どれだけ、書いていることとやっていることが一致しているか?

どれだけ、書いていることとやっていることが一致しているか?

今日のテーマも難しいですね。

 

しかし、これはこれまでのお客様に判断していただくしかありません。

と、普通は書きますね。

確かに、これまでやってきたことでしか判断はしてもらえないのです。しかし、それは事実と違う場合があります。

それは毛皮という素材をお客様が理解できないということがあります。私は、お預かりしたものはどんなことがあっても最高の状態にしようと未知の劣化の酷いものでも、何とかしようとします。

お客様に判断して頂ければと言えるのは、簡単なことです。とても綺麗な言い方で誰でも言いそうな文言です。現実はそんな簡単ではありません。

以前書いたかどうか記憶にありませんが、本当にどうにもならずに、お客様に極限までやれることをやり、どうにもならずに、ご理解いただいたことが一回だけあります。

blogを始めて二三年のときだったかとおもいます。劣化等について書き始めた頃に、駆け込み寺のように、たくさんの問い合わせがありました。その中でどうしても、思うようにならないコートがあり、その時は、頭を下げ、お客様には許していただきました。都度途中経過も説明しながらです。

最後は、長澤さん、もう良いですよ。もう十分やっていただきました、、、と言ってもらいながら、これ以上は無理だと自分で判断しあきらめたことがあります。

 

劣化のあるものは読み切れるものと、先が全く読めないものがあります。そんなこともあり普通は絶対やりません。一般的な業者のほとんどは、劣化や硬化に対して知識がないということもありますが、そのために少しでもリスクのあるものは受けません。それは仕方ないことなのです。責任が持てないということが一番の理由です。まして高額な毛皮という素材ですから。

私の場合は自分なら出来るかもしれないという気持ちと、なんとかして上げることが出来ないだろうかという気持ちが半々で、お引き受けすることがほとんどです。

もちろん、利益なんか度外視です。利益やリスクを考えるから他の業者さんは絶対に手を出しません。それはよく解るのです。でも、だから何時までたっても、技術力が進歩しないともいえます。

 

確かに、リスクのある状態のコートのリフォームは利益なんかまったく出ません。しかし、ノウハウという大きなメリットは自分に残せます。そのノウハウは次に必ず役に立ちます。

もちろんすぐではありませんが、複数の結果は必ず回答を導きだしてくれることがあります。

 

ただ、正直言うと、複数の失敗したデータから導きだされた結果が、一番最初に解っていれば、あの時のあのコートももっとよく出来たのではないかと思うこともあり、申し訳ないと思うことも多々あります。というかその連続です。科学技術も含め、それはあたり前のことと思いながらも、あの時に今ある技術があれば、もっと良い処理が出来たのではと思うことが多いのも事実です。

ちなみに劣化について少し説明しますが、完全に繊維のチェーンが外れてしまい、段ボールの紙のようになってしまうと、水に濡らしただけで簡単に切れます。こうなるともう100%どうにもなりません。

じゃあ何故こんなに格闘するかというと、ほとんどの場合は劣化しかかっている状態であったり、硬化してしまって元に戻すことができないと判断されてしまったりして一般的な業者からは、これは元には戻りません、または出来ませんと言われてしまうのです。

一見、丈夫そうに見えるヌートリアが簡単に切れることを以前書きましたが見た目ではなかなか判断が出来ないのです。

 

今日もタイトルと一致したかどうかわかりませんが、いつも頭のなかでぐるぐると考え悩んでいることです。

どれだけ、書いていることとやっていることが一致しているか?難しいテーマです。

ただ、お一人でも、このブログを読んで、もしかしたら、、と思いお問い合わせくださる方には、これからも、全力でフォローを致します。

前回のファーブランドとして生きるという記事でも書きましたが、毛皮が好き、、毛皮で助けて欲しいという方がいらっしゃいましたら私にできることは、時間はいただきますが全力で致します。

 

長澤祐一

 

 

毛皮の皮の劣化とクリーニング その6  その他

今日は、数回に分けて書いてきたなかで、さらに書き切れなく、一つのテーマとして書くほど長くもないという単発的なことをいくつか書いてみます。

 

毛皮の劣化やクリーニングについて、私が書いてきたことが正しいかどうかは、私自身も100%の確証はありません。
その理由は、毛皮の性質からいうと、毛と皮の両面から考える必要があり、学術的に正しいといってもそれが絶対とも言えないのが現実です。その理由は、毛皮自体に個体差があり、鞣し作業でも個体ごとに作業の差があったり、さらにはその後の保管状況によっても差が出たりと、あらゆる局面で差があることが、劣化やクリーニングに対してのそれぞれに考え方が違う要素になっています。
さらには、今現在の一般的な毛皮のクリーニングに使われているパウダークリーニングという手法も、もう何十年も前に、当時の専門家が考えた手法であり、その当時と今では、一年を通じての気温も違い、当時は毛皮の歴史も浅く今のように劣化した毛皮がたくさん出たということもないという、そんな時代と現在とでは、本来であれば考え方が変わってもいいはずですが、業界が小さいということもあり新しい考え方が出てくるほどでもないのかもしれません。

今回私が書いたことの証明が出来るとすれば、私自身が作った商品で見てもらうほかなく、劣化で言えば、私が納品したものが年数を経ても硬化したり劣化したりしないという、そのことでしか証明が出来ないという気の長い話になるのですが、そこは、これまで記載してきた記事を読んでいただき託してもらうしかないと考えています。

 

 

 

脂を抜く作業をたまにですが上手くいかず、抜き過ぎる場合もあります。そんな時には柔軟剤を皮に多めに入れてから再度有機溶剤とオガで脂を抜きなおすこともあります。その時に、柔軟剤を入れて皮を縦横に伸ばして皮の繊維に十分に柔軟剤が行きわたるようにします。繊維が縦に伸びている状態だと十分に細部まで柔軟剤がしみ込まないことがあります。このように手もみをして、この状態で再度ドライをします。これで、また柔らかさが戻ることがあります。絶対ではないのですが、もうダメかと思いながらもやり直してみる価値はあります。

 

 

