまま放置すれば、間違いなくパリパリと紙のように劣化していく皮か、もしくは脂が入り過ぎていて、そのため空気中の湿気を吸収してしまい、皮のタンパク質を壊し劣化が進むのかをよくチェックして脂を抜くのか足すのかを都度考えなければなりません。

毛についてもただオガドラムをかけただけでは本来の美しさにはなりません。毛の癖や縮れをとったり、スチームで毛のボリュームを出したり、汚れた髪の毛が生え際で束になってしまうような状態が毛皮にも起こりますので回転アイロンで毛の根元からサラサラにしたり、つや出しの薬品を場合によっては使うなど、やることはたくさんあります。

一般的にはお客様との打ち合わせではデザインや作り方に話が集中しがちですが、リフォーム品としてお預かりし、仕上がり品になるまでには、目には見えませんが、メーカーとしてやらなければならないことがたくさんあります。そして、この難しいリフォーム品の保管は社内から一歩も外に出さないことが条件になります。その理由は、外注加工にでれば、社内アトリエと同じ保管条件を求めるのは難しいからです。

写真は皮の脂が黄色く変色してきたものを半分カットして、脱脂をしたものをもう一度縫い合わせたコートです。写真は触ってみることが出来ないのでわかりませんが、皮の柔らかさも違います。脱脂していない黄色い皮は表面に湿気が残り、硬さもあります。ただし、全てのコートで脱脂すれば良いということではありません。中にはドライ(脱脂)をしたあとはすごく柔らかいのに、加工段階で硬さや劣化が出てしまうことがありますので皮をよくチェックする必要があります。

長澤

 

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毛皮用ミシン(カップシーマーミシン)

今日は毛皮を縫うミシンのことを書いてみます。毛皮のミシンは一般的にはカップシーマーミシンと呼んでいます。日本名で巻縫いミシンと呼ぶ人もいます。

カップシーマーミシンを作っているメーカーはストローベル(ドイツ)、リモルディー(イタリア)、サクセス(イギリス?)、ボニス(アメリカ)、ポーカート(不明)、トレジャー(日本)、チャンピオン(日本)というように多数のメーカーが毛皮用のミシンを作っています。

私は、このなかでポーカートという高速用のミシン以外は全て使用したことがあります。今、仕事で使っているのはリモルディ社(Rimoldi)のミシンとチャンピオンという細井ミシンという会社が作ったものです。細井ミシンはもとは多分ボニスのミシンパーツを作っていたという話を聞いたことがあります。当時、国産で自動給油のタイプがなかった時期に自動給油を売りにした国産初のミシンです。その後トレジャー(奈良ミシン工業株式会社)が自動給油を作りましたが、毛皮産業自体が、バブル崩壊も重なり、その後どんどん衰退したこともあって、新たに新機種がでることはありませんでした。

毛皮用のミシンは本体の中にあるカムといくつかのパーツで出来ていて、他の本縫いミシンのように複雑ではありません。その分、調整する部分は限られています。そこが一番問題になります。わずかなパーツを前後左右上下に動かすこととカムとの関係で全てが決まります。動かすところは限られているのですが、それでも、大げさに言えば何千通りもの組み合わせ位置(設定)があり、限られている分、調整の壁にひとつぶつかるとなかなか解決しません。

それくらい難しいのです。原因はルーパーや針のセッティングだけではなく、ルーバーの大きさや形状がミシンごとに違い、カムも当然違う。さらにカップの高さもミシンによっては0.1mm単位を手動で設定しなければなりません。私が使っているリモルディ二台も微妙に縫い加減が違います。糸の締まりの強さや強く絞めて糸が切れる限界点もそれぞれに違いがあります。

今日は私の使っているメインのミシンを写真にて紹介します。私がたくさん使ったなかで、行き着いたミシンはリモルディというイタリア製のミシンです。カップシーマーの中では小さい方ですが、値段は結構します。一般的な工業用の本縫いミシンの新品価格の1.5倍くらいします。それもヘッドだけです。モーターもテーブルもつかずに、そのくらいの値段がします。毛皮用は扱うものが高いからか、それとも売れる台数が少ないからかわかりませんがとても高額です。

