毛皮コートの肩の色焼け料金

こんにちは、今日は数回前に毛皮コートの色焼けのお直しについて料金の結果が出ましたので報告致します。結果が安定したことと、作業時間もほぼ読めるようになりましたので金額を出してみます。

三回ほど前のブログで、肩焼け等の色の修正は、お客様との仕上がりに対する感じ方の違いという不安があり、仕事として受けるにはとても難しいと記載していましたが、処方を何度も見直し、結果の精度が上がりましたので初めて記載します。

金額はもちろんすべて一律ではありませんが、以前はものによってお直し金額に大きな差がありましたが、技術が安定し料金も 18,000円 から25,000円税別くらいの範囲でできるようになりました。

肩焼けの度合いによって多少差がでますが、それは酷い色焼けのときはどうしても手間が増えてしまうのでどうしようもありません。ただ、これまでよりは技術が安定し料金も確定しやすくなったのです。

もし、肩の色焼けが気になるお客様がいらっしゃいましたら一度問い合わせをお願いいたします。

これまでよりも格段に技術が進歩し仕上がりの安定感が増し、ようやく価格設定ができるようになりました。  長澤祐一

毛皮の黄ばみ取りと肩の色焼けについて

久しぶりの投稿です。

もう何十年もこの毛皮の仕事をやってきて、なかなか解決できなかったことがあります。

今日のタイトルにある、白っぽい毛皮の黄ばみを直すことと、古いコートによく見られる肩やエリの変色です。

ここ三年くらい、染色を自分でやってきてようやく染色そのものの理屈がわかってきて、ここ二年くらい黄ばみ取りを勉強していました。

以前、インスタグラムでロシアのユーザーがサファイアミンクやシルバーフォックスの黄ばみ取りをしている投稿があり、お互いにフォローバックし合っていたこともあり、その薬品を教えてもらうことができたのです。さっそく、ロシアの業者に手配してウクライナ戦争が始まる前に手配して入手しました。

その薬品を仕入れてビデオを送ってもらっても、なかなか信用出来ずに使えなかったのです。

しかし、染色技術そのものを勉強したことで、以前送ってもらった動画の意味や薬品の使い方が理解できたのです。

今日の投稿では黄ばみ取りについて少しだけ解説してみます。

ロシアでやられていた黄ばみ取りは、実際には黄ばみを取るというよりも、青みを付けて黄ばみを消すという手法です。ですから、例えばサファイアミンクやブルーアイリスミンクのような青みのある素材には有効です。しかしホワイトミンクのような、真っ白のものが黄ばんだ場合は難しいのです。

ホワイトミンクについて少し解説しますが、もともとのホワイトミンクは完璧な白ではありません。特に現在の鞣し上がりのものは、ブリーチ処理をしてからホワイトニングと呼ばれる青みをつけるような処理がされています。詳しくはわかりませんが蛍光色のようなものかもしれません。

そのため現在のホワイトミンクは外でみるのと太陽光で見るのとではかなり発色の違いがあります。太陽光の下でみるほうが綺麗です。

ホワイトと言っても、このように加工処理された白ですので、黄ばんだものを直すのも難しさがあります。

ですから現時点でホワイトミンクやホワイトフォックスの黄ばみ取りは難しいのかもしれません。少しだけ青っぽくして黄ばみを消すという手法しかありませんが、真っ白ではないのです。

下に画像も載せますが、サファイアミンクやブルーアイリスミンクのもともと少し青みのある素材に青みを足すという手法は有効です。

以前、やはりロシアの業者さんなのですが、バイオクリーニングという手法でクリーニングして白さを取り戻すという動画や写真をみたことがありますが、それはまだ私には解明できていません。

例えば、国内でも販売されている5クリーンという洗剤のようは漂白剤のようなものが市販されていますが、バイオ?酵素?の力(よくわかっていません)で白さを取り戻すことを目的とした毛皮専用の薬剤があるのかもしれません。

そのバイオクリーニングをした状態で黄ばみを取ってから青みを付けると新品のような白さになるのかもしれません。

ただし、鞣し屋さんがやるブルーイングは蛍光剤のようなものらしく、ただ青味をつけるのとは違いがあるのかもしれません。

今日の本題の黄ばみ取りについて少しだけ解説しますが、毛皮の染色には酸性染料を使ったものと酸化染料を使ったものがありますが、今回私がやった黄ばみ取りは黄ばみを取るというより、サファイアミンクなどのもともとあった綺麗な青味を足して黄ばみを消すという手法です。

染料は酸性染料を使っています。酸性にすることにより染料が素材に着色しやすくするというものです。但し、ここで難しいのは通常の染色はお湯のなかで60度くらいで染めてますので原皮の状態で染色されています。

毛皮クリーニングもそうですが、今回の難しさはすでに商品化されたものの染色をするというところにあります。

通常は、染色浴のなかにギ酸を加え染料を入れて色を付けますが、その手法ができません。ですから、濃い色の染色は難しいのですが、うっすらと青味を加えるということに限っては出来るのです。

今現在は、なかなか毛皮を着用していただくことも少なくなりましたが、毛皮の状態もよく色だけ黄ばんだものならば黄ばみ取りが可能です。料金は、素材の状態によりますので一度現物の確認が必要になります。適当なことは言えませんので、一度お問い合わせください。素材の状態によっては無理なもの、費用をかけても本来の価値に戻せないものもあります。明確に回答できず申し訳ありません。

写真の右側がもとの黄ばんだ状態で、左側が黄ばみを取った状態です。

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次回は肩の色焼けについて書いてみます。

有機溶剤で脂分が気化するということ

新年明けましておめでとうございます。投稿が二か月半くらい空きました。

今年の受注は難しいものが多く、なかなかブログを書く気分になりませんでした。

ブログのタイトルはいろいろと書き溜めていたのですが、また毛皮のクリーニングのことになってしまいます。

毛皮の皮と毛を洗うのに有機溶剤を使うことは、このブログで散々書いてきました。毛皮の汚れや脂を有機溶剤で溶かしてオガに吸収させて汚れや脂を取り除くこともたくさん書いています。