オガに水分を含ませてドラム(回転式洗浄機)を長時間回すとドラムの中の温度が上がります。化学的なことはわかりませんが、オガが発酵のような状態になるのかもしれません。しかし、少量の水をオガに染み込ませることで毛に効果があるように感じます。例えば静電気防止剤や艶出しは水溶性液体で、これを水で薄めて使うのですが、水だけでやっても毛に少量の湿気が加わり、しっとりとして綺麗になります。ただし、水分が抜けていくときに一番繊細な毛の先がカールすることがあります。特にセーブルのような繊細な刺し毛を持っている素材の場合には起こりやすいのです。ですから、今は艶出しも静電気防止剤も使っていません。人間の髪の毛は少しオイリーなほうが良いと言われますが、毛皮は人間の髪の毛よりも何倍も細くて繊細です。ですから今は余計な薬品は使わずに仕上げています。
よく、ヌートリアのような抜き毛になったものをクリーニングに出すと毛がパサパサになって戻ってきてがっかりされるお客様がいらっしゃいますが、元々の状態に戻ったということなのです。クリーニング段階で何をすればそうなるのかわかりませんが、仮にあるとすればパウダークリーニングで有機溶剤系以外の水溶性の洗剤または艶出し等が使われると人間の髪の毛と同じで毛が僅かにウェーブがかかります。というか戻ります。元々ヌートリアのような抜き毛素材は、高温の回転アイロンで人間の髪の毛で言うストレートパーマをかけたような状態にして毛艶をだしていますので、水分が少しでも入ると毛は元に戻ります。パーマではなくドライヤーで髪を伸ばした状態なので水分を含むと縮れる性質なのです。そのためにヌートリアのような抜き毛素材はクリーニングに出して戻ってくると白っぽく艶のない状態になり、がっがりされることがあります。私もアトリエに回転アイロンがあり高温にしてヌートリアの毛を伸ばしますが、製品になったものは出来ません。理由は、毛を伸ばすためにアイロン部分を200度くらいか、それ以上に上げないと綺麗に毛が伸びません。しかも伸ばすために薬品を使うこともあります。クリーニングにくるものは商品になり裏地などが付いたカフスだったりコートに取り付けられたものがほとんどのため、裏地や他の生地を傷めるリスクが高過ぎて本格的に毛を伸ばす仕上げが出来ないのです。

 

 

毛皮につく匂いのほとんどが人間からつくものと、湿気から発生するカビ、そして香水です。女性の方は信じたくはないでしょうが匂いの発生元の多くは人間からなのです。クローゼットのなかは、ご自分では絶対に大丈夫だと思っていると思いますが、一回でも着たものをクローゼットに入れれば匂いは移ります。そしてそのなかで匂いが蓄積します。空調があるからといって安心もできません。洋服や毛皮を密着させた状態では部分的に湿気はたまって、カビの発生原因となるからです。
香水は、ご自分のものですから仕方ないとしてもカビは気になりますね。
ご本人は気付かれてないかもしれませんが、大半の毛皮コートにカビが生えています。ですから、よく保管中に不織布のカバーがかかった状態で倉庫に保管されているケースがあるかと思いますが、あれはかなり危険です。私のアトリエでも顧客のコートをクリーニングと保管を承ることがありますが、一番気を使うのが汚れではなく匂いです。コートを密着させれば不織布カバーでは絶対に匂いとカビは移ります。私のところは販売する商品もありますから、ものすごく神経を使います。
クリーニングにオガを使う理由は消臭効果もあります。有機溶剤で消臭効果が期待できるかどうかは分かりません。脂分が発生する匂いもあるので効果がないとは言えませんが、一番の効果はオガだと思います。私が使っているのはヒノキですが、詳しくはわかりませんがヒバとも言うようです。このヒノキのオガが消臭に効果があると感じます。最近使っている、家電のLGスタイラーというのがありますが、これも消臭効果が実際にあります。これはいつか別の記事で書きますが確かに消臭効果があります。強力な香水の匂いは難しいですが、軽い匂い程度であれば取れます。これは薬品やオガを使う訳ではないのですが、おそらく高温の蒸気が匂いを取るのだと推測しています

 

 

業者さんのやるパウダークリーニングとは何か変じゃないですか?パウダーという言葉の意味は、よく書かれているのはトウモロコシの芯を粉末にしてとか、皮に必要な油分を補充するとか? ありますね。それでは皮の脂分がどれほど不足しているんですか?裏地もとらず、皮を触りもせずにどうやって必要な油分を割り出すのですか?毛の栄養分?よくわかりませんよね。皮の必要な油分も毛の栄養剤も全て一回のパウダークリーニングという処理でやるのですか?汚れを取り除くのと栄養と油分を加えるのと一緒にするというのはかなり強引です。皮の油分を調整して足すなんてことも書かなきゃいいんです。だって裏地をとらずに毛の側からどうやって奥の皮まで必要な油分を補充するんですか?毛にも必要な栄養分をというなら先に汚れを落としてからでしょう。私はそう思います。人間用でリンスインシャンプーなんてありますが、毛皮は基本的に水洗いなんかできません。あれもこれも効果のありそうなことを書いてはありますが、全て一回のドラム処理では難しいと私は思います。毛皮の機械でグレージングマシンと言われている回転アイロンがあります。私も持っていますがセーブルやミンクの刺し毛の一番先の顕微鏡で見ないとわからないような細い毛先は、グレージングマシンを少し強くあてると毛先がわずかに切れてしまいます。毛皮が毛皮らしさを出している一番の部分です。毛先がバチっと切れてしまえば、フェイクファーと同じになってしまいます。特に危険なのは、クリーニング仕上げでコートになった状態でかけるのは、肩やエリというように凹凸があり、回転するアイロン部分が部分的に強くあたってしまい、毛切れの危険性があります。チンチラのように柔らかい毛は危険かというと柔らかすぎて切れないという結果が私のなかでは出ていますが、どちらにしてもグレージングマシンは危険があります。ただ作業をしている分には気が付きませんが、毛皮の本来の輝きを知っていれば、作業の結果からでる様々な違いに気が付くはずです。お客様受けしそうな文言を精一杯並べても、これは矛盾ががあるだろう、、、と私は感じています。私自身もネットという、この場所で競い合う場を作って書いているわけですが、日本製だとか、選りすぐりの職人が作るとか、、、書きたい放題書かれていますが、いつも自分も同じにならないようにと感じています。日本製だからいいのか?選りすぐりの職人とは誰が決めたんだ、、、といつも思います。クリーニングについては全てわかるわけではありません。しかし、少なくとも毛皮のことであれば分かります。ネットに出ている画像を見れば、どの程度の職人が作っているかなんて分かります。その度に、私も同じように見られないようにと記載する”言葉”にはいつも気を使います。