写真①のパーツは細井ミシンさんに特注で作ってもらった定規の上下を都度ドライバーでやらずに手でネジを回し高さの調整が出来る仕様に作ってもらった部品です。写真②はこれも特注で作ってもらった部品で毛をエアーで入れる装置です。モーターの下にペダルがあり、そのペダルに同期してエアーが吹き出すオンオフが切り替えられます。

モーターは停止位置自動検出器付きの電磁式モーターです。クラッチがなく素人でもコントロールしやすいモーターです。国内の一般的な職人さんが使っているのはクラッチ式モーターで、いまどきアパレルでは皆無に近いほど見ることはできません。私は韓国の工場に一度行ったことがありますが、30年くらい前でもすでにクラッチモーターなど使っていませんでした。こんなところを比べても、国内の毛皮の工場が海外に置いて行かれるのは致し方ない気もします。

話はもどりますが、このエアーノズルは自由に曲げることができ自分で好きな位置にセットでき、さらに使わないときは脇にノズルを移動することもできます。私たちのように、毎日同じものをつくるということがなく都度、セーブルやチンチラ、アーミン、ロシブロ、ミンクというように素材や加工方法が変わるアトリエでは一台で多機能なミシンが求められます。そんな意味からも、こんなミシンのセッティングに必然的になってしまいます。大昔ならレットアウト専用のミシンもあってもよかったのかもしれませんが、今はPFAFF3560を使えばいいので特にレットアウト専用のミシンはいりません。

とにかくこのミシンをいじりだすと一日はまってしまい、結果、もっと悪くなることもあり、そうとう気持ちと時間にゆとりのあるときでもないと調整に挑む気にはなれません。

長澤

補足 最近、トレジャーのブランドで販売しているミシンでサクセスのロゴが入ったものが売っていました。トレジャーがサクセスの代理店になったのかどうかはわかりませんが、確かにサクセスのミシンでした。私は以前、サクセスの自動給油タイプも持っていましたが、私には、いまひとつだったような気がします。サクセスはどちらかというとオールマイティーなミシンです。

私が使っているリモルディのよさは縫い目が綺麗に揃うというところです。その効果は、縫い目がそろっているということは後々の糸のゆるみが起きないということにもなります。一般的に他のミシンはルーパーのサイズや動きが大きく、その分針が手前に出て糸を絞めた最後に残る糸の長さが多くなり、その分糸の絞まりがまばらな状態になりやすいのです。しかし、リモルディはほとんど、糸が余らない縫い目なので最後にルーパーで絞める糸が左右にぶれることがなく、最短で締まります。これが私が選ぶ理由です。ドイツのストローベルも散々使いましたが、イタリアっぽくない、精度の高いこのミシンが私は好きです。

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ホワイトミンクマフラー

今日はストレートのホワイトミンクマフラーについて書いてみます。素材はアメリカンミンク/メスの4サイズです。以前はメスのミンクは3サイズが主流でしたが、今はその上の2サイズが全体のなかで大きな割合を占めています。中にはメスで1サイズや0サイズもあります。

今日のミンクは今では珍しいメス4サイズです。このミンクはサイズは小さいのですがアメリカミンクらしく毛のボリュームは素晴らしい逸品です。そして、サイズが小さいぶん、毛質もとても柔らかく刺し毛も短く、素晴らしい肌触りです。人間の肌も、男性より女性、大人の女性より赤ちゃんの肌が柔らかい、、、というようにミンクもオスよりメス、大きいサイズより小さいサイズのほう、、、というように毛質は繊細になります。 (さらに…)

