【続編】毛皮の基本的な技術(その1)

以前、毛皮の基本的な技術(その1)というブログを書きました。

毛皮の基本的な技術(その1)

今日はその続編を書きます。

以前、毛皮の背筋(キャラクター)についてこの中で書きましたが、そのときにホワイトミンクでも見る気になれば、はっきりと見えると書いたような記憶がありますが、写真の薄いピンクに染色したミンクで背中心を出す作業をしたときに撮った写真です。

丁度良い写真がありましたので載せますね。

ミンクをバキューム台の上でスチームアイロンをかけて、毛を真っ直ぐに整えてから、ミンクの毛を立てた状態のものです。

ここでわかるのは中心が少し周りの色よりは暗く沈んで見えますね。

こうすることでミンクの背中心がはっきり解ります。ホワイトミンクも同じです。

何故こうなるかと言うと、スチームアイロンでまっすぐになった毛をバキューム台の上にパンパンと叩きつけるとスチームアイロンで伸ばされて均一になったミンクの毛が立とうします。

そのときに背中心の刺し毛だけは、毛根の生え方が他の刺し毛に比べてお尻に向けて急な角度で生えていることと毛が少し硬めで短い分、立ちにく、そのため、おしり側から斜め45度くらいの角度から見ると、ちょうど視線に対して真っ直ぐ向かってくるようになり、刺し毛の腹に当たる光の反射がなく、綿毛だけが見えて、暗く沈んで見えます。

それ以外の刺し毛は背中心の刺し毛よりも毛も少し長めで立ちやすい角度で生えていますので、毛の横面の光の反射が目に映り白っぽく見えるのです。

ただ、背筋の濃い部分をチェックするだけではなく、迷ったら、こんな背中心のチェックの方法もあります。ホワイトミンクで真っ白なためキャラクターが見えにくいと、つい、この辺だろう、、、と安易に背中心を出すことが、最終の仕上がりに大きく影響があることを知っていれば、いい加減な作業は出来ません。

綺麗な仕上がりとは、こうした基本的な作業の繰り返しの延長線上にあるだけのことで、特別なことをするというわけではありません。

このブログでも、哲学のように、あたり前のことをあたり前こなすと何度も書いていますが、わずかな甘えが、あとから取り返しのつかないことになることを常に頭に入れて、ものづくりをしたいものです。

読者の皆様へ
今は、以前のように、長い深く踏み込んだブログが書けません。申し訳ありません。しかし、文字数は少ないですが、都度内容の濃さに変わりはありません。どうぞ、これからもときどき見に来ていただければ嬉しく思います。

長澤祐一

 

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リンクスキャット(Lynx Cat)の特徴

今日はリンクスキャット(Lynx Cat)の主な特徴について書いてみます。

2021/08/25少し追加します。

この記事は意外に人気があり気に入る方がいらっしゃると何度も繰り返し読んでいただいています。書いた当時から人気があり、私しか書けない技術的なことがあるためかもしれませんが、良く読んでいただいております。この当時はオンラインショップも初めておりませんでしたし、インスタグラムも初めていませんでしたので画像があまりありませんでした。良かったら、インスタグラムやショップを見てもらうと私が作るものがいかに綺麗か、海外の業者さんからも評価を受けているかがわかっていただけます。下記にリンクを貼りますので是非見てください。価格も良くある馬鹿げた価格ではありません。下のリンクのショールとコートの価格はお問い合わせください。2021/8/26以降に小物も4点オンラインショップにアップいたします。

オンラインショップ

リンクスキャットショール

リンクスキャットコート

二点、三点目は 売れています。

海外からも問い合わせが良くありますが、ただ海外販売の方法が分からず販売したことがないのです。💦

リンクスキャットは芸術性の高い素材です。値段とかブランドとかの余計な色眼鏡をかけずに見れば、その素晴らしさは必ず分かります。良かったらリンクを見てください。

ここからまた以前の記事です。

リンクスキャットと他の毛皮の違いは、通常の毛皮は腹をメインに使いません。しかし、このリンクスキャットは腹の白い部分に大きな価値があります。このことはすでに知られていることですね。腹だけで作られたものをベリーと呼び、価格も1000万を軽く超えるものも多く、今ある毛皮のなかでも、もっとも高額な種類に属します。

リンクスキャットの特徴として真っ先に思い浮かぶものは、綺麗な斑点模様です。だいたいこのへんまでのことはネットで検索をすればすぐに出てきます。今回は、一般的なことは省き、ネットで調べても出てこないことを書いてみます。

リンクスキャットの皮質

リンクスキャットの特徴のひとつに、皮質があります。鞣し方にもよりますが、一般的には腹の白い部分以外は、意外に皮は厚いのです。ですから、ベリーは別にして、一般的にリンクスキャットのコートは結構重さがあります。背中の厚みのある部分を使うからです。