 

最後に一つ大事なことを書きます。私がオガを使ってドライ処理をするのは、リフォームや例えば裏地を交換するタイミングでやることです。裏地替えのときは普通は芯や付属は変えずに、ただ裏地だけを交換しますが、せっかく裏地を外すのであれば、出来れば費用は掛かりますが芯や付属を全て外して毛皮を毛と皮の両面から洗うことをお勧めします。もちろん、購入金額等とのバランスもありますが、セーブルや品質のよいミンクなどであれば価値はあると思います。

 

じゃあ、裏地がついたままのクリーニングはお前はどうするんだと質問が出るかもしれません。もちろん、シークレットですが、それにしても裏地を付けたまま、オガドラムなんて絶対にかけません。オガが裏地のなかに必ず入って取れませんから。正直、個体ごとにやることを考えないといけないのです。ドラムでたくさん回せば、カギホックや毛皮専用の留め具などをしっかりカバーしないとドラム回転中に裏地に傷がついたり、カギホックそのものの先が傷がついたりと難しいのです。私もネットに入れますが、それでも傷がつきます。よく、長い毛のもので留め具周辺の毛が切れていることがありますが、お客様が着用しただけでは、あそこまで切れないのです。ドラムにかけ、ドラムのなかの棚のような部分や蓋にあたって切れています。書き出すときりがないくらい諸々問題がでます。それをパーフェクトにクリアするのは一律の作業ではかなり難しいのです。もちろん、だからといってマニュアル化は否定しません。やるべきだと思います。やればどこかで出口が見つかるのかとも思います。私自身の作業もマニュアル化はしています。ただ、最初の段階では失敗の連続です。私自身もまだまだ全てが解決できていません。

 

今日は補足の寄せ集めみたいになりましたが、内容はそれぞれに大切だと感じることを記載しています。予定は2000字くらいでしたが4600字になってしまいました。申し訳ありません。
このブログが何百万人に一人でも、面白いと思って読んでもらい、ひとつでもお役に立てることがあれば嬉しいです。      長澤祐一

毛皮の皮の劣化とクリーニング その5  パショーネ編

今日は前回に続いてパショーネでやっているクリーニングと皮の劣化を防ぐ方法について追加で書いて見ます。

大きな設備(専門業者)でドライクリーニングをやる場合、想像ですが、例えば裏地を剥がした毛皮コートをドライクリーニングする場合に溶剤の量は多少関係すると感じています。例えば、溶剤の量が少ないと皮から溶け出した脂分が当然のことですが、溶剤が少なければ溶剤のなかの脂分の濃度は上がります(この濃度があがるということは、本来であれば有機溶剤に脂は溶けて脂分としての成分がなくなってしまう訳なので学術的にはあり得ない理屈なのですが、実際には私の想定していることが起こっていないと、毛のべた付きは起こらないと考えます)
。その結果何が起こるかというと毛皮の皮から溶け出した脂分が毛につきます。私がドライ加工依頼をして仕上がってきたものの3割は、私の基準では毛に脂分が付着した状態で乾燥仕上げが行われていました。当然のことですが、毛を触った感触はサラサラという感じではなく、少しベタっとして、私達の汚れた髪の毛のような感触になります。溶剤を節約した結果か、時間が短すぎるために、こうなるのかどうかはわかりません。でも、おそらくはそうであろうと思います。

コート一着をドライにかける時間は私にはわかりません。しかし、聞くところによると、そう長くはないらしいです。もちろんそのために脱脂効果の強いパークロロエチレンを使うわけですから当然と言えば当然なのです。

ただひとつ言えるのは短い時間になればなるほど調整は難しくなると感じます。もちろん大量の原皮をドライするなら量が増えることで効果の均一化は図れるのかもしれません。しかし、コート一点となると、どのくらいの時間と溶剤の量が必要なのかは逆に難しくなるとも言えます。

それでは、私がやっている方法はというと、脂分が強いものは直接、刷毛やブラシのようなもので溶剤を直接、皮裏面に染み込ませます。脂分が弱いものの場合には、オガ屑に溶剤を混ぜて、毛や皮面に間接的に溶剤を染み込ませます。

直接、皮に溶剤を染み込ませた方が当然ですが強い効果が得られます。コートを溶剤で濡らし、オガと一緒にドラムに入れます。この時のオガは、水洗い洗濯で言えいば水の役割になります。溶剤で溶け出した脂分をオガが吸収してくれるわけです。毛に付着した脂分も取ってくれます。ですから、オガの量イコール水の量になりますから、オガの量が節約して少なければ、どんなに有機溶剤で脂を溶かしても、脂分を取ることの効力は落ちることになります。一般的に加工業者さんが使うオガの量は鞣し業者さんに比べれば、かなり少ないのですが、それは加工段階でカットされたムダ毛を取り除くことが主たる目的だからです。しかし、クリーニングとなると目的が変わり、オガの量も当然変わります。オガの量イコール、水洗い洗濯で言えば水の量になるという意味はそういうことです。当然、水をケチってしまえば、濯ぎが足りないという状況になり、オガで言えば、せっかく有機溶剤で溶かした脂分を取り切れなくなるということになります。

それと、もうひとつ書くとすれば、オガと有機溶剤で取られた脂分も、この方法だと完璧ではありません。皮に厚みがあり、脂分を吸収するのが皮裏面からオガが付着して吸収するために、皮裏面の表面が、より強く脱脂されます。その結果何が起こるかというと、ドライした直後は皮の表面はカサカサして脂分が完全に抜けたようになりますが、時間の経過とともに、皮の奥(毛のある方)から少しずつ脂分が染み出て、皮裏の表面に移動し、結果として皮の脂分の状態が均一化します。