おが屑に汚れを染みこませて汚れを取るという理屈は確かによくわかるのですが、それでも本当にそれだけか?とずっとすっきりしませんでした。

もともと自動車のブレーキ部分等も有機溶剤で洗い流すのですが、というか、パーツクリーナーとかいう一般に売られている缶スプレーのものにはそう書いてありますが、ほんとうのところはわかりません。

以前、家庭用洗濯のソフターの水分を抜くとどうなるかを試したことがあります。ブログでもどこかで書いたかもです。

ソフターを脂っこいタイプとサラッとしたタイプをビニ版の上に少量たらして水分が抜けるまで待つとべたべたしたタイプと石鹸のようにサラッとしたタイプがあります。毛皮用の柔軟剤にもシリコン系のサラッとしたものと、乾いてもべたつくタイプがあり、効果がそれぞれに違います。

よく、クリーニング屋さんまたは、和服のクリーニング屋さんが毛皮をアイロン蒸気で縮ませてしまって、修復依頼をうけますが、その時には少し強めの後者の柔軟剤をつかいますが、都度リスクがあり簡単ではありません。

話を元に戻しますが、有機溶剤で溶け出した汚れや脂の全てがオガに吸収されるのだろうか?といつも疑問に思っていました。

もしかしたら汚れはオガに吸収されたにしても、脂はもしかしたら有機溶剤で溶かされて半分くらいは気化してしまうのかと、ずっと考えていたのです。

完全にその理屈は立証できてなく、それを証明するような化学的な知識もないのですが、ひとつだけ実証できるものがあります。

毛皮に使われている脂に脂というのか油というのかはわかりませんが、毛皮の繊維に吸収されるということを考えれば脂ということなのかと想像し、現実に使われている毛皮用の柔軟剤も水溶性であることから、あぶらとは脂なのだろうと考え、その脂を抜くにはどうするのか?と考えると有機溶剤が思いつくわけで、ただ、身体の脂も実際は油のようにも感じたりと私には難しすぎる課題でした。

ただ、最近少しだけ解決したことがあります。

例えば、肌の汗汚れが付いた部分に有機溶剤を付けるとどうなるのか?を考えてみてください。

何か布やティッシュペーパーで拭き取れば、カサカサに白っぽくなります。完全に皮脂が飛んでしまった証拠です。

じゃあ、拭き取らなかったら皮脂は有機溶剤で溶けただけで、肌に残るのか?と仮説を立てて試しました。

結果は何かで拭き取ったほど、白くカサカサに肌がなりません。しかし、半分くらいの油分は無くなってサラサラした状態になります。カサカサではないですが、そこそこサラサラになります。べたつきは大分取れます。

こうして考えると毛皮に染みこんだ有機溶剤が脂を溶かし、その半分くらいは気化するのか?という考えも、まんざら私が勝手に作った嘘ではなさそうなのです。

実際に手に柔軟剤を少量ですが、付着させて有機溶剤を付けると、何もしなくても乾くと、最初よりは柔軟剤はなくなっています。

例えば、毛皮の皮面に有機溶剤を大量にしみ込ませると、大きな輪染みになり輪染みの真ん中は脂が抜け、輪染みの端は柔軟剤が溶けて端によったために黄色くなります。

輪染みの真ん中は真っ白になりカサカサに皮も硬くなります。柔軟剤がぬけたことを意味します。

こんないくつかの検証をするなかで、もしかしたら汚れは溶けてオガに吸収され、脂分の何割かはオガに吸収され、さらにその何割かは気化したと考えられそうなのです。

そのことを裏付けることになるかどうかはわかりませんが、オガと有機溶剤でクリーニングした際に、途中、例えば一日くらいで出してしまう結果よりも三日間ドラムで回し続けたほうが良い結果が出るということでも少しですが証明できそうな気がします。

有機溶剤が毛皮の脂を溶かし少しずつ気化させる時間を与えているともいえるからです。

毛皮は本当に難しい素材です。毛の美しさも皮の状態に大きく左右されるからです。

でも、そんなこと考えて作る職人はいません。世界中どこを探してもです。

 長澤祐一

クリーニング溶剤と毛皮クリーニングについて

今日は、クリーニング溶剤と毛皮クリーニングについてという話題です。

先日、あるサイトで毛皮クリーニングで、お客様の要望を聞きながら使う溶剤の種類を選ぶと記載がありました。

私のブログで書いていることと似たような記載もあったり、出来ないところは既存のパウダークリーニングに逃げていたりと、実際やっていないで書いていることが露骨にわかるようなサイトでした。

私は、通常のドライクリーニングは詳しくは解りません。

しかし、毛皮のことなら解りますので少し誤解があるので書いてみます。

用途に応じて、または要望に応じてという部分には理解ができません。どんな用途があるのか?溶剤を使い分けるほどの具体的な用途とは? それをお客様側から要望できるのか?

そんなことはありません。大半の毛皮業者も具体的に何十年も経った毛皮素材をみて、劣化の進行状態や毛の傷み具合を見抜けるひとはほとんどゼロに近いはずです。

お客様が溶剤を使い分けるための要望を具体的に提案することなどできません。

なぜ溶剤(有機溶剤)を使うかという意味は、毛皮の皮面や毛についた、または元々残留していた汚れや脂を溶かして、気化させるかオガに吸収させて取り除くかという目的です。

ドライクリーニングでは洗剤も一緒に入れると聞いたことがありますが、毛皮に洗剤は使えません。生地と違って洗いずらい素材です。

以前ロシアから仕入れたバイオクリーニング剤は洗剤ではありませんが、多少泡立ちはします。皮面に染みこむほど濡らすことはしませんが、毛の部分の半分以上は濡らして汚れを拭き取る感じで作業します。