そして、もう一つ皮質の特徴があります。それは、皮の密度が高く、とても粘りもあり、ナイフの刃がすぐに刃こぼれしてしまうほどです。これは、何を意味するかというと、毛根をしっかりと絞め付けているせいかどうかは正確ではありませんが、一見弱そうに見える細い毛でも、抜けづらい特徴があります。おそらく皮質の繊維が細かく、粘りがあるせいかもしれません。あくまで想像ですが。チンチラのように皮が弱いものはやっぱり、毛根も弱く、少し強く引っ張るとすぐに、束で抜けてしまうチンチラとはまったく違います。

リンクスキャットの皮を鋤く

私のところでは、チンチラなど特殊なもの以外は、ほとんど独自の技術で皮を鋤きますが、リンクスキャットもやはり鋤いています。

一般的には、ほとんどが皮の厚いままで使われていますが、私のところの基準では厚すぎます。リンクスキャットの皮の厚い部分は2mm近くあるところもあり、最低でも半分以上は鋤かないと、思ったような軽さにはなりませんので、相当鋤きます。もちろん手なんかではやりません。

機械を使います。まず、最初に鋤き始めると、皮の表面が毛羽立つようになり、これを縦横と繰り返し鋤いていくと、ようやく、毛羽立ちがとれて、普通の皮の表面になってきます。そこからも繰り返し鋤き、ようやく思うような軽さになります。皮質のせいかどうかわわかりませんが、リンクスキャットの皮には鞣しで使う脂分が、とても少ないのです。そのため、皮を薄くすると、とても柔らかさが出て、フワフワの状態になります。

ただし、ここで気を付けなければ脂がほんとに少ないので、このまま使うならばフワフワのままなのですが、加工途中で一度水につけると、カチカチに硬くなります。私は、アルコールを水で少しだけ薄めて使い、出来るだけ硬くならないようにしますが、皮の奥まで水分が染みてしまうと、相当硬くなります。ドラムで柔らかくもなりますが、一度、しっかり水が染みてしまうと、元の状態にはなかなか戻りません。

ひとつ失敗談を言いますと、鋤きすぎて皮を切ってしまうことも数回ありましたが、ミンク等では、少し鋤いただけでも、毛根が飛び出し、すぐに刺し毛が抜けてしまう状態になりますが、リンクスキャットは皮が破れる寸前まで、毛が抜けませんでした。厚い頭の部分でやりましたが、ほんとにペラペラの状態になるまで毛が抜けませんでした。

裂けて始めて毛が抜けるという感じです。このことは、毛根が浅いということと、皮の繊維密度が高く、皮の粘りが強くあり、それによって毛が抜けるのを防いでいるのだろうという私が立てた仮説を立証するものでした。

リンクスキャットの腹の模様

次にリンクスキャットの模様、または斑とも言われますが、あの綺麗な斑点について書いてみます。

動物を飼われていらっしゃる方などは、たとえばアメリカンショートヘアーなどは背中の模様はほぼ左右対象だということは知っているかと思いますが、実はリンクスキャットの腹の斑点模様も、ほぼ左右対象に並んでいます。

コートになるとそれを意識して職人さんが作っていないものがほとんどなので斑はランダムなものだと、、それが天然というものだと、、、思われがちですが、実は、綺麗にほぼ、左右対象に並んでいます。多少左右の斑の大きさや形が違ったりしますが、基本的には左右対象になっていて、さらに中心もしっかりとあります。もちろん、左右対象じゃない、左だけにあったりするものもあります。100%左右対象ではありません。
リンクスキャットの背中の模様

上の写真を見てもらうとわかりますが、顎から下の部分で接ぎ合わせていますが、腹の中心を綺麗に合わせて作るとこうなります。意外に綺麗に左右そろっていますね。毛は斑の並びがわかりやすいように左から右へブラシをかけてあります。赤のラインの延長線上が接ぎ目になります。ここでいい加減な中心出しをして接いでしまうと、綺麗に中心のラインは通りません。

リンクスキャットの背中の模様2

もうひとつ上の写真をみてもらうとわかりますが、腹の中心に綺麗に直線に斑が並んでいるのがわかります。このようにコートでみるとランダムに並んでいるように見える斑点模様も実は7割は規則正しく並んでいるのです。腹の下のほうにいくと、どんどん斑が大きくなりわかりずらくなりますが、ランダムではありません。

もうひとつ写真を載せます。下の写真は最近作ったコートです。私はどちらかというと、真っ白のベリーよりは、少し黄色い部分が入ったもののほうが好きなのです。
リンクスキャット(Lynx Cat)