もちろん、これではもう少し脂分を抜きたいと思う状態のときもあり、その時は二回目のドライをすることになるのです。

確かに大変なのですが、この方法だと手間はかかりますが確実に脂分の量をコントロールできるのです。
クリーニング屋さんでやるドライクリーニングの意味は洗剤を同時に入れるとも聞いたことがありますが、主たる目的は汚れ落としです。毛皮の場合のドライクリーニングは鞣し工程で使った脂分を落とすことが目的です。その違いは言葉は同じでも大きな違いがあります。

ほとんど知られてはいませんが、脂分の量のコントロールは仕上がりの軽さや柔らかさに大きく影響し、さらには劣化という一番のリスクに対しても影響があるのです。どんなにデザインや綺麗な形を作ることに気を使っても、毛皮の持つ本来の魅力を引き出せない仕上がりでは、毛皮を生かしたとは言えません。

脂分の量が適切にコントロール出来れば、https://www.instagram.com/p/B18aNR2nj84/ この動画のように何年経っても、まったく硬さも劣化もなく綺麗な仕上がりを維持できるのです。もちろん、100年持つとは言えません。しかし、何もしない鞣しあがったままの脂分のコントロールされていないものから比べれば明らかに耐久性は出ると考えます。

もちろん、染色され、その途中工程でクロム鞣しという処理をしているものであれば、劣化のリスクはかなり軽減されていますが、染色屋さんが、リフォーム等の作業で染色された毛皮を再染色するときに再度、クロム鞣しをすることを考えればクロム鞣しの効果も永遠ではないということを証明しています。それとクロム鞣しがしてあっても脂分が多いことで湿気を吸いやすかったり、柔らかさが不足したりします。クロム鞣しが劣化に対しては有効であっても、軽さや毛のべたつきや柔らかさには効果を持たないということです。従って、毛皮の脂分のコントロールは品質面から考えても必要であると言えます。

単に、鞣し上がってきた原皮を何も考えずに使うのであれば、工賃は少なくて済むのです。
しかし、毛皮には必ず個体差や鞣し工程のなかで起こる不均一さというものがあります。
それを極力、皮を鋤いたり脂分をコントロールしたりして均一化することがガーメントには特に影響します。
わずかそれだけのことですが、手間は倍以上違うのです。ものづくり日本と日本製ということを一番に謳うなら、最低これくらいは考えてもの作りをする必要があると思います。

今日はこの辺で終わりにします。ごめんなさい、いつも過激になる一歩手前で書くことをやめてます💦

あと一回書くことがあるか考え、またアップします。     長澤祐一

毛皮の皮の劣化とクリーニング その4  パショーネ編

こんにちは。前回と少し間隔が短いですが、書き溜めてあったのでアップします。

今日は、私のところではどうやって劣化の間接的な原因となりやすい皮の脂分を抜いているのかを少しだけ説明します。

もう、30年以上前にアントレプレナーカレッジというところに半年通ったことがあって、そこにはいろんな仕事や起業をしようと思っている人たちがいて、たまたま同期にクリーニング屋さんが実家だったような友人がいました。丁度独立したばかりのころでしたが、その友人にドライクリーニングで使うターペンという石油系の溶剤を譲ってもらったことがあり、その溶剤をおが屑に混ぜてドラムという機械にコートをかけました。当時は何もしらずに使いましたが、多分規制がかかった溶剤なのかもしれません。ターペンはすごく石油の匂いがきつく、この石油の匂いが取れるのかと心配になるくらいきつい匂いでした。

ドラムとは毛皮の毛取をしたり柔らかくしたり、おが屑を入れてクリーニングに使ったりする機械ですが、私のドラムは八角形のドラムで網の蓋と密閉にするための蓋が四枚ずつついていて、密閉をしておが屑にターペンを混ぜて一日洗いました。
一日かけて、その後、網の蓋にかえて、おが屑を落とし、コートを綺麗な状態にします。

仕上ったときの感動は今も忘れません。それほど綺麗だったのです。柔らかさ、毛の本来の輝き、匂いも取れたりで、びっくりしました。

それから、30年かけていろいろ試して今の溶剤にたどり着きました。聞きたい人がいたらメールをください。ここには書きませんが教えます。以前も、何度か教えろとコメントを頂きましたが、名前もどこの誰かも名乗らずに、情報だけを教えろというひとがいましたが、それは無理ですから。

私達は専門業者ではないですし、パークロロエチレンを回収するような高額な設備もありませんから市販で買える規制のかからないものを使っています。

業者が何故人体にも影響のあるパークロロエチレンを使うがというと、脱脂の強さと乾燥のスピードです。仕事でやる以上、大事なことです。しかし、私達が自分で使う分には特にスピードは求めません。逆にいうと、その脱脂効果の弱さが少しずつ脂を抜けるということで私にとっては逆にコントロールしやすくメリットになっています。

パークロエチレンよりも脱脂効果が弱いということは、自分で抜きたい脂分の加減を調節しやすいということになるのです。
ただ、弱いと言っても、溶剤を手に付けるてティッシュ等でふき取ると手はカサカサになりますから、決して弱いというほどではありません。

前回か前々回にも書きましたが、パークロロエチレンでやると、脱脂効果が強いこともあり、私がやる何時間もかけて脂を抜くのではなく、一瞬のようなのです。逆に言うと望むレベルに脂が抜けたのか、または抜け過ぎたのかの判断はかなり難しいとも言えます。結果的に仕上がってみてから毛をチェックしてみて、皮の脂が溶剤に溶けて、その脂分が毛に逆についてしまうことが発生し、べたつきが出たりしますので仕上がりを見るしかないのです。これは、コートでも原皮でも同じでした。複数の鞣し屋さんや染色屋さんに出しても同じ悪い方の結果が出ることがあり、当時はその意味が解らず黙って受け入れることもありましたが今は、手間がかかっても自分でやることが出来るので納得いくまでやることができます。

ひとつ参考までに何故ドライクリーニングがいいのか?ということですが、もちろん汚れが落ちることや乾燥が早いことなどいくつかのメリットがあります。しかし、一番のメリットは多分ですが、形が崩れにくいことです。
ティッシュペーパーを有機溶剤と水の両方に付けてみると、その差は歴然とします。ティッシュペーパーを水につけるとすぐに組織が崩れてしまいます。形の維持が難しいのです。一方で有機溶剤に付けたティッシュペーパーは形が崩れません。

この原理を利用して毛皮でもパークロロエチレンを使うことによって、仕上がった完成品のようなものでも、大きく形を崩すことなくクリーニングができるのです。

今日のテーマはわたしのところでやるクリーニングでしたが、少しテーマから外れました。ごめんなさい。次回もう少し続きを書きます。

長澤祐一

毛皮の皮の劣化とクリーニング その3  専門業者は安心か?