私も、何度かやりましたが絶対的な結果は出ていません。

しかし、国内業者がメインにしているパウダークリーニングよりは良い気がします。

話戻しますが、溶剤の使い分けがあるとすれば、速乾性や油汚れなどを溶かすスピードのために使い分けがあるように感じます。

理由は簡単です。一つの作業を終えるのに、より短い時間で同じ効果が得られるからです。そうすれば、儲かるからです。

液体フロンのようなものも以前毛皮でも使ってましたが、今は使えません。

お客様の要望を聞いて溶剤を使い分けるというのは、一見正しいことを書いているように見えますが、自信があるならば、その詳細を逃げずに記載すべきだと思います。

今、私のところもホームページを作っていますが、それらしく、、、それっぽく、、、 やってはいけない気持ちのよい表現に、つい手を出したくなりますが、1を100に、表現だけで見せるなんてことはやりません。

そんなホームページを作ったら、このブログやオンラインショップで書いてきたことの信頼が総崩れします。

最後に問われるのは、書いていることがどこまで信頼してもらえるかです。

そのために多面的に記載もし、さらにそれに応えるだけの作業を提供しています。

生地のクリーニングで生地の特性を知らずに仕事をする人は少ないでしょうが、毛皮のクリーニングにおいても、適当に表面だけの知識でクリーニングが出来るほど甘い仕事ではないはずです。

せっかく、お客様の要望に応じて溶剤を使い分けると記載するならば、その内容まで踏み込むべきです。

深く突っ込んで記載しても、お客様にはわからないからという理由で記載しないというならば、お客様の要望に応じてなどと、まるでお客様が細かい部分まで知ってて要望を出し、それに対応して溶剤を使い分けるという記載はそもそもが違うだろう、、と思ってしまいます。

でも、こんな記載はネットのいたるところに見られます。

最後にタイトルに戻りますが、毛皮という曖昧な素材のクリーニングの難しさは、毛皮を作ることと同じくらい難しいと私は感じています。

その意味もあって、これだけたくさんのクリーニングの記事を書いています。

長澤

 

毛皮の仕上げやクリーニングでよく起きる誤解

今日は、 『毛皮の仕上げやクリーニングでよく起きる誤解』 というタイトルです。

このパショーネのブログでも、クリーニングや仕上げのことについてよく記載をしています。ひとつ誤解があるといけないので書いてみます。

私の毛皮を仕上げる技術は、自分で言うのもなんですが、かなり上手いほうです。

その理由は毛皮素材の本来の良さや作りによって毛皮のポテンシャルが上がることを知っているからです。

ただ、ひとつ誤解があるかもしれませんので書いておきます。

素材や作りが良くても、毛の癖や、汚れが付いていたり、毛皮の皮面が硬かったりすることで、本来の良さを出せていない毛皮があります。

その場合は、元の良さを引き出すことが出来れば驚くほど綺麗になります。

ただ、誤解があるかもしれませんのでお伝えいたしますが、パショーネ以外で、お買いになられた商品をパショーネでクリーニングをしたり仕上げをしても、もともと持っていたクォリティは発揮することが出来ますが、元のパフォーマンス以上にはなりません。

パショーネがやっているのは、あくまで元々持っている素材や作りの良さを引き出すだけなのです。どんなに頑張っても元のクォリティ以上にはなりません。ただ一般的に売られている商品のほとんどが、本来の力さえも表現されていないことが多く、その多くは仕上げる前よりは良くなりますが、パショーネの商品と同じようにはならないのが現実です。

チンチラなどのボリューム感も一般のチンチラの例えば半裁横段のマフラーの多くは、横段の接ぎ目の間に1cm幅くらいのレザーが入っています。

チンチラの1パーツの幅が一般的に例えば5cだとします。そこに1cのレザーがチンチラとチンチラの間に縫い込まれます。そうすることで、5パーツ接ぎ合せると、ざっくりですがレザーによって5c分長さが長くなります。

こうやって高額なチンチラの使用枚数を減らします。これはこれで良いのです。ただ、ひとつ言えるのは、当然ですが1本のマフラーを作っても材料コストが原皮一枚分減ります。

見た目を同じように見せて使用枚数を減らすという売り手側の都合のよい作りになります。

そして、当然ですがボリューム感も減ります。綿をどんなに入れても素材のボリューム感と同じにはなりません。

もちろんレザーをチンチラの間に入れない職人もいますが、一つ一つのパーツを綺麗にそろえることや、チンチラの白い腹を均一にいれることなど注意すべき点がたくさんあります。

世に出ている大半のチンチラが、これを正しく守っていません。そのことによって、本来、横段で綺麗にみえるはずのチンチラが上下の幅やボリューム感が違ったりしていて汚い作りになっています。

話を仕上げにもどしますが、前回の”価格の価値とは”のブログでも書きましたが、安いには安いなりの理由が必ず存在します。流通コストを省いたことで安くできたり、工賃の安い職人に出したり、中国で作ったり、レザーを入れて素材コストを下げたり、、、とたくさん理由はありますが、常に何がしかの理由が存在します。

最後にもう一度、元のテーマにもどりますが、どんなにパショーネが仕上げをしても、元の素材が良くなるわけではないのです。私たちがやることは、元の素材の魅力を最大限に引き出すことをしているだけです。仕上げ方でごまかすことは出来ません。元が良ければ当然ですが、その力が100%引き出されれば魅力的な毛皮に戻ります。

ただ、一般的に世に出ている商品の多くの割合で、正しい作りや仕上げがされていないために元の素材のクォリティ以下に見えるものが多くあり残念だといつも感じています。

長澤祐一

 

 

 

毛皮のご自宅保管での注意点

今日は、そろそろクリーニングや保管の時期になってきましたので、一般の方が簡単に保管ができる方法や気を付けなければいけないこと、さらに一般の業者も気が付かないことなども含めて書いてみます、、、と実は五月くらいに書き始めたのですが、忙しくて、こんな時期になってしまいました。すみません。

でも、真夏になってますが、今からでも試してみる価値はあります。是非読んでみて、やれることだけでもやってみてください。やらないよりは絶対に毛皮にとって良いはずです。

