2023年2月19日
今日は前回の続きで染色の補助剤について書いてみます。
プロがどんなものを使っているかは、ほとんどわかりません。少しだけ経験者の方に聞いてそれ以外は自分で調べたものです。
毛皮を染めるのにプロが使っているかどうかは分かりませんが、染料店で聞きかじりながら購入して使ってみて、これは良いと感じたものは湿潤剤というものです。
湿潤剤とは、毛皮の毛や皮の部分にしっかりと水が染み込んでいくようにするための助剤です。
プロは大きな桶に入れて何時間も漬け込むのかもしれませんが、私のようにテスト染めや染めても数本という場合には、何時間も水に漬け込み毛に水が均等に染み込むまで待つことができません。そのため最初は水を染み込ませて手で揉むようにして毛の一本一本にまで水を染み渡らせることをしていました。時にはブラシをかけたりして毛をほぐすようにしてやりました。
しかし、毛皮の毛は理論は分かりませんが、水を弾きやすくなかなか均等に毛の一本一本の奥まで染み込んでくれません。水や雪の中で生き抜くことを考えれば当たり前のことですが、きれいに水が染み込まないのです。
それを湿潤剤というものを使うと、ほぼ一瞬にして毛が水の中でフワーと馴染んでくれるのです。
なぜそれが必要かというと、綿毛が小さな束になったまま染料を入れてしまうと、小さな束の中まで染料が入りきらずに、結果として仕上がってから、その束がほぐれたときに染まってない部分がでてきて色むらになったりします。
一見たいしたことには感じませんが、染色前工程としてはすごく大事なことだったのです。
それともう一つ、均染剤というタイプの助剤があります。
均一に染めるための薬品ともいえますが、使い方は難しいのです。
均染剤は読んで字のごとしで、均一に染めるという意味の助剤です。しかし、使い方を間違えると逆に色が染まらなくなってしまいます。
理屈は分かりません。アルカリ性に傾くのかどうかは分かりませんが、大量に使うと吸着した染料が落ちてしまいます。酸性染料ということもあり、酸性に傾くと染料が入りやすくなるという性質を使って、ギ酸などを使い染料水を酸性にして染料を吸着させるというものですので、アルカリ性に傾くとせっかく吸着した染料が落ちてしまうのです。
よく、素人のかた(すみません自分も素人ですが💦)に私のようなものが染色をして色落ちしないか?と聞かれます。染色に対して理解がないと色が落ちてしまうと考えがちですが、酸性にして吸着した毛からの色落ちはしません。
落ちるとすれば、完全に吸着せずに付着状態になっている場合には色落ちします。私が経験した限りでは酸性によってキューティクルが開き着色したものは色落ちはしないと実感しています。
この均染剤は色むらを防ぐと言われていますが、例えばこういうことです。
仮に、染料の入れ方を間違えて、いきなり一部分に染料を入れてしまったときに、当然ですが、一部分に色がついてしまいます。しかし、均染剤が入ることによって一度毛についてしまった染料が水に溶けだして染料にバランスよく混ざって再度、酸をいれることで毛皮全体に吸着していくということができます。
均染剤を使わないと、一度、間違って毛皮についてしまった染料は落ちることなく、その部分は色むらになります。ということは染料を入れるタイミングや入れる方法はとても難しくなるということです。
それを少しでも安心して染料を入れられるように均染剤があります。
ただ、この均染剤の濃度や入れるタイミングもとても微妙で経験が必要でした。私もかなりの時間とテストを重ね今の方法をみつけたのです。
この均染剤の濃度を上げて使うと、染色した毛皮の染料を落とすことにも使うことができます。ただし、あまり強すぎてアルカリ性になりすぎると毛よりも皮に悪い影響があるようなのです。
化粧品でもよく弱酸性、、やアルカリ性という言葉が出てきますが、肌にも影響があるのと同じく、毛皮の皮の部分にも大きな影響があると聞きました。
最後に染料を吸着させるための酸について書いてみます。
私は最初は酢酸を買って使いました。ただ、一般のアマゾンとかでは酸度の強いものが売っていなく、染料店で蟻酸を購入して使っています。気を付けて欲しいのは、鼻を近づけて匂いを嗅ぐようなことはしないでください。一般の酢と違い強力な匂いがします。もちろん手に付けることもしないことです。慎重に扱ってください。劇薬とまではいきませんがとても危険です。
使い方は、染料を毛皮と馴染ませてから使いました。あくまで私のやり方ですが。
染料のなかにいきなり原液を入れるよりも、一度、染料をカップに取り出して、そこに蟻酸を入れて濃度を薄めてから、染色浴のなかに壁づたいに少しずつ入れていきます。
この辺は大量に染めるプロの方とは違うかもしれません。
インスタグラムで私のフォロワーのなかに海外の染色業者さんがいます。その動画では専用のドラムの端に染料を入れる容器があり、そこから少しずつ入れているものがあったり、いきなり染料を溶かすこともなく桶のなかに入れたりと、丁寧だったり乱暴だったりといろいろなやり方でやっています。
こんなものを見ると、やはり毛皮の染色の色の正確さはなかなか難しいだろうなと感じます。
というか、毛皮の染色とはその程度のものなのです。100万分の1の色なんて求められていないのと、求められても、そんなの無理!!と簡単に言えてしまうのです。
それが、毛皮染色の標準の考え方です。
逆に言うとそうしなければ仕事として受けられないからです。
しかし、今回は毛皮の染色とはそういうものなので多少の違い(多少ではない)は勘弁してくださいと言えるような色ではなく、すごく難しい色でしたので、素人の私が半年かけて挑戦してきたのです。
そしてようやく辿り着いたところで、この投稿を書くことにしました。
いつも書いていますが、もうこうなるとコストとか時間とかとは別の次元になります。
出来るまでやるのです。出来るまで諦めずにやるしか方法がないのです。
次回は、染料の色を作る計算式等について書いてみます。
長澤祐一