今回のテーマは専門業者さんからクレームが来そうですが、とりあえず、分かることを書いてみます。

前回はドライ液で丸洗いすることを書いてみました。

私は、専門業者さんの工場に入ったことも、直接聞いたこともありません。しかし、大体の想像は付きます。
ただ、少し違っていたら、ごめんなさい。

毛皮コートは一般的には裏地がついて仕上がってしまうと、ドライの丸洗いは出来ません。というかしません。
少し余談ですが中国では日本国内で規制されている溶剤も、もしかしたら違反して使っているのかもしれませんが、おそらくですが、裏地がついて仕上がってから強いドライをかけてコートをクタクタに柔らかくしています。もちろん全てではありません。リスクが多少あるのと前回書いたようにドライクリーニングする機械が高額なので小さな工場ではドライができませんから、余程設備がしっかりしている工場だと想像がつきます。
ただし、この方法は効果はありますが、かなり乱暴です。ドライ溶剤でコートを作るとき伸び止めテープ等を使えば、そのテープの糊は溶けてしまい、中のテープは剥がれてしまいます。見えないだけで、コートのなかのテープは、あっちこっちはがれてしまっている状態です。でも、外側からは見えないからそれでも良しとする、いかにも中国らしい方法です。

話がそれましたが、毛皮の一般的なクリーニングでは専用のおが屑とパウダーとよばれるトウモロコシの実なのか芯の部分かはわかりませんが、粉にしたものと場合によっては有機溶剤を少し混ぜるようです。100%正確ではないかもしれません。ただし大きな違いはないはずです。

おが屑といってもヒノキ等の専用のもので、大きさも都度指定したものを使います。私はすごく細かいものと普通のものを混ぜて使っています。

この方法のメリットとデメリットを書いてみます。メリットは少量のドライ液がおが屑にしみ込み毛の表面や奥の方まで入り込み有機溶剤(ドライ液)がしみ込んだおが屑で脂分を溶かし、おが屑にしみ込ませます。さらにおが屑の表面にあるチャカチャカした部分で汚れをひっかけるようにして取り除くとも専門家のあいだでは言われています。この作業自体は毛にはとても効果はあると思います。ただ、一つだけダメだしをするとすれば、細かいおが屑が、裏地のまつりめからコートの中に入ってしまい、そのおが屑がコートの裾や袖口にたまってしまうのです。業者さんはエアーガンや掃除機で取り除くとは言っていますが、リフォーム時に裏地を剥がすと裾の見返し部分にたくさんのおが屑がたまっています。その量はコートごとに違いますが、ひどいものになると裾にかたまりになるほど入っているものもあり、これで仕事として成立するのかと思うほどです。

クリーニング業者さんが自分がクリーニングしたすべてのコートの裏地や付属を外して確認する訳ではないので、末端で作業するひとたちは指示に従うしかないことを考えると仕方ないのかなとも思います。

当然ですが、皮裏面まで有機溶剤が入ることはないので皮の劣化を止めることや皮面に染み込んだ匂いも取れることはないのです。
古い毛皮コートのかび臭い匂いは、毛についているだけではなく、その多くが皮に染み込んだ状態でついています。ですから毛の表面だけを洗っても匂いは全く取れません。

さらには業者さんのホームページでは、これもどこかで書いた記憶がありますが、最初のページではあれもできます。これも出来ますと書いてありますが、ページ最後のほうをみると、逆に、少しリスクがありそうなものは、あれも出来ません。これも出来ませんと記載があります。それくらい、毛皮のコートはリスクがあり深く入り込んだ作業はリスクが大きすぎてやれないということです。

次回は、私のところでやる方法を少しだけ書いてみます。      長澤祐一

毛皮の皮の劣化とクリーニング その2 脂を抜く方法

こんにちは。今日は前回の続きです。

まず、業者さんがやる方法を私が知る範囲で簡単に説明します。

以前はフロン系のものを使っていたと記憶します。しかし環境問題があり当然使用不可になりました。
現在はパーク(パークロロエチレン)というものを使用していると聞いています。一般的なドライクリーニングと同じだとも聞きます。ドライクリーニングでは様々な(石油系やフッ素系)ものが使われているらしいですが、ドライの溶剤が気化したものを再度液体に戻す装置が付いている、一台何千万もする装置がいるらしいです。さらに、クリーニング屋さんもそうかもしれませんが、届け出が必要であったりと簡単には使えません。

染色してあるものはクロム鞣しという処理がしてあり、水に漬け込んでも劣化しないということが解っているので、自分で洗濯機で専用の脱脂材を鞣し屋さんからいただき洗ったことがありますが、やはり、ドライ系溶剤のようには脂が落ちません。というか、ほとんど落ちないと言った方がいいくらいに変化はありません。

パークロロエチレンで専用の機械でドライクリーニングをした場合、私は何度も自分の作った裏地が付く前のコートや原皮を洗ってもらったことがありますが、時々、毛に脂が回ってべた付くような仕上がりになることもありました。皮から染み出た脂がパークに溶け出し、その僅かな脂が毛についてしまうことが原因だと想像できますが、さすがに業者さんは気が付きません。時間が短すぎるのか、溶剤が少ないせいかは分かりませんが、実際に何度もありました。気になるものは再度やり直しをしてもらったりと、当時は業者さんに、ずいぶんとわがままを言った記憶があります。私達の髪の毛でも皮脂が付いていないサラサラの状態と少しべた付いたときがあるように毛皮も同じです。それを感じ取れるかどうかは、普段から毛の良い状態を知っているかどうかにもよりますが、微妙な違いでもあり大きな違いでもあるのです。

