2012年10月25日
今日は毛皮を縫うミシンのことを書いてみます。毛皮のミシンは一般的にはカップシーマーミシンと呼んでいます。日本名で巻縫いミシンと呼ぶ人もいます。
カップシーマーミシンを作っているメーカーはストローベル(ドイツ)、リモルディー(イタリア)、サクセス(イギリス?)、ボニス(アメリカ)、ポーカート(不明)、トレジャー(日本)、チャンピオン(日本)というように多数のメーカーが毛皮用のミシンを作っています。
私は、このなかでポーカートという高速用のミシン以外は全て使用したことがあります。今、仕事で使っているのはリモルディ社(Rimoldi)のミシンとチャンピオンという細井ミシンという会社が作ったものです。細井ミシンはもとは多分ボニスのミシンパーツを作っていたという話を聞いたことがあります。当時、国産で自動給油のタイプがなかった時期に自動給油を売りにした国産初のミシンです。その後トレジャー(奈良ミシン工業株式会社)が自動給油を作りましたが、毛皮産業自体が、バブル崩壊も重なり、その後どんどん衰退したこともあって、新たに新機種がでることはありませんでした。
毛皮用のミシンは本体の中にあるカムといくつかのパーツで出来ていて、他の本縫いミシンのように複雑ではありません。その分、調整する部分は限られています。そこが一番問題になります。わずかなパーツを前後左右上下に動かすこととカムとの関係で全てが決まります。動かすところは限られているのですが、それでも、大げさに言えば何千通りもの組み合わせ位置(設定)があり、限られている分、調整の壁にひとつぶつかるとなかなか解決しません。
それくらい難しいのです。原因はルーパーや針のセッティングだけではなく、ルーバーの大きさや形状がミシンごとに違い、カムも当然違う。さらにカップの高さもミシンによっては0.1mm単位を手動で設定しなければなりません。私が使っているリモルディ二台も微妙に縫い加減が違います。糸の締まりの強さや強く絞めて糸が切れる限界点もそれぞれに違いがあります。
今日は私の使っているメインのミシンを写真にて紹介します。私がたくさん使ったなかで、行き着いたミシンはリモルディというイタリア製のミシンです。カップシーマーの中では小さい方ですが、値段は結構します。一般的な工業用の本縫いミシンの新品価格の1.5倍くらいします。それもヘッドだけです。モーターもテーブルもつかずに、そのくらいの値段がします。毛皮用は扱うものが高いからか、それとも売れる台数が少ないからかわかりませんがとても高額です。
写真①のパーツは細井ミシンさんに特注で作ってもらった定規の上下を都度ドライバーでやらずに手でネジを回し高さの調整が出来る仕様に作ってもらった部品です。写真②はこれも特注で作ってもらった部品で毛をエアーで入れる装置です。モーターの下にペダルがあり、そのペダルに同期してエアーが吹き出すオンオフが切り替えられます。
モーターは停止位置自動検出器付きの電磁式モーターです。クラッチがなく素人でもコントロールしやすいモーターです。国内の一般的な職人さんが使っているのはクラッチ式モーターで、いまどきアパレルでは皆無に近いほど見ることはできません。私は韓国の工場に一度行ったことがありますが、30年くらい前でもすでにクラッチモーターなど使っていませんでした。こんなところを比べても、国内の毛皮の工場が海外に置いて行かれるのは致し方ない気もします。
話はもどりますが、このエアーノズルは自由に曲げることができ自分で好きな位置にセットでき、さらに使わないときは脇にノズルを移動することもできます。私たちのように、毎日同じものをつくるということがなく都度、セーブルやチンチラ、アーミン、ロシブロ、ミンクというように素材や加工方法が変わるアトリエでは一台で多機能なミシンが求められます。そんな意味からも、こんなミシンのセッティングに必然的になってしまいます。大昔ならレットアウト専用のミシンもあってもよかったのかもしれませんが、今はPFAFF3560を使えばいいので特にレットアウト専用のミシンはいりません。
とにかくこのミシンをいじりだすと一日はまってしまい、結果、もっと悪くなることもあり、そうとう気持ちと時間にゆとりのあるときでもないと調整に挑む気にはなれません。
長澤
補足 最近、トレジャーのブランドで販売しているミシンでサクセスのロゴが入ったものが売っていました。トレジャーがサクセスの代理店になったのかどうかはわかりませんが、確かにサクセスのミシンでした。私は以前、サクセスの自動給油タイプも持っていましたが、私には、いまひとつだったような気がします。サクセスはどちらかというとオールマイティーなミシンです。
私が使っているリモルディのよさは縫い目が綺麗に揃うというところです。その効果は、縫い目がそろっているということは後々の糸のゆるみが起きないということにもなります。一般的に他のミシンはルーパーのサイズや動きが大きく、その分針が手前に出て糸を絞めた最後に残る糸の長さが多くなり、その分糸の絞まりがまばらな状態になりやすいのです。しかし、リモルディはほとんど、糸が余らない縫い目なので最後にルーパーで絞める糸が左右にぶれることがなく、最短で締まります。これが私が選ぶ理由です。ドイツのストローベルも散々使いましたが、イタリアっぽくない、精度の高いこのミシンが私は好きです。