業者さんがやってることは私は正確には知りませんが、想像はできます。

クリーニング後にどういった状態で保管するか、そして納品直前に何をするのかが問題なのですが、完璧な解決方法がないのが正直なところです。

一番良いのは、コート一点を何にも近づけずに温度の高くならない暗い場所で保管するのが一番です。しかし現実には保管を仕事としてやる場合には大量のコートを一か所でお預かりするわけですから、コート同士がほぼ、軽く接触状態になるのは普通のことです。

ご自宅の場合であれば、例えばクローゼットがあったとしても、毛皮のコート同士、または他の洋服とピッタリに接触してしまっていては、いろんなリスクが発生いたします。

まずは、クローゼットで例えば湿度や温度が調整できる環境であっても、クローゼットが空の状態であれば全体に温度や湿度管理がいきわたりますが、ものが入ってしまうと空調の対流が妨げられて湿気が溜まってしまう場所が発生します。

例えば、コートを向かって左向きにハンガーで掛けた場合には右袖が奥側になり右袖に湿気が溜まります。私が、過去にやったリフォームの中に、右袖だけが極端に劣化しているコートが三点ほどありました。すべてミンクです。ミンクは毛皮素材のなかでも特に強いほうの素材ですが、劣化していました。

この事象からもハンガーに掛けた方向とラックに入れる向きにもよりますが、どんなに環境を良くしたとしても、壁際だったりする端になる部分は湿気が溜まりやすく、空調設備があるクローゼットのようなスペースでも絶対に安心とは言えないということです。

解決方法としては、クローゼットの環境をよくするよりも、コートのかける向きを夏場の時期に最低一度は変えて、湿気が溜まった奥側にある袖の方を手前にしてあげて、新しい空気に触れさせて湿気を取ることをお勧めいたします。

それと、夏場のオフシーズン中に、何度かハンガーラックのようなものに間隔を開けてコートを一度裏返しにして 暗い場所に数日置いて、裏側に溜まった湿気を取り除くことをお勧めします。

これくらいやっていれば、そう簡単には皮の劣化はしません。一般的に、よくみるリフォーム品の極端な劣化は、超最悪の環境に長期継続して保管してしまったことによるものが多いと私は考えます。

よく、以前クリーニングに出して、その後何十年もしまったままだったというようなケースがありますが、たまたま保管した場所の状態が湿度や温度の高い場所に長期間保管したケースが多く、しかも着ないために、どうしても保管場所が奥の奥にいってしまい、環境としては一番最悪の場所になったことも原因のひとつです。

普通に扱えば毛皮はそんなに簡単には悪くなりません。それは、私の手持ちの在庫や仕掛り品在庫をみても、何十年も経った仕掛り品がありますが、劣化などしません。

たまにチンチラが劣化している場合がありますが、これは買った時からすでに劣化が始まっていたようなチンチラ原皮がありますが、それにしても、過去35年くらいの間で数枚のことです。

意外に怖いと私が想像するのは、メーカーや小売店のバックヤードに長期保管されてしまっているようなコートや小物は怖いと感じます。

その原因のひとつは、一か所に継続して長期保管をした場合には、どんなに空調があっても行き届かない場所がたくさんでますので、かなり危険だと感じます。

保管を業務としているところでも問題を抱えているはずです。ただ、現状の保管の方法しかすべがなく、クリーニングに出したものを保管する場合は特にそうですが、コートは完全に綺麗になったという前提がありますから、例えば不織布のようなコートカバーに入れて納品まで保管することになります。

しかし、洋服のように完全に汚れが落ちた訳ではありません。毛皮の皮についた虫やカビは一般のクリーニングでは落ちませんから、仮にいい状態のコートの隣にクリーニングを完了しているといっても、皮にダニやカビが付いたコートを密着状態で保管したら、当然ですが、隣にも匂いやカビ、虫が移るリスクは通常以上にあります。自宅保管よりリスクが高くなるのです。

燻蒸処理するという話も聞きますが、毛皮の一番怖い部分が裏地、さらには芯の奥にある皮の部分であり、そこに匂いやカビ、虫などがいるので、燻蒸がどこまで効果があるかは分かりません。仮に害虫や菌が死んだとしても匂いは残るような気もします。燻蒸ですべてのリスクがなくなるというのは無理があるかなと、私は感じます。

 

話戻しますが、保管をする際に不織布のカバーのようなもので保管し、他のコートと密着状態になれば、綺麗なほぼ新品の状態のコートに隣の古いコートから匂い、カビ、虫等が移る可能性があるのです。普通の洋服のように完全に汚れが落ちた状態でビニールカバーにかかったものが隣り合わせになるのは問題はありませんが、毛皮の場合、裏地が付いた状態での完璧なクリーニングはあり得ませんので、都度リスクが発生いたします。

クリーニングに出したはずが、逆に、保管や作業中のコート同士の接触によって匂いやカビが移る可能性があるという矛盾した問題がつきまといます。

私のところでも、この部分には一番神経を使います。

最初のご自宅での保管の話にもどしますが、上に書いたことを気を付けて頂けば、そう簡単に皮が劣化したりしません。劣化するまでには、そうとう無意識に酷い環境で保管しないと簡単に皮が劣化したりはしません。室内温度が超熱い場所やクローゼット、場合によっては桐箱なんかに入れっぱなしにした状態を何年も続けている場合です。

桐の箱が良いなんてよく言われますが、確かに虫よけにはなるのかもしれませんが、湿気を吸った毛皮を何年も入れっぱなしにしてはいけません。昔のストールを桐箱に入れてダメになったのを何度も見ています。

桐ダンスに入れて保管する呉服については私は分かりませんが、毛皮の皮は生き物のように湿気をすったり出したりしています。その湿気の逃げ道を無くしてしまった状態で長期保管などあり得ないのです。

毛皮で一番のリスクは皮にあります。毛は虫に食われたりもあるかもしれませんが、コート全体がダメになることはありません。皮が劣化したら、毛皮コートとしては価値が無くなります。

極端に心配する必要はないですが、せめて、上に私が書いたことを毎年守っていただければ自宅保管もありだと考えています。

とにかく大切にクローゼットでも洋服ダンスでも、奥の奥に何年もしまったままはやめてください。

 