以前、鞣し屋さんとも話したことがありますが、ドライをすることでほとんど劣化しないということで私達の意見は一致しました。

次回は私のところでやる毛皮クリーニングについて書いてみます。  長澤祐一

毛皮の皮の劣化とクリーニング その1  学術的な見解と 現場の違い そして他社との違い

今回のテーマいつもの2000文字程度で済まないので珍しく何回かに分けて書きます。

毛皮が古くなって一番危険なのは皮の組織の部分です。一般的には毛が心配になりがちですが実際はそうではありません。

毛は、万が一はその部分だけ別の毛皮と差し替えることも可能です。しかし、皮全体が劣化すると、全て使用不可能になります。

正直、鞣し関係のひとに聞いたことも参考にはなりますが、決定的に解決とは言えません。
何故かというと、鞣し屋さんや、いろんなポジションで毛皮を扱っているひとがいらっしゃいますが、実際に古くなった皮を加工しないとどれほど劣化しているか?は分かりません。
最終的には考えながら古くなった皮、さらには新しい皮が年数によってどう変化するか?も含めて継続して見ていかなければなりません。考えながらというところが一番大事です。何年、毛皮を触っていても、ただ、右から左に見るだけでは得ることは何もありません。皮は一枚ごと、または鞣しのロットごとに脂の入っている量が違います。もちろん、動物に最初から入っている脂ではありません。詳しくは分かりませんが一度脱脂してから、皮を柔らかくするために入れる脂です。

この脂のわずかな量の違いが私の見解では影響するように感じます。

今日は劣化については全体的なことだけ書きますが、いずれ部分ごとにも書いてみます。

脂というと、鞣しに使う全てを使った訳ではありませんが、正確ではありませんが、ものによってはグリスのようなものもあるらしいです。その一部を複数の鞣し屋さんからいただき数種類を使ってみましたが、その中のいくつかは界面活性剤のようなものです。ものによってはグリスのように半透明でどす黒い黄色の液体もあり、一見油のように見えますが水を入れると白く濁って溶け出します。元々白い色のドロッとした液体もあります。こちらはどちらかというとさらっとしていてシリコン系の感じがします。簡単に説明すると、普段洗濯でつかうソフターのようなものです。その中にもシリコン系のものや別のものもあります。洗濯用ソフターをいくつか試すと、ビニール板の上で少量をたらし、それを乾燥させると、あるものは石鹸のように固型に近くなり触るとサラサラとするものや、乾いてもべた付きが完全に残るもの等、いくつかの種類に分かれます。これはここで一度お断りいたしますが、私は専門家ではないので、あくまで経験上の話です。

しかし、私がある程度の自信をもってここで書くのは何十年も新しい皮、劣化進行中の皮、劣化した皮を見て、触り、加工し、何度も冷や汗をかいたり、時には失敗したり、成功したりして積み上げてきた経験があるからです。

一般的には劣化したものや、劣化しかけたものなどは、ほとんどの場合受け付けません。リスクがあり過ぎて出来ないのです。
しかしそれだと何も前に進まないのです。私が、このブログを2012年に立ち上げたころは毛皮を作ることの解説や原皮の細かな記載、クリーニングの実態について書いているところはありませんでした。最近は増えましたね。

仕上った毛皮にどちらが良いかといえば石鹸のようになるタイプのほうが良いと感じます。例えば、古い毛皮を自分でリメイクでもと思うときには、皮が少し硬いなと感じたら石鹸を少し付けて揉み解すと少し柔らかくなることがあります。

何故、脂の量が増えると皮に長期でみると悪い影響を与えるかというと、脂が空気中の水分を吸収するからです。リフォームでバラしたコートの皮を触ると、異常に湿気がたまっているものがあり、劣化した皮の多くも同じように水分を多く含んでいることがあります。では、何故水分を含むとよくないかといえば、私の想像ですが、例えば水分を含む食べ物はほとんどのものが腐ります。しかし、乾燥したものは腐りにくいし、完全に水分を飛ばした粉のようなものが腐らないということでもわかります。あくまで推理ですが、皮の中にしみ込んだ水が腐ることは容易に想像ができます。酸化が原因かどうはわかりません。

皮にしみ込んだ水分が長い時間かけて皮にどう影響を及ぼすのは具体的には私は証明できませんが、鞣しのときに水に漬け込むと専門家から酸膨潤とい言葉を教わったことがありますが、皮がボロボロになってしまうらしいです。水分が良くないのはこれでも解りますね。そのために塩を入れるとも言われています。

専門家の中にも加工段階でも塩を入れると良いというひともいます。学術的には正しいのかもしれません。これで長期的に見て皮の劣化を防げるという理屈も解ります。

しかし、私の経験では、塩の分量にもよりますが、3%の食塩水(生理的食塩水)に近いものを指示に従って使ったところでは、皮に塩分が入ることで空気中からの湿気を吸いやすくなる気がして、この理屈は100%正解ではないなと感じました。塩を普通に扱っても水分を吸いやすいことが解りますが、皮の劣化に塩がいいと言っても、それ以上に、水分を吸収することで皮が劣化することの影響の方が大きく、この理論も結果的には当たらないなと感じています。

最終的には脂分を適度に抜くことしか劣化を防ぐ方法がないことが解り、自分でその作業をやることになるわけです。

このクリーニングの話はまだまだ長くなるので、また次回に致します。

長澤祐一

毛皮のリフォーム | クリーニングの必要性

今日は毛皮のリフォーム時に、いかにクリーニングや皮の脂を抜くことが必要かを書いてみます。

とにかくしつこく書きますが、一般的には誰も気にしていないどころか、そこそこ脂は必要だと言い張る専門家が多いのが現状です。いちいちそんなたくさんの専門家のみなさんに喧嘩を売るような気はさらさらありません。

しかし、このたくさんの専門家の多くのひとが、実際にどれくらい毛皮の作りを真剣にされたかは私にはわかりません。通り一遍の知識というのは、業界にいれば大体、知識として持つことになります。

しかし、皮に含まれる脂の量が毛皮の作りや仕上がりに大きな影響を与えるということを知るひとはほとんどいないでしょう。ゼロではないでしょうが、大半のひとは考えていないと思います。

特に国内の業界人の中ではです。これは少し皮肉的な言い方ですが。その点、中国はやはり世界の工場と言われるだけあって、ピンキリありますが、上のレベルでは、ちゃんと脱脂をして、柔らかさを表現しています。