リフォームにおける刈毛加工(シェアード加工)の問題点

先日、コメントにリフォームの問い合わせがありました。お問い合わせありがとうございます。メールにて返信いたしましたが、メールが拒否されており受け取っていただけない状態にあります。お問い合わせにつきましては出来る限りメールにて、弊社の解る範囲で回答をしております。そのためどうかメール受け取れる状態にて、再度、お問い合わせいただきますようお願い申し上げます。

今回はメールが受け取っていただけないので、当ブログにて掲載できる内容のみを出来るだけ詳細にお答えしてみます。

さて、今回のお問い合わせ内容は

「毛皮マントコート 着丈83センチ 裾一周270 シェアード加工して頂いたら、おいくらですか?」

でした。この問い合わせ内容で、今出来るだけの回答をしてみます。お問い合わせ内容に素材名が書いてありませんので、とりあえず素材はミンクであろうということを前提に回答いたします。

結論から申し上げますと、あまり、お勧めは出来ません。

理由:

刈毛加工をするために一度、裏地、全ての付属を外し、さらにコートもパーツごとにばらし、身頃、袖、エリ等全てのパーツ状態にし、さらにダーツ等もほどき全てのパーツを平らな状態にしないと刈毛加工ができません。

さらに刈毛加工段階でそれぞれのパーツの細い角の部分などはちぎれてしまい毛が短くカットされてしまうことが多いために、角の部分のすべでをレザー等を縫い付けて角の状態をなくさなくてはなりません。そのため、デザイン替えの刈毛加工よりも手間がかかり、その分加工賃も割り増しになります。現状維持のデザインのままでは元に100%戻すのは、以外に難しいのです。

それと、加工賃も一度全て、バラバラにしたものをもう一度形にしていくので手間は最初から作るのとほぼ同じ手間がかかり、一般的には高額になりがちです。金額はここはブログ記事ですので触れませんが、見た目の変化よりも高くつくケースが多いと思います。結果的に刈毛加工しかしていないにも関わらず、高額になるため仕上がりと価格のバランスがとれず、あまり現実にビジネスにはなっていないように思います。

ですから、一般的には料金は上がりますが、デザインを新しくするか、もしくは表生地の中にライナーとして刈毛した毛皮を使うというリメイク的な受注になることが多く見受けられます。そのため、最近はリフォームの業者さんも刈毛加工は料金表からも消えているケースが多く、刈毛して、そのままのデザインに戻すことはほとんどないように思います。

そして、刈毛加工そのものに、問題が多く含まれることもあり、おそらくクレームやトラブルが多過ぎて、メニューから除外されてしまったのだと思います。

仕上がりについて少しコメントします。

一般的には刺し毛のついたミンクを刈ることによって、中の綿毛の色がハッキリしてきますので、最初に作る技術者がよほど、綺麗に色を合わせていない限り、なかなか色が綺麗に仕上がりません。刈り上がった状態を見ると8割はそのままでは使うことができません。毛皮をほどき並べ替えたりしないと綺麗にならず、そのままのデザインに戻すことは不可能に近い状態になります。

当社は、リフォームが専門ではなく、お客様やお取り組み先様へのサービスの一環としてリフォーム、リメイクをしておりますので点数は多くはありませんが、私の経験上では刈毛して、そのままの使えるほど綺麗なものは、これまででも、3点くらいなものです。もちろん、どのレベルを基準にするかということもありますが、私の基準では数点でした。もちろん、値段が高いものが良いかというとそういう訳ではありません。あくまでそのときに使われたバンドル(毛皮の束)の色が揃っていたとか、作られた職人さんの技術が高かったとかいうことが仕上がりに一番影響を与えます。

余談になりますが先日も、毛皮業界では有名なビスカルディというブランドがあり、そのミンクコートのリメイクをしましたが、もとの価格が高額なこともあり毛質は素晴らしいものでしたが、色は刈ったら駄目だろうなというようなレベルでした。幸い、刈るリメイクではなく、素材はそのまま生かすというリメイクでしたので大きな問題もなく綺麗に仕上がりました。要は買った値段が高かった、イコール、刈毛してもOKにはなりません。