私も、これだけ長い間、扱っていても明快にこれだというものが見つかりませんので、責任は持てませんが、上で書いたことをやらないよりはやった方が確実にコートの寿命を延ばすことは出来ます。

業者さんも、これが絶対だとは思ってないはずです。思ってるんだとしたら、知らないことが多すぎるのだろうなと推察できます。

昔、脱酸素剤を入れてビニールのパッケージで空気を抜いた状態で保管するものがありましたが、あれも問題が多いですね。だって脱酸素といっても、毛皮のコートから完全に湿気が取り除かれての脱酸素なら良いですが、ほとんどの場合、毛皮に湿気が含んだ状態での脱酸素です。しかも、毛も皮も脱酸素によって、本来あるべき毛質やコートの形が崩れてしまうわけですから、シーズンになって着ようとしても、その毛と皮の癖が取れるのに、おそらく一週間はかかります。自分もパッケージを一個だけ買って試しましたが、納得できるものではありませんでした。

ひとつ付け加えますが、最近染色をした毛皮をよく見かけます。これは染色をするためにクロム鞣しをしているので劣化はほとんどしません。

ただし、匂い、カビ、虫は付きます。劣化しないぶん、リスクは減りますが、匂いやカビも大問題です。残念ですが、一般のお客様のコートの20年くらい経ったものの大半はカビが生えています。匂いでわかります。

 

いろいろ書きましたが、それくらい、問題が多い毛皮のクリーニングや保管です。

上に書いたことを実践してもらえれば簡単にはカビも生えませんが、一度カビが生えてしまうと、裏地が付いたままのクリーニングではカビは二度と取れることはありません。

私のところで、クリーニングも保管も、扱い方が見える顧客のものしかやらないのは、状態の酷い毛皮を預かって、商品やお客様のお預かり品に問題が起きたら大変なことになるためです。

時々お問い合わせで、毛皮に情熱が感じられる場合にのみですが、お手伝いとしてクリーニングを受けることがありますが、その時にも慎重に作業をいたします。チンチラやセーブルのヤーン(編み込み)マフラー等のクリーニングも、おそらくですが、私のところでしかやれないと判断している素材や仕様のものは、お手伝いの意味でクリーニングを受けることがありますが、基本的にクリーニングは受けていません。リフォームとセットの場合は解くついでに徹底したクリーニングが出来るので、保管のリスクが減りますから、その場合はリフォームの中でクリーニングをやると言うことでお受けしております。

極力ですが、私は自宅保管をお勧めします。その理由は保管に出した方が、匂いやカビが移るリスクが大きいからです。

それと、一般的にはクリーニングをしてから保管ですが、これも微妙なのです。本来はクリーニングをした直後がシーズン初めなのが一番なのです。ドラムという機械で毛も起毛し皮も多少は柔らかくなっています。ところが、一般的には、そこから保管に入り、半年ちかく保管状態が続き、せっかく起毛してフワッとなった毛も潰れてしまいます。

私のところでは、クリーニングはやはり最初にやります。理由は汚れを早く落としたいからです。しかし、保管だしのときに、もう一度、硬くなりかけた皮や保管で潰れてしまった毛を起こすためにもドラムにかけます。

手間を考えるとドラムをかけずに、そのままお渡しが楽ですが、やはり一番良い状態でお渡しをしたいのでそうしています。

今日も長々と書きましたが、上に書いた何点かのポイントを押さえてもらえれば、自宅保管もありです。ただし、放りっぱなしはダメです。一旦放りっぱなしになると永遠に何もしなくなります。そして気が付いた時には、どうしようもない状態になってしまいます。

とにかく大事にしてもらえると作り手としても嬉しいです。

 

長澤祐一

 

 

 

原皮の保管方法と毛皮のクリーニングとの関係

今日は、原皮の保管方法と毛皮のクリーニングとの関係と言うテーマです。

一般の方には、あまり関係のない話ですが、原皮をある程度大量に抱えている会社にとっては大事なことです。

私のところでも、会社の規模も小さいですし大量に商品を生産して大量に販売するというわけではありませんが、そんな私のところでも在庫をエクセルで管理していますが、小さなアーミンのような原皮も含めると2,000枚は楽に超えます。

当然一年で使い切ることはありません。

そう考えると何が一番大事になるかと考えると、原皮の状態を徹底してベストの状態で管理することです。

チンチラのように元々、劣化がしやすい素材はクロム鞣しという処理を染色屋さんでしています。これは染色などのための前処理として耐熱効果を出すための処理ですが、劣化防止にも使えます。

今期、初めてですが、セーブルやミンクの一部にもクロム鞣しをして劣化防止をしようと試みました。しかし、クロム鞣しのために少しグレーっぽく色がついてしまいます。セーブルのように元色が、そこそこ濃いものは良いのですが、ホワイトミンクや薄い色のミンクにはクロムの色が少しついてしまい、ホワイトやパールミンク等の原色としては使えません。

敢えてグレーっぽくしたいなら良いのですが、ナチュラルの色としては、わずかにグレーっぽく、くすんだ色になり難しいのです。

 

それと皮が少しだけ硬くなります。通常の毛皮の鞣しは、ドレッシングと呼ばれていますが、要はドレスのように柔らかく鞣すということです。

クロムを入れて耐熱処理をした皮は少しだけですが硬さがでます。

そんなこともあって染色用のホワイトミンクはクロム鞣しする意味がありますが、ナチュラルの色のまま使うパールやサファイア、ブルーアイリス等のミンクにはクロム鞣しをかけることが出来ないことが分かりました。

劣化防止にはクロム鞣し以外にもう一つあります。これは、やったことがない人には、毛皮業界の人と言えども理解できませんが、以前書いたことがありますが、鞣し屋さんのひとと話すと意見が一致した方法があります。

その方法は鞣しの最後の工程で毛皮の脂をドライクリーニングの機械で抜きます。この抜く作業によって毛皮から余計な脂が抜けて、皮の表面もカラッとした状態になり、空気中の湿気を吸収しなくなります。