日本国内ではCO2の問題もあり規制がかかって使えない薬品等も、もしかしたら中国ではまだ、使えるのかもしれませんが、後先考えずに徹底して脱脂された商品もあり、素人目には”くたくた”になった柔らかい皮が毛皮の良さを表現しています。

一般的な国内の技術では、あそこまでできませんし、作る現場の目が、あの柔らかさを体感していない、さらに、売り場での、その柔らかさの評価を知らないという事実がある以上、国内の技術者が上のレベルに行くことは難しいのです。

ただし、上記で、後先考えずに、、、 と書きましたが、パーフェクトの脱脂は、やはり、危険が伴います。中国製品の一部にある、あの強力な脱脂は、ドライクリーニングをして脱脂をするわけですが、おそらく裏付け前にガーメントの形になった状態でするわけですから、すべての補強テープの粘着糊は溶けてしまいます。

形も確実に縮みますし、最後にドラムに入れながら乾かすので、あれだけ柔らかくなりますが、間違って皮に水が染み込んだりしたら、確実に思いっきり硬化します。

さらに、切れやすくもなります。毛皮業界の過去にも、完全な脱脂をして柔らかさを出した過去があったことを覚えているひとも、ご年配の方にいらっしゃるかもしれませんが、当時のひとのほうが優秀な方がいらっしゃったようで、そのパーフェクトな脱脂を当時は危険だと判断し、やめているのです。

例えば、一般的な毛皮クリーニングでは、ドライはせずと、良く記載やyoutube等の動画で見ることができますが、それも、過去の経験からの知識で脱脂はよくないという意識が今現在もあるのかもしれません。

ここから私の意見を書きますが、パーフェクトな脱脂はやはり絶対に良いとは言えません。ただ、一般的に考えられている原皮屋さんや鞣し業者さんの基準はやはり、商品仕上がり時にどうあるべきかというところからみると少し違いがあると私は思います。

よく、原皮屋さんが仕上がってきた時は軽い感じで良いけど、時間が経つと、ズシッと重くなると言いますが、それは、原皮が湿気を吸収してさらに、湿気が入ることで、そのままラックにかかったままだと硬化も進みますから結局、湿気と硬化で、鞣し上がり時よりも確実に重く感じるようになるのです。

イタリア鞣しが、そうならないと聞くこともありますが、私が仕入れたイタリア鞣しのミンクもやはり、国内の鞣しと、ほぼ同じ状態になりました。

私は、鞣しについては詳しくはありませんが、一度、脂を入れるようです。そして仕上げのときにドライクリーニングをして脂を抜くわけですが、ここがやはり、手でキッカー(間違っていたらすみません)という道具を使って脂を入れ、それをひとの感覚(時間)でまたドライクリーニングをするという、極めて計測しにくい作業があります。

結局、そのロットごとの残留脂の量に差があったり、手で入れる脂を加える作業にも差があったりと、とても難しい作業のなかで仕上げられるわけで、さらには原皮の個体差などもあるかもしれないことを考えると、とても難しい作業に感じます。

結果、やはり、作るところで最終的な脂の量をコントロールするしかなく、私のところでは、原皮の段階でドライをする場合や、仕掛り途中でもっと抜きたいと思えばドライする、、、というような感じで都度、皮を触って感触で決定するしかありません。ひとつ、中国のドライと違いがあるとすれば、ジャブジャブドライ液に漬け込むようなドライはしていないということです。当初何度も、このジャブジャブ液に漬け込む洗い方を試しましたが、専門の何千万円もする機械がないので、回収しなくても良いレベルの有機溶剤を使いますが、やはり、気化させるのにも時間もかかり、この方法は使えないなと判断しました。以前、カビが蔓延してしまったコートは、この漬け込む方法で二度洗ってカビを落としましたが、やはり手間がかかりすぎて、現実的ではありませんでした。

私が今やっている方法は具体的には書きませんが、皮の表面からドライ液が染み込み、皮の表面から脂を抜いていくという方法を取っていますので、皮の奥に少しだけ脂分が残るという状態になり、こうすることで万が一水に濡れても、思いっきり硬化することがなく、軽さもでて、さらに、空気中からの水分も吸収しにくくなり、重さや劣化防止にも効果があるという、理想的な状態になるように処理しています。

私のところでは、鞣し上がった皮を再度、皮を軽く薄くするために機械や手で鋤いていますが、脂が抜けている皮のほうが鋤くのが楽なのです。脂がたくさん入った皮はベタベタして繊維がなかなか切れず、タンパク質が剥がれてくれません。ですから、皮が厚い場合にはドライをかけて、皮の表面を一度削り安い状態で削って、さらにドライをかけて、また削るという場合もあります。それくらい、皮の状態をいい状態に保つということに注意を払います。

リフォームのときにも当然、ドライをして古くなって劣化が進行しそうな状態を一度そこで止めてしまわないとリフォームする意味などありませんから必ずやります。やらなくてもいい状態のコートなど、年に1点あるかないかです。たまに、奇跡的に脂の入り具合が抜群によいものがありますが、それは本当に希です。

脂の分量が適正になれば、コートにしたときの皮の繊維の状態もよくなり、皮が伸びたら伸びっぱなしというのではなく伸びても、また元に戻る柔らかさというのがでて、型崩れせず、柔らかさも出るという状態になり、毛皮本来の良さがでます。

一般のひとは毛に魅力があるのだと思いがちですが、皮が柔らかいことで、表の毛が本来の輝きを発揮できるのです。皮が硬い状態のミンクなんて、まったく魅力がないのです。

それくらいに皮が大事だということを覚えておいてください。そして、それをコントロールする大きな要素として脂の量を適切に調節するということが大事なこのなのです。

今日も、結局難しい話になりましたが、作る側にとっても、買う側にとっても、とても大事な話だということです。デザインがどんなに良くても、毛皮の本来の魅力が表現されていない商品をいいと錯覚してしまうのは、売る側の勉強不足や、正確で正しい情報を持っていないということに他なりません。

毛皮の魅力が分からないからデザインだけで選ぶしかなくなるとも言えます。一人でも、毛皮の魅力を理解できるひとが増えること期待してこのブログを書いています。

上の写真は、レイヤード(細くカットした毛皮を生地に間隔を開けて縫い付ける技術の総称)のために5mmにカットされたミンクをバラバラにならないように、ボール紙に挟んでおいたら、皮の裏面が密着していたボール紙に今日のテーマの脂が染み移ってしまったものです。これくらい、毛皮の皮の脂は多いという証です。