そんなこともあり、一般的には表の毛皮としては使うことが出来ずに仕方なく中のライナーとして使うことが多かったのだと思います。

さらに、一般的な刈毛の加工したコートは毛流れが逆毛で作られていて、そのために黒であれば、漆黒の黒というように深みのある黒になります。毛の向きが見る方向や光の方向に対して向いているので光を反射せず色に深みをもたせます。しかし、お客様のケープが万が一、普通の並毛(上から下に流れる)で作られているものならば、一般の商品とは毛の流れが逆になりますので、毛の反射があり、黒でも白っぽくみえるようになります。ですから、写真でみている刈毛のコートと同じようにはみえないのが現実です。

マントの加工方法がレットアウトという細かくカットして縫い合わせているものであれば、縫い目のラインが刈毛することによってはっきり見えてきます。これも、マイナス要因の一つです。

さらにリフォームの場合はカットの毛の長さですが通常は7~8mmくらいで刈ります。理由はすでに縫い目があるのであまり短くすると縫い目がしっかり縫えていない場合、粗が見えてしまいます。商品は一般的には最近は短くなる傾向で当社では6mmくらいです。ただし、リフォームの場合は、メスのミンク等、毛のもともと短いものは頭の毛の短い部分につきましては刺し毛が刈り切れず少し残ってしまいますので、これも問題の一つです。

以上が、すでに商品化されたコートを刈毛するということでの一般的は問題点です。今回のお問い合わせにあたり、他社のサイトもいくつか見ましたが、刈毛のみをしてデザインはそのままに戻すという加工方法での料金表は見当たりませんでした。

上記のいくつかの理由で、仕上がりの割にはお値段が高くつきますので、今回の加工は私どもではお勧めはいたしません。万が一やるというところがあるかもしれませんが、私が書いたいくつかの問題点を業者さんにぶつけてみてください。まともに回答できないところでしたら、その業者さんはお勧めはできません。

お勧めできるとしたら、プラクト(抜き毛加工)でしょう。今のデザインが気に入っていらっしゃるのであれば、形はそのままで刺し毛だけ抜くことができます。価格もおそらく刈毛するよりは安く済むはずです。その理由はプラクトは全て手作業でコートそのままの状態でできるからです。裏地を外したり毛皮をばらしたりすることなくできます。ただし、上の文でご説明させていただきましたが、色については加工前によくチェックしてもらう必要があります。刈毛よりはチェックは甘くしても少しは大丈夫です。これにつきましては説明が長くなりますので省きます。

ひとつ、注意しなければならないのは、マントのミンクのタイプがヨーロッパのものかアメリカタイプのショートナップ(刺し毛と綿毛の長さの差が少ない)のものとではプラクトの手間が大きく違いますので価格も違います。さらに付け加えるならば、アメリカンタイプの綺麗なみんくであればカットしたりプラクトしたりすることはお勧めしません。理由は刺し毛のついたミンクそのものに大きな価値があるからです。

一応、今回のお問い合わせで回答出来るのはここが限界でございます。これで、解らないところがございましたら、再度ご質問頂ければ助かります。何度でも、お答えいたします。次回は写真等がありましたら、もう少し具体的な提案もできるのかもしれませんので是非写真も添付して頂ければと思います。

長澤

追伸:写真は一般的なレットアウト加工したミンクコートを刈毛加工(シェアード加工)をしたものです。これは見てもらうと解りますが、刈ってもとても色がそろっていて綺麗な仕上がりです。このクラスはなかなかありません。これはレットアウトの縫いもしっかりしていて、色合わせも綺麗です。これだけ見ても作った人の技量がわかるコートです。このクラスになると、刈毛以外のどんな加工をしても綺麗に仕上がります。(長澤)

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回転仕上げアイロン(ローリングアイロン)

