毛皮染色 黒の難しさ

毛皮の黒、例えばブラックグラマというアメリカンミンクの最高峰のミンクがあります。でも、それは黒ではありません。黒っぽいというだけです。しかし、そのナチュラルな黒っぽさは、まさに芸術的な黒とも言えます。

しかし、真っ黒ではないのです。毛皮を真っ黒にすることには問題があります。他の、例えば生地とかの染色のことは分かりませんが、毛皮のことであれば、それなりにわかります。

酸化染料と言われる、酸素に触れると黒くなるといわれる処方では、やはり限界があります。本当の真っ黒ではありません。同じ酸化染料でも染料屋さんがやるものはお湯につけて染色するようです。おそらくそのせいかもしれませんが皮が硬くなります。しかし、酸性染料でやれば私が依頼してやってきた結果でいうと柔らかさは保てます。しかし、これは染色時の温度をどこまで上げるかで決まるようにも感じます。私が黒として刈毛ミンクの染色を依頼したのは黒といっても黒に極めて近い濃いグレー、または濃いブラウンのようなものです。それでも十分に黒に見え、私はその処方で依頼していました。

酸性染料も本来の毛皮の染色である、お湯につけた状態で染色をするらしいですが、私はプロではないので詳しくは言えません。しかし、仕上がりについては誰よりも詳しいはずです。

その理由は、作る過程で、皮がどんな状態になったかを全て把握できるからです。染色加工屋さんも、例えば染色を依頼した問屋、または原皮屋さんも、そのほとんどが、表面的な黒の仕上がりしか見ません。無責任と言えばそれまでですが、しかたない部分もあります。技術者以外の、ほとんどのひとが皮を自分で濡らしたり加工したりしないからです。だから理解できるはずはないのです。

一般的に加工を請け負う業者さんは、原皮屋さんや問屋さんに仕事をもらう訳で、仮に皮が弱ってしまっていても、なんとか形にしようと思うのです。いわゆる、何事もなかったのごとく仕事を終わらせようとします。皮が弱いとは言いずらいのです。もしくは、職人さんが気付かないという場合もあるでしょう。

 

ここで少し黒の染色について書きますが、染色屋さんは黒といわれれば、より強い黒にしようとします。しかし、ここで問題が起こります。より綺麗な黒にするために染色の温度を通常よりも上げたとします。その結果クロム鞣しがかかっていても残念ながら皮は極度に痛みます。本来の柔らかさや伸びはなくなり硬く切れやすくなります。しかし、黒としては極めて綺麗な黒になるのです。温度をわずかにあげることで染料がよくついた綺麗な黒になるのです。

 

本来であれば、どこかで皮の強度がどこまで弱っているかを見極めなければいけません。しかしそれは皮を濡らして加工してみて初めて分かるのです。

私は染色は素人なのですが、例えば時間を低い温度で時間をかければ可能なのかと想像します。しかし、低い加工賃では、そんな歩留まりの悪い方法は使えません。

それは、仕事を出す方にも大きな問題があります。皮がより安全にキープされ、より綺麗な黒になるのであれば、加工賃が高くても、それを仕事を出す側は理解する必要があります。仮にそんな方法があったなら高くても、私はそれを選択します。

しかし、一般的には、皮のことを本当の意味で勉強している問屋や原皮屋さんはいません。もちろん当たり前のことですが、原皮の種類や価格、産地等については私が太刀打ちできないレベルなのでしょう。これを読んだら怒られそうですが、私もそんな使えない皮を買わされていますので言いたいことは言います。何度も、普通に引っ張って、バリっと切れる皮を買っています。もちろん知らずにです。今はほとんどのことが分かるようになりましたので、そんな皮を買うことはありませんが。黒の皮に関わるトラブルは結構あります。

例えば、使ってみて皮が弱いのが分かったら、私達の小売りの世界では、丁寧に謝罪して即返品です。しかし、この当たり前が染色加工や原皮屋さんとの間では、なかなか通じません。染色した皮が弱いか、または鞣し屋さんが鞣した皮が適正であるかは、染色加工上がりの皮を見るだけでは分かりません。

私も、以前加工業をやっていて工賃が安いな、、と感じていましたが、一切皮に対しての責任は負わない、あったとしても作り直し程度、、、ということで止まります。そしてその全ての責任は仕事を出した方が材料が駄目になった時のリスクを持ちます。

例えば、一般的に加工に出す場合は、その染色による劣化の度合いを知ることなくメーカーはお客様に提供してしまいますが、私の場合は直接お客様に納品するわけですから、その原料の状態から加工状態、仕上がり状態が全て見えるのです。

本音を言えば知りたくないことも全部解りますから、販売をすることにも重い責任が発生します。

話それました。戻します。

染色した皮の状態を理解するには、鞣し上がりや染色上がりの皮を何百回以上も加工してみる必要があります。鞣し上がりを軽く触ってみるだけでは本当のことがわからないのです。

そして、皮を理解するには、いろんな無理をしてみる必要があります。厚い皮を自分で鋤いてみるのも理解が深まる方法のひとつです。

例えばですが、染色とは違いますが鞣し上がった皮をさらに薄く鋤くのに、そのままでは毛根を切ってしまいますので、皮についているタンパク質をコーンスターチをお湯で溶いて、それを冷やしてドロドロになったコーンスターチを皮に塗り、一日置いて、コーンスターチのせいで発酵したのかどうかは分かりませんが、皮が膨らみ毛根よりも厚くなり、その状態で皮を鋤けば毛根を切ることなく皮を薄くできることなど、いろんなことを自分でやってみる必要があります。

やってみれば、常に自分が言っていることが正しいのかどうかが分かるはずです。やってないからわからないのです。リスクを冒すことでしか価値のあるものを得ることなどありません。毛皮は本当に難しい素材です。

その結果として自信をもって理論で戦うことができるのです。

話を戻しますが、染色イコール、単純に色の話なのですが、黒に関しては色と皮の状態の両面で話さないと、本当の意味で毛皮の黒について話すことはできません。

でも、言っときますが、本当に解ってないですよ。大半の人、、、いや、大半の業者の人がです。解ってないです。とても残念です。毛皮で皮がダメになったら毛がどんなに黒く染まっても価値はないのです。どこかに響けばいいのですが。

何故こんなことを書くかというと、染色屋さんも原皮屋さんも問屋・メーカーも知らない黒の染色リスクを最終的に被るのは商品を買うお客様になるからです。皮に大きなリスクを背負った商品が知らずにお客様のもとに行ってしまうことが一番問題なのです。業者は多少、おやっという部分があっても、これくらいは、、、といって見過ごしがちになります。人間ですから。

でも、そうならない技術や知識があれば防げることがたくさんあるのです。

今日は半分怒りながら書きましたので、ぐちゃぐちゃです。少しずつ、いつものように何度も読み返し修正します。

逆に言うと投稿当日のほうが本音が見えるのかもしれませんね。💦 長澤祐一

真逆のこと

先日、テレビショッピングでチンチラとセーブルのヤーンマフラーを