リフォームをするならば、この無駄な脂を必ず落としてもらってリメイクしてもらうのが本来のリフォームの姿でしょう。手で拭き取るクリーニングや毛皮専門のクリーニングなど意味がありませんから。

長澤祐一

 

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PS.ついでに、ミンクレイヤードのボレロの写真も載せておきます。

毛皮のクリーニング 

最近、リフォームのときにクリーニングをやっていると謳うサイトがいくつかあります。確かに、リフォームのタイミングが一般的なクリーニング以上に効果的ではありますので、サイトに謳う分には問題はないと思います。

しかし、その内容については、よく吟味しなければなりません。クリーニングの内容がまったく書いてないサイトがほとんどなのです。

さらに、毛皮のクリーニングの専門業者のサイトでも、あれもできます。これもできますとホームページトップでは謳いながら、深く掘り下げて読んでいくと、様々な条件をつけて、あれは出来ません、これも出来ませんと、少しリスクのあるものは全部できませんと避けて通ります。

確かにリスクは理解できます。しかし、プロである以上、ホームページのトップで謳っている以上、もう少し踏み込んだ仕事をして欲しいものです。

香港からの毛皮のクリーニング依頼

今年、香港在住の日本人の方から連絡があり、毛皮が硬くなってしまって、これを治せないだろうかというお問い合わせでした。内容をよく聞くと毛皮のコートを洗濯機で洗剤を入れて洗ってしまったということでした。

毛皮はサファイアかバイオレットか少し黄ばんでいて判別がつきにくかったのですが、おそらくサファイアミンクではなかったかと思います。ナチュラル系の染色加工のされていない毛皮は水に弱いということは以前、何度も書いていますが、クロムなめし加工処理がされていない毛皮は水にずっとつけておくと酸膨潤を起こし、劣化してしまいます。

洗濯時間が5~10分くらいだったようで、さすがに毛皮はカチカチでまったく柔らかさはなくなり、着れる状態ではありません、ダンボールのような硬さでした。

ここまでなると、治るかどうかは、やってみないとわからないので、お客様にはリスクがあることをお伝えして、お引き受け致しました。

カチカチになったコート

カチカチになったコートのまずは、裏地・付属等をすべて剥がして、各パーツ(身頃・袖・エリ)ごとにバラして、一番ダメになってもよい、裏エリで柔らかさが戻るのかを試してみました。

カチカチに硬くなった裏えりに、シリコン系の柔軟剤をスプレーで少しずつ染み込ませます。水は出来るだけ避けたいので、アルコールに溶かしてアルコールの浸透能力を使って染み込ませます。入れ過ぎないようにしながら、少しずつ柔軟剤を入れていき、この状態で皮を手で揉みほぐし皮の繊維が動くかどうかを確認します。

今回のコートは元々の状態が年数の割には良かったようで、繊維が少しずつ動き始めました。これを自然乾燥させて、また同じことを繰り返すうちに、繊維の奥まで柔軟剤が入っていき、徐々に柔らさがでて、毛皮もどんどん伸びる状態になりました。

裏えりで可能性があることを確認し、お客様にも状態をお伝えした上で、コート本体を柔らかくしてクリーニングすることを始めました。

ただ、ここで注意しなければならないのは、皮に入れた柔軟剤は繊維の滑りを良くするために、とても大量に入れますので、最終的には有機溶剤とオガで洗わなければなりません。柔らかくなれば良いということではないのです。

必要以上に入った柔軟剤は界面活性剤と同じで、空気中の水分をスポンジのように吸収しやすく、毛皮の皮の部分が水分を吸収すると、どうしても皮の脂分の酸化が進みます。これによって、皮の表面が黄ばんだり、皮の劣化が進行する原因にもなるからです。

これらの作業で使う、有機溶剤やオガの量も通常に使う量に比べ、大量に使い、さらに、毛皮に香水や強い脂分の汚れ等があるものが、ほとんどなので、オガの再利用は出来ません。香水や化粧品の匂いが着いたオガを他のお客様のコートに使うと、匂いを吸収したオガから逆に別のお客様のコートに匂いが移るからです。

毛皮のクリーニング

以上、今回のお客様の毛皮のクリーニングの流れをザクッと書いてみましたが、プロの業者としてクリーニングをしていますと自社サイトに謳うならば、これくらいのことはやれないといけません。ただ、手で毛の表面を拭き取るくらいでクリーニングをしています等というならば、それは詐欺に近いと私は考えます。

自分もブログやHPを友人の力を借りながら運営していて最近思うのですが、サイト内を綺麗な写真で飾り、やっていないこともやっているといくらでも書ける、このネットのなかで、どうやったら信頼性、信憑性を勝ち取って行けるかと、とても悩みます。

今回の、このお客様のコートはクリーニングを終了した後に、香港からご来社いただきましたが、リメイクは香港のほうが価格が安いこともあり、香港でやりたいという希望を尊重し、クリーニング代金だけをいただき、お返しいたしました。

写真はお客様から、最初にいただいた写真で、動画はクリーニング後にお客様に状態を見せるために撮ったものです。

日々、ブログを書くために仕事をしているわけではありませんので、特に写真も効果的なものは撮っておりませんが、信頼できるかどうかは記載した内容にて、ご判断いただければ嬉しく思います。

長澤祐一

 

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脂以外の劣化について

これまで、毛皮の皮の部分の劣化について、常に脂と湿気が大きく関わっていると書いてきましたが、今日はそれ以外の劣化について書いてみましょう。

以外に知られていないのが、毛皮の毛の量が少なく地肌が見えてしまう部分に使う染料が劣化に関わっているということです。理由はわかりませんが、これまでの私の経験でいうと染料でが入った部分が劣化しているケースが意外に多いのです。

染料はいろんなタイプがあり、水で溶くものやアルコールで溶くもの、さらにはすでに液体になっている等があります。

私は、ほとんどの場合浸透性の良いアルコールを使います。アルコールもメタノール、エタノールとありますが、メチルは身体に害があるので使いません。

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