当社のアトリエのコンセプトに一般的な毛皮縫製工場にない設備をそろえていますと謳ってますが、ちょうどいいコメントがあったのでご紹介いたします。

確かにこの回転仕上げアイロンはなかなかありません。特に日本の毛皮加工工場では価格が高額なのとスペースも結構とることもあり、なかなか導入が出来ません。

しかし、これがあると仕上げのみならず、加工の途中でもいろんな使い道があります。特に最近多いシェアードミンクや抜き毛(プラクト加工したもの)などの素材では、とても有効です。リフォームの記事でも書いていますが、毛皮も人の毛髪と同じで湿気で縮れたり、艶がなくなたり、根元からべたついたりと様々な現象が起きます。特にリフォーム品は時間の経過とともに空気中の湿気で、抜き毛関係の毛皮は全て毛が縮れてしまい、最初の透明感はまったくなくなり、ぼそぼその状態になります。

当社が一般のリフォームと差別化するひとつに、毛質をしっかりと元に戻し、本来の毛の輝きを出そうとしてることがありますが、それをするにはこの回転アイロンが間違いなく必要になります。そうすることで、ただ、形を変えるだけのリフォームに終らずに、毛質もリフレッシュするという、お客様が本来気がつかないところにまで手をかけていくことができます。

このアイロンで仕上げをすると、必ず、ワ~~~っと言わせることができます。一般的にはチンチラを触った方が、その独特な柔らかさに感動の声をあげますが、仕上げをしたミンクでも同じように感動させることができる、そんな機械です。人間が何回アイロンをかけてもブラシをかけても、まったくかないません。実感してみたい方は会社までご来社ください。

ビデオに映っていらっしゃるのは細井健一様で、毛皮業界のなかでも有名な方でいらっしゃいます。ビデオでも解るとおり、とても毛皮に対して知識が深く、細井氏は日本人で唯一、国際毛皮連盟の理事を8年間任期を努められた方です。

長澤

↓ おしゃれファー最前線 毛皮のローリングアイロンでメンテナンス
http://ishiifur.blog101.fc2.com/blog-entry-289.html

細井健一様 インタビュー動画 YouTube

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コラボではなく調和

アトリエの紹介のところにも書いてありますが、デジタル化すると便利な部分も多くあり基本的には絶対にすべきだと思っています。しかし、最近やり過ぎることで効率を上げるためのデジタル化が効率を悪くしてしまうこともあり、一度、大きく見直すべきときだろうと判断し、取り組んでいます。

例えば当社アトリエで、なくてはならないCADですが、最近、見直さなければと思うことがひとつあります。CADはデジタルそのもので、長さの単位は0.1mm(アパレルcadでは)まで表示します。これがくせ者です。

普段、私たちのアトリエが使う、紙ベースのパターンでは0.1mmまで計ることはありません。というよりも鉛筆の太さが0.1mmの区別が出来る線が描ける訳ではないので、当然0.1mmの表現はできません。しかし、CADだと小数点第一まで表示しますので、どうしても全てのパターンの寸法を一致させようとしてしまいます。CADを操作していると、どうしてもそこまで拘りたくなります。

パターンを作るものの性とでも言えばいいのでしょうか、普段紙ならわからない誤差が気になってつい修正しようとしてしまいます。受注品については拘らずにやってみようと思い始めたところです。原型については、その後の展開で、そのわずかな誤差が大きな差になりかねないので合わせるしかないのですが、一般の作業については気にせずにやってみることにしました。

CADだけではありません。一般のデータ入力でも、ついつい正確に記録をと思っていると以外に時間も無駄にしてしまい、さらに一つのデータをついつい複数記録をしてしまい時間を無駄にしてしまいます。例えばスケジュール管理、納期管理、作業日程等、書き出すとあっちもこっちもです。そして、以外にデジタル化したはずが、入力ミスや転記ミスで大きなミスが出たりします。データを記載するためのファイルの一本化を徹底してしないと、逆にミスが多くなります。

そして、データの記載場所が一本化されないことで、アナログの道具と同じように、どのファイルに書込んだかを探す結果になり、デジタル化が無駄な時間を作ってしまいます。アナログの道具は目に見えますが、ファイルは見えないので検索してもでてこないときもあり苦労して探します。