もちろん、一般のレベルのドライクリーニングでは、私の感覚としては、まだ全然不足していますので、鞣し屋さんに再鞣しをしてもらい最後のドライクリーニングのときに少し強めに脂を抜いてもらいます。

自分でやる場合は、オガに有機溶剤をたくさん混ぜて、毛皮用のドラムに原皮と一緒に入れて三日間くらい回します。ドラムを回し始めて三日目に入ったところくらいから突然柔らかくなりだします。そして、ドラムのなかで有機溶剤が自然に気化するのを回しながら待ちます。

その後、ドラムの蓋を網の蓋に替えてオガを落としながら徹底して乾燥させ、原皮の筒状の中に入ったオガも綺麗に落ちるまで回します。

こうして、通常の鞣し上がりのときの、皮に含まれた脂が多いかなと思った状態から、触ってもサラサラいうような気持ちのよい感触になり、湿気のある国内での原皮の長期保管に適した状態になります。

よく、長期保管したミンクの原皮の皮が硬くなり、ミンク本来の柔らかさや風合いが無くなり、ミンクの束も以前より重くなった感触のときがあります。

もともと仕上がった少し多めの脂が入った状態のミンクが長期間、動かすことなく同じ場所で保管されたことで湿気を吸ったまま皮がわずかに硬化してしまうことがあります。

鞣し上がったばかりの柔らかく軽やかな状態から変わることがあるのです。

これは湿気を吸収して、その湿気によって皮が硬くなるからです。私たちの毛皮加工の中で水を使って皮を伸ばしたり曲げたりして毛皮を加工することがありますが、この原理と同じです。濡らすほどではないので加工の時のように固くはなりませんが、同じことが原皮の保管の時にも起こります。

これを防ぐには水分を吸収し難い皮の状態にするしかありません。

そのためにドライクリーニングをしています。

このことは、自分のリスクで何年も仕入れた皮を保管し、自分で良いと思った方法が正しいのかどうかを何年もかけて見続けて確認する必要があります。

今、現在私がやっている方法が現時点での最良の方法と考えていて、この考えのもとにクリーニングもしています。

私の中ではクリーニングが一番の目的ではなく皮と毛の状態を管理することで皮に匂いがついたり劣化したりしないようにし、毛皮本来の魅力が持続することを目的とするためのクリーニングなのです。

毛皮の毛も確かに汚れます。しかし、毛は意外に洗って落とすことが可能です。私のインスタグラムのロシアのフォロワーもバイオクリーニング剤を使って毛の表面から洗っている動画をよくみかけます。

ただ、残念なのは毛皮大国のロシアでさえも皮に一番のリスクがあることを理解していないように見えます。もしかしたら気候の違いで皮が湿気で酸化したり匂いが発生したりしないのかもしれません。

皮の部分の管理は、毛皮にとってかなり重要であり大変です。

正直、私も、最初は表の毛を綺麗につくることばかり考えていました。

25年以上もですよ。しかし、10年くらい前だったかもしれませんが、あるとき、いくら綺麗に作っても毛皮本来の魅力を引き出すのには皮そのものの状態をベストにしないと毛皮本来の魅力が引き出せないことに気が付きました。

 

技術的なノウハウや道具がそろったのが、ようやくです。ほんと、ようやくここに来て、いろんな問題が人に頼らず自分で解決できるようになったところです。

このコロナになったことや、そのことで某百貨店毛皮サロンを辞めさせてもらえたことで、これまでよりも時間が出来、考える時間を貰えたことで時間のかかる試験をすることが出来て、なんとなく、あ~こんな感じかな、、と思えるようなところに辿り着きました。

誤解されるかもしれないので一言付け加えますが、今まで作ったものがダメだったということではありません。

ただ、毛皮は鞣す作業も手作業ですので、常に私が望む皮の状態とはいきません。どうしても、今回は皮が厚いな、、とか、今回は皮が脂っこく重いな、、とか都度変化します。

じゃあ、鞣しのせいにして、しょうがないと言って、自分が納得していない状態で作業を進めるのかという問題にぶつかります。

自分の場合は、そのまま先に進めないので皮が厚ければ薄く鋤こうと思い回転アイロンという機材を使って皮を鋤いたりするわけです。

脂も抜きたいと思えば自分で抜く方法を考えるだけなのです。

誰も拘らないところに拘り、執着して来ましたが、ようやく100%とはいきませんが、そこそこの平均値を出すことが出来るところに近づいたような気がします。

以前よりも時間も手間もかかりますが、前工程の誰かのせいにすることなく自分で解決策をみつけられたことは大きいです。

原皮の保管と毛皮のクリーニング、離れたテーマのようで、とても近い距離にあり毛皮の本当の魅力を引き出すための大事な部分なのです。

 

長澤祐一

 

オガの汚れ具合と吸収力 その2

毛皮のクリーニングで使うオガの保湿力と吸収力 という5月12日の投稿でクリーニング関係の投稿は最後にしようと思っていましたが、また新しいことがあったので書いてみます。

今日のタイトルは オガの汚れ具合と吸収力 その2 というタイトルです。

数回前の オガの汚れ具合と吸収力 という投稿でオガを洗ったときの水の真っ黒になった画像をお見せしましたが、今回の洗濯機の中の水は、黄色く濁っています。前回とは洗うものが違うことで汚れる水の色もはっきりと違います。

 

前回は、染色の内容が酸性染料なのか酸化染料なのかはわかりませんがブラックのコートのクリーニングをしたオガでした。そのため洗濯したときの色は真っ黒です。もちろん毛から色がほんの少しは落ちしますが、実際にたくさん落ちているのは皮からです。