真っ白も確かに技術的にも簡単ではありませんが、原料次第という部分もあり、黄色の部分が入ったほうが斑やボリューム感、毛の長さ等を綺麗に合わせないと綺麗に出来ませんし、自然の色同士が、うまくマッチングしたときの色の立体感からいっても、やはりベリーよりは、こちらのほうが好きなのです。

このコートの写真の赤いラインの延長線上の前中心にも腹の中心が通っていますね。

ちなみに、このコートを作るのに使った枚数は24枚です。ベリー以外で、よく見られる一般的なリンクスキャットのコートの使用枚数は、8枚~12枚くらいです。しかも、小さな原皮でパサパサの毛質で、私のなかで綺麗だとおもうものは、ほとんどありません。同じリンクスキャットでも、白い腹の毛のボリューム感や毛の長さ等を比べてみてもピンからキリまであるのです。

リンクスキャットだからすごくイイもの?、、、というわけではありません。イイものを選ぶ目はプロだから持っているわけでもないのです。理解できていないプロもたくさんいます。ほんとにイイものは素人の方でも、うぁ~ 、、 という感動が心の奥から湧き出てきます。それが毛皮の本当の魅力であり魔力です。

背中心の大切さ

前々回のブログで書きましたが、背中心を正確に出すことの大切さが、今回の写真でもお分かりになるかと思います。

今回は背中ではなく腹ですが、それでもちゃんと中心があり、中心を合わせることで、左右に中心のラインが通り、一見ランダムに見える斑も生き生きとしてきます。

つくりを考えれば、リンクスキャットはいくらでもごまかせます。

適当に斑と毛の長さ、色を合わせれば、素人が作っても、なんとかなります。毛皮のミシンさえ、適当に縫えれば素人でも、部分的には簡単にできそうなのです。しかし、左右対象に黄色い部分をいれて自然にみせたり、しっかりと中心を出し、それを綺麗に活かすということを考えると突然、難易度の高い技術を求められます。

最寄りの、毛皮サロンに行くことがありましたら、そんなことを考えながら、商品を見てみるのも良いかもしれませんね。本当に良い商品は少ないのがよくわかります。

長澤祐一

 

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毛皮の基本的な技術(その2)

お尻合わせの縫い

毛皮の縫いで難しいと思われるのが、お尻合わせの縫いであることは、少しできる技術者ならわかりますし、仮にわからないひとがいるとすれば、難しい、綺麗に縫わなければいけないという意識というかレベルにない人であろうと思われます。

お尻同士の毛が何故縫いにくいのかは、毛が頭からお尻に向かって生えていることで、縫い合わせるときに、毛が向かいあい、毛をなかに入れて縫うことが難しくなります。毛が硬くなれば余計に入りづらいし、刈毛のように短いのも、とても毛を皮から出ないように入れて縫うという基本的な毛皮の縫いが、しにくくなるからです。

もっとも大事なBCの縫い

コートや小物のなかでも、もっとも大事な部分にBC(バックセンター)という部分があります。例えば、ヘチマカラーであれば首の後にくるカラーの中心、ストールもそうですね。

コートであれば横段仕様の場合には背中の中心にお尻同士を縫い合わせた部分がきますね。みな、どれもとても目立つ位置にきます。私が見る中ではお尻合わせがまともに縫えているところは、まず皆無です。

厳しい言い方ですが、ひどいレベルはたくさんあり、まあまあかな??と思えるレベルがほんとうにたまにあります。国内生産のものには逆に少ないという現実もあり、前回も書きましたが国内の職人さんのレベルがとても低いことを実感しています。

大事な原料を使い、それなりに高い加工料を払っても、この程度かという現実は、やはり厳しいものがあります。

これは、リフォームでお預かりした小物を有機溶剤で洗いオガで匂いをとった状態のものです。 (さらに…)

毛皮の基本的な技術(その1)

背中心

背中心を出す

今日は「毛皮の基本的な技術」について書いてみます。写真を見てもらうとわかりますが、セーブルを水張りして余分な部分を落とし、背中心でカットしたものです。

写真が少しぼやけてますが許してください。写真では中心でカットしてあり、その中心側の左右が黒っぽくなっていますが、これがセーブルのキャラクター(背中心)です。左右にバランスよく、黒い毛が分かれていますね。

これが以外に難しいのです。写真では幅が2cmくらいありそうに見えますね。しかし、毛が広がって、そう見えているだけで、実際の毛の濃い部分は左右あわせても1cmあるかないかです。この背中心の出し方は、それぞれ技術者によって違いがあるかとおもいます。例えば一番多いのは下にチャコぺーバーを敷いてルレットなどで毛皮の上から、背中心の濃い部分をなぞる方法があります。他にもいろいろとあるでしょう。