最近、このいくつかの落とし穴から、なんとか抜け出そうともがいています。アナログとデジタルのコラボを目指してましたが、今はコラボではなく調和です。

写真は愛機マックプロです。これはほとんど仕事では使ってません。ブログを書いたり、ギターのプロツールス等に使っていて、スピードも早くとても気に入ってます。いまだに解らないところがありますが、とりあえず使えてしまってます。このとりあえず使えてしまってるというところがマックらしい感じがしてます。いまだに本来のdeleteキーの使い方が出来ずにバックスペースとしての使い方しか出来ません。このマック、思いっきり二度程落としてしまい、本体が凹んでますが、まったく壊れる様子がありません。我ながらいつもそうなのですが、大事に使うというよりも使い倒してしまう傾向にあり、もう下取りもしてもらえる状態ではなくなってしまいました。

長澤

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アトリエの配置換え

今日は道具の片付けについて書いてみます。最近、アトリエのなかを大幅に配置換えをしました。これまでは島精機のSDSーONEが私の作業位置から少し離れていましたので、今回はこのCAD/CG専用機を私の作業台としている大きなバキューム台やミシンのすぐそばに移動しました。

これによって、毛皮を作りながらパターンを作成する、またはその逆にパターンを作りながら毛皮を加工するという、常にパターンと毛皮の加工方法が一体となり同時進行の作業ができるようになりました。

そして、このブログ記事も仕事をしながら思いついたことをすぐ書くということもできるようになり、わずかなアイデアももらさず書き留めることができています。

今日の写真は作業台の横に道具を片付けられるようにしたものです。25年くらい前になりますが、埼玉県の栗橋町というところに住んでいて、独立する前の会社で働いていた頃、何故か私は社長の息子ではないのですが、町の商工会青年部というところに入れられてしまい、さらに、そこには小峰工業株式会社という会社の小峰陽吉社長というかたがおられ、その小峰社長が中心となり、工業現地研究会というものを開催し、青年部もそこに属し勉強会をしておりました。

栗橋町という小さな町の勉強会でしたが、この小峰社長(現在は会長)のちからのすごさは今も記憶に残っているほどです。今は小峰会長はネットで調べたら財団法人 アジア学生文化協会というところの非常勤理事をやっていらっしゃるようで、蒼々たるメンバーのなかで会長の名前をみつけたときには、つくづくいいひとに教わっていたんだとあらためて思いました。

そこで学んだものは、当時のトヨタのジャストインタイムはもちろん、それ以外にもコンサルタントの先生がきたり、各参加企業の仕事場をみたりと大変勉強になったことを思い出します。その勉強会のなかで、4Sという言葉を聞き、その内容は整理、整頓、清潔、清掃 で四つのSからとったものでした。さらに、それを進化させた形に、5Sというのを習い、それはこれまでの四つのSの中心にくるという、躾の頭文字からとった5個目のSでした。

如何に、4Sを謳っても、それを実行する躾がなければ4Sは機能しないということが研究でわかったということでした。何を隠そう私もこの躾に苦労しております。もちろんスタッフの躾ではなく、私自身の躾がいまだに発展途上の段階で、毎日片すべきところに片せずにおります。

こんなことで少しでも、片付けが上手くなり、自分を躾けることができますようにという思いで、作業台の横に、この道具片付け位置を作りました。もちろん効果ありでした。ものをいくら片付けろと言っても、そこに片付ける合理性がないと、なかなかひとは片付けてくれません。整理整頓ではなく、以外に、ただの整列になっている場合が多いのです。合理性を持たせる整理整頓はなかなか難しいものです。しかし、はまるとここしかないという感じになり、片付けることが気持ち良さに変わります。

追記 まだやれてないですが、本来は道具を掛ける板に道具の形のラインを描くと完成です。そうすれば誰でも、どこに片付ければよいかがわかります。この誰でもわかるというのが大事なのです。

長澤

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