今回は通常の染色していないナチュラル素材のミンクコートをクリーニングしたオガです。

そのため今回の汚れた水の色は黄色っぽく濁った色でした。鞣し屋さんが皮を鋤くときにグリスのような油を皮に染み込ませて皮を膨らませて皮を鋤くと聞きますが、そのグリスのわずかに残っている分が有機溶剤で溶かされてオガに吸収されたものなのかどうかはわかりません。オガに吸収された汚れかもしれませんが、明らかに黄色い色です。もしかしたらオガそのものの色もあるかもしれません。しかし、それにしては異常に黄色く濁っています。

下の二つの画像の上の画像が今回のもので下の画像が前回のものです。画像では差がわかりにくいですが実際には上の水の色は油を溶かしたようなはっきりとした黄色の色で、下の画像は実際は真っ黒でした。おそらく、上の画像の汚れた水にプラスして黒の毛皮の皮についた染料が落ちたものだと考えられます。追記しますが、毛皮の酸性染料は毛にはしっかりと吸着しますが、皮には染料が刺さるような状態で付いていますので、このようにオガに染みこみやすいのです。決して毛皮の毛についたものが落ちる訳ではありません。

 

洗剤は前回同様、一般の洗剤では香料が入っているので、無香料のバイオクリーニング剤を使いました。お湯に粉を入れると強く炭酸が出るように泡立ちます。重曹と似ていますが、詳しくはわかりません。

バイオクリーニング剤で通常の油汚れを落としてみると確かに油が分解して落ちてしまいます。ですから、オガが吸収した脂や油を溶かして取り除くことが期待できます。

オガは、このバイオクリーニング剤を使った洗い方で数回繰り返して洗ってから濯いでいます。徐々に水が透明になっていき最後は無色透明の水になります。

 

乾燥も今回は扇風機をあてて乾かしていますが、やはりかなり早く乾燥します。前回は二か月以上かかりましたから。

 

今日はもうひとつ大事なテーマがあります。

前回洗ったオガで、原皮を長期保存用に有機溶剤にて脂を抜いてみました。結果は驚くほど綺麗に脂も落とせ柔らかさと軽さも出ました。

洗ったばかりのオガの効果と数回使ったオガとの効力の違いがはっきりでたと感じます。

洗ったばかりのオガと、数回使用したオガの匂いも明らかに違いがあります。洗ったばかりのオガの匂いはヒノキの匂いだけで、それ以外の匂いは無く無臭ですが、使用済のオガの匂いには、ヒノキの匂い以外に別の匂いがします。

 

ここ何回か試していることですが、オガと有機溶剤でドライクリーニングをしますが、このドラムを回す時間にも脂が綺麗に抜くための方法がありました。

オガは有機溶剤によって最初は濡れた状態になり、その濡れた状態のオガが毛や皮に付着して有機溶剤が皮や毛に少しずつ染みこんでいくわけですが、最近分かったことなのですが、オガに染みこんだ有機溶剤が毛皮に移動して毛皮の毛や皮の脂を溶かし、オガがさらにその脂を吸収していくのですが、そこで止めると中途半場な状態で終わってしまうことに気づきました。オガドライの効果をパーフェクトに引き出すことが出来ないような気がしました。もちろん、これは肌感覚でしかないのですが。

わずかな違いですが大きな違いです。

 

途中で止めずに、毛皮の脂を吸収したオガがドラムの中で少しずつ気化していき、ドラムの中でほぼ乾いた状態になるまで丸三日くらい回すのです。こうやって時間をかけて少しずつ脂を吸収した有機溶剤が気化するまでドラムを回します。

私のところのドラムは、クリーニング屋さんのような完全密封ではありません。ドラムが木製でできていることで、ドラムの蓋のわずかな隙間や木のつなぎ目または木の材質そのものから自然に有機溶剤が飛んでいくのかもしれませんが、時間をかけて徐々に気化していきます。

ドラムの蓋を網に変えて、オガを落とすのはオガが完全に乾いてからです。こうすることで毛と皮からバランスよく汚れや脂が取れて柔らかくなります。

毛からも脂が取れることで今後の毛の黄ばみとかも軽減するはずです。

前回投稿でも書きましたが、こうすればこうなるというような空想のようなものですが、何年もかかって黄ばみが出るものを時間単位で見続けることは出来ませんので想像するしかないのです。それでも、やらないよりはやった方が効果があるといえるものはやるべきだと考えています。

毛皮の作りも奥が深いのですが、この毛皮のドライクリーニングという作業も作りに大きく影響し毛皮の商品化にも最も大事な部分と私は考えています。少し、変人的というくらい、このブログでもたくさんクリーニングについて書いていますが毛皮の状態が上手く調整できると作業の半分くらいが終わったように私は作るときに感じます。

一般の技術者でもアトリエにきて原皮を見れば、その大きな違いがわかります。もちろん、素人の方でも見れば、いい状態になった原皮がいかに綺麗かが理解できます。見たいと思う方はいつでも連絡ください。    長澤祐一

毛皮のクリーニングで使うオガの保湿力と吸収力

今日は、オガの保湿力と吸収力です。

前回のオガの汚れ具合と吸収力(2022年3月25日)の続きになります。

 

やっと、前回紹介したバイオクリーニング剤で洗ったオガが完全に乾燥しました。前回のときにすでに二週間経っていましたので、ほぼ二か月間、完全に乾燥するのにかかったことになります。

 

ヒノキの匂いは消えていません。一般的にプロの間で言われているオガの外側のチャカチャカした部分は取れてしまっているのかもしれません。顕微鏡で見ればわかるのかもしれませんが、顕微鏡がないのでわかりません。ただ、以前からオガのチャカチャカした毛羽立ちが汚れを取るともいわれていますが、その効果は明確にはわからないのです。

 

私がオガに求めているものは、一般的な毛皮のクリーニングで使うような、簡易的に効果も期待できないような安易な使い方ではなく、毛皮の毛と皮の両面を徹底的に洗うための、汚れや皮や毛に含まれる脂分を取り除くための用途としてのものです。

 

そのため、今回オガを水洗いしてみてわかった水分の吸収力や保湿力は十分な結果だと判断しています。

以前、洗った時には単純に水洗いをしました。その理由は、最近の洗剤のほとんどが香料が入っていてオガの洗浄には使えないからです。今回使ったバイオクリーニング剤は無香料なので安心して使えました。