しかし、大体の職人と呼ばれる人達の、そのキャラクターを出す精度は、かなりいい加減なレベルであると断言できます。一般的なものづくりでは、技術の日本と呼ばれていても、こと毛皮の技術になると、技術者のレベルは残念ながら、厳しい言い方ですが、こんな基本的なことさえもできないひとたちが大半であると言わざるをえません。 (さらに…)

【和装コート】ブラウンロシアンブロードテール(Russian Broadtail)

今日は、久しぶりにロシブロ(ブラウンロシアンブロードテール(Russian Broadtail))のことを書いてみます。デザインがわからないように後ろからの画像しか載せません。前回のグレーのメンズロシブロはスキンから、お作りさせていただきましたが、今回は一着分のプレートになったものから作っています。

プレートの着丈は125cmあったので、私がみたなかでも最大のプレートでした。スキンの状態も、腑がグレーの時と同じように豪快で、毛も短すぎずペタっとし過ぎず最高の状態でした。 (さらに…)

毛皮コート(レットアウト)の型張り

今日はフルレットアウトしたコートの型張りの写真を載せてみようと思います。素材はロシアンセーブル・ヘビーシルバリー(Russian Sable Coat for heavy silvery)です。

一昨年、くらいに二点作ったうちの一点です。着丈は多分95~100cmくらいだったかと思います。セーブルの原皮、特にワイルドは傷が多く、傷を綺麗にロスなく抜いてレットアウトをするのですが、結構苦労します。 (さらに…)

シェアードミンクコート(Sheared Mink Coat)の仕上がり(3)

刈毛のアームホール縫い目の仕上げ前

今日は前回の当ブログ記事「シェアードミンクコート(Sheared Mink Coat)の仕上がり(1)」の続きで、アームホールを縫ったあとの袖山の縫い目の仕上げについて書いてみます。

そう言っても、たくさん書く事はありません。上の写真を見てもらうと最初のものは袖付の山の部分の縫い目が少し溝になっているのがわかりますね。

これは、袖付で通常の縫い目よりも少しだけ厚くミシンをかけることもあって、毛の根元を縫い込むことで溝が深くなりやすいのです。

これを仕上げると下のような状態になります。汚い、深い溝が80%くらい消えています。この技術は残念ながら、私のところでしか今現在も仕上げることができません。 (さらに…)

シェアードミンクコート(sheared mink coat)の仕上がり (2)

本日は前回書いた「シェアードミンクコート(Sheared Mink Coat)の仕上がり(1)」の続編として「刈毛の表面の仕上げ」について書いてみます。

刈毛の表面の仕上げ

仕上げ前 刈毛

刈毛は私のところでは、ニチロ毛皮㈱マルコ工場さんでやって頂いています。上の写真はマルコさんで刈っていただいたものです。

刈毛の表面も拡大してみると意外に凸凹しています。刈毛する前工程で回転アイロンをかけるのですが、これはかなり難しいのだろうと想像ができます。 (さらに…)

シェアードミンクコート(Sheared Mink Coat)の仕上がり(1)

今日は、当社のメインアイテムのシェアードミンクコートの仕上がりの特徴について書いてみます。当社のメイン商材のシェアードミンクの作り方は、一般的な、または中国製のものとは決定的に違う部分がいくつかあります。全体の仕上がりが違うのはもちろんなのですが、部分的に言うといくつかあり、その代表的な部分を説明してみます。

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シェアードミンクコート(sheared mink coat)肩ラインの仕上がり

まずは肩の部分の仕上がりについて書いてみます。今、中国でつくられているもののなかにも、かなり上手に作られているものと、いまだに、10年前と同じレベルのものと二通りあります。おそらく、それは、今でも新規に工場が作られていて、技術が成熟していない工場もあり、そんなところで作られたものも市場に出回っているからなのでしょう。あくまで想像ですが。 (さらに…)

ロシアンブロードテール(Russian Broadtail)のジョイントテクニック

過去に何回かロシアンブロードテール(以下、ロシブロ)のジョイントについて書いてますが、以前は多分、パーツをどう割るかというところに論点があったかと思います。今日はロシブロそのもののカットや縫い方について書いてみたいと思います。

ロシブロは毛の少し長くなったものから、ものすごく短いものと、いくつかのケースがあります。今回は、毛がとても短いタイプの縫い方を書いてみます。

ここに書かれることは、あくまで私のアトリエでの作り方なので、一般的な作り方とは違いがあるかもしれませんが、そこはご容赦ください。

ロシブロのカット面を中国などで作られたコートなどでみると、皮をカットするときに、ハサミで毛を切りながらカットしているのが解ります。全部ではないですが、結構たくさんの商品に見られます。 (さらに…)