毛皮のクリーニング 

最近、リフォームのときにクリーニングをやっていると謳うサイトがいくつかあります。確かに、リフォームのタイミングが一般的なクリーニング以上に効果的ではありますので、サイトに謳う分には問題はないと思います。

しかし、その内容については、よく吟味しなければなりません。クリーニングの内容がまったく書いてないサイトがほとんどなのです。

さらに、毛皮のクリーニングの専門業者のサイトでも、あれもできます。これもできますとホームページトップでは謳いながら、深く掘り下げて読んでいくと、様々な条件をつけて、あれは出来ません、これも出来ませんと、少しリスクのあるものは全部できませんと避けて通ります。

確かにリスクは理解できます。しかし、プロである以上、ホームページのトップで謳っている以上、もう少し踏み込んだ仕事をして欲しいものです。

香港からの毛皮のクリーニング依頼

今年、香港在住の日本人の方から連絡があり、毛皮が硬くなってしまって、これを治せないだろうかというお問い合わせでした。内容をよく聞くと毛皮のコートを洗濯機で洗剤を入れて洗ってしまったということでした。

毛皮はサファイアかバイオレットか少し黄ばんでいて判別がつきにくかったのですが、おそらくサファイアミンクではなかったかと思います。ナチュラル系の染色加工のされていない毛皮は水に弱いということは以前、何度も書いていますが、クロムなめし加工処理がされていない毛皮は水にずっとつけておくと酸膨潤を起こし、劣化してしまいます。

洗濯時間が5~10分くらいだったようで、さすがに毛皮はカチカチでまったく柔らかさはなくなり、着れる状態ではありません、ダンボールのような硬さでした。

ここまでなると、治るかどうかは、やってみないとわからないので、お客様にはリスクがあることをお伝えして、お引き受け致しました。

カチカチになったコート

カチカチになったコートのまずは、裏地・付属等をすべて剥がして、各パーツ(身頃・袖・エリ)ごとにバラして、一番ダメになってもよい、裏エリで柔らかさが戻るのかを試してみました。

カチカチに硬くなった裏えりに、シリコン系の柔軟剤をスプレーで少しずつ染み込ませます。水は出来るだけ避けたいので、アルコールに溶かしてアルコールの浸透能力を使って染み込ませます。入れ過ぎないようにしながら、少しずつ柔軟剤を入れていき、この状態で皮を手で揉みほぐし皮の繊維が動くかどうかを確認します。

今回のコートは元々の状態が年数の割には良かったようで、繊維が少しずつ動き始めました。これを自然乾燥させて、また同じことを繰り返すうちに、繊維の奥まで柔軟剤が入っていき、徐々に柔らさがでて、毛皮もどんどん伸びる状態になりました。

裏えりで可能性があることを確認し、お客様にも状態をお伝えした上で、コート本体を柔らかくしてクリーニングすることを始めました。

ただ、ここで注意しなければならないのは、皮に入れた柔軟剤は繊維の滑りを良くするために、とても大量に入れますので、最終的には有機溶剤とオガで洗わなければなりません。柔らかくなれば良いということではないのです。

必要以上に入った柔軟剤は界面活性剤と同じで、空気中の水分をスポンジのように吸収しやすく、毛皮の皮の部分が水分を吸収すると、どうしても皮の脂分の酸化が進みます。これによって、皮の表面が黄ばんだり、皮の劣化が進行する原因にもなるからです。

これらの作業で使う、有機溶剤やオガの量も通常に使う量に比べ、大量に使い、さらに、毛皮に香水や強い脂分の汚れ等があるものが、ほとんどなので、オガの再利用は出来ません。香水や化粧品の匂いが着いたオガを他のお客様のコートに使うと、匂いを吸収したオガから逆に別のお客様のコートに匂いが移るからです。

毛皮のクリーニング

以上、今回のお客様の毛皮のクリーニングの流れをザクッと書いてみましたが、プロの業者としてクリーニングをしていますと自社サイトに謳うならば、これくらいのことはやれないといけません。ただ、手で毛の表面を拭き取るくらいでクリーニングをしています等というならば、それは詐欺に近いと私は考えます。

自分もブログやHPを友人の力を借りながら運営していて最近思うのですが、サイト内を綺麗な写真で飾り、やっていないこともやっているといくらでも書ける、このネットのなかで、どうやったら信頼性、信憑性を勝ち取って行けるかと、とても悩みます。

今回の、このお客様のコートはクリーニングを終了した後に、香港からご来社いただきましたが、リメイクは香港のほうが価格が安いこともあり、香港でやりたいという希望を尊重し、クリーニング代金だけをいただき、お返しいたしました。

写真はお客様から、最初にいただいた写真で、動画はクリーニング後にお客様に状態を見せるために撮ったものです。

日々、ブログを書くために仕事をしているわけではありませんので、特に写真も効果的なものは撮っておりませんが、信頼できるかどうかは記載した内容にて、ご判断いただければ嬉しく思います。

長澤祐一

 

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