それと、以前に洗ったときの乾燥方法は、セメントの上に布を敷いて、そこにオガを敷き詰めるようにして乾燥しましたが、その時の乾燥時間は早かったのですが、セメント側から雑菌が入ったせいか、乾燥中にカビが発生してしまいました。

そのため、今回は深さのある大きな容器に入れて乾燥してみました。表面から乾燥して白くなっていき、そのため毎日数回はオガを中から混ぜるようにして乾燥しています。今回は雑菌が入らずカビの発生はありませんでしたが、乾燥に三倍以上の時間がかかりました。

オガの価格からみても、この洗って再利用する意味はない気がしますが、オガの誰も知らない本当の能力・効果を見極めるには大事なことでした。

 

以前も書きましたが、私の毛皮クリーニングのなかでオガに求める役割は、汚れを吸収して毛皮の皮に戻さないための吸収力と保湿力でしたので、完璧とは言えませんが、私が想定していた役割は担ってくれているようです。

前回書き忘れましたが、前回クリーニングしたコートはブラック強化染めのコートでした。そのため、あれほどまでに水が真っ黒になったのかもしれません。しかし、逆に言うと、それくらい皮から染み出してオガに染料が吸収されたことが証明出来ています。

最近、毛皮の染色もやることにしましたが、毛についた染料は簡単には落ちませんが、皮面についた染料は皮面に染料が刺さっているような状態ですので落ちやすいとも言えます。その皮面についた染料が前回クリーニングでは落ちたことが証明されています。

 

毛についた染料は簡単には落ちません。落ちるとすれば60度前後のお湯のなかで、ペーハーを上げてアルカリ性に変えていくと色は落ちていきますが、普通の水につけたくらいでは落ちません。

 

上に書いた60度のお湯を使うとありますが、普通の状態の毛皮ではだめですから絶対にやらないでください。染色屋さんではクロム鞣しという前処理をしてからやります。クロム鞣しをしないでやるとお湯の中で縮んでカチカチに固まってしまいます。

 

話それました。クリーニングのために使うオガの役割としては、濯ぐときの水の役割ですので、一般的な毛皮のクリーニングで使う少量のオガでは汚れを有機溶剤で溶かして、その汚れや脂分を十分に吸収するという一番大事なことが出来ません。

写真の上が今回洗ったオガです。一回で最低でもこれくらい一着のコートを洗うのに必要になります。

下の写真は、上で書いたコンクリートの上で布を敷いて乾燥した時のものです。この乾燥でカビが発生してしまいました。

 

 

今流行りの言葉に持続可能というのがありますが、ただ、形を変えるだけのリフォームでは、持続可能とは言えません。毛皮を持続可能なものにするために必要なことがあります。

 

丁度、クリーニングや保管の時期になって来たところですが、時々は毛皮のことを思い出してケアーのことを考えてみるのも良いかもしれません。

 

長澤祐一

オガの汚れ具合と吸収力

今日は先日の、オガの一般的な効果と可能性というタイトルの続きです。

一般的に通常の鞣しで毛皮をドライクリーニングする場合にはオガが極端に汚れることはありません。

 

そして一般的な毛皮専用と言われているパウダークリーニングでも、多少の有機溶剤を使うと書いてあるところもありますが、極少量の有機溶剤とオガでコートの表側だけをクリーニングするだけなら、ほとんどオガが極端に汚れるということはありません。

私がやっているリフォーム時にせっかく裏地や付属を外したのであれば、皮裏面も含め徹底したクリーニングが出来ればと大量のオガと有機溶剤を使ったクリーニングは、これまでのクリーニングとはまったく違うものです。

写真を見ていただければわかります。

これは一度クリーニングしたオガを試しに洗ってみました。洗う方法は前回書いていますので省略いたしますが、洗濯機のなかの水は真っ黒になります。毛皮は水でジャブジャブ洗ったりすすぐことができませんので、皮や毛に染み込んでいる脂や汚れと匂いなどを有機溶剤で溶かしオガにしみ込ませ吸収するということをしますが、クリーニング後にオガを見ても、多少黒く変色しますが、実際のところどれくらい汚れが落ちているかはわからないのです。

そんなこともあってオガを洗ってみました。オガの価格からいえば、大きな袋で2,000円くらいなものですから洗う手間より買ったほうがはるかに安く上がりますが、オガが実際に汚れを吸収しているかどうかを知るには、このように洗ってみるしかないのです。

さらに、もうひとつ今回の実験で分かったことがあります。オガの水分の吸収力というか保湿力というか、とにかく乾燥しているのですが、すでに二週間以上経っていても、まだ半分くらいしか乾きません。やっとサラサラになってきましたが、まだまだ湿気を含んだままです。

洗ったらヒノキの香りは無くなるかと思いましたが、まだまだ十分にヒノキの香りがします。

リフォーム品によく見られがちな強い匂いも、このヒノキの消臭効果によって強いカビ臭さが取れているのかもしれません。

毛皮にも様々な技術が受け継がれてきていますが、その技術の意味も考えずに継承するということもよくあります。

オガについても以前から毛皮のムダ毛を取ったり汚れを取ったりすることに効果があると言われていました。ただ、それは以前から受け継がれてきた技術であり自分の努力から導き出したものではないのです。

そんな意味もあって、今回のように実際に自分で、その効果を検証してみるということは自分の技術への自信を深めるという意味でも大切なことです。

これまで毛皮のクリーニングにつきましては何度も、このブログで書いてきましたが、今日の投稿で、今後新しい発見がない限りは一旦終了といたします。毛皮という難しい素材のなかでもクリーニングは特に技術を極めるという意味では難しい作業です。この難しいテーマを継続して読んでいただきありがとうございました。

 

次回以降は、また新しいテーマを見つけてブログを書いてまいります。

最後にもうひとつだけ、、 毛皮にとって正しいクリーニングができるということは、とても大事なことです。最後にそのことだけお伝えいたします。

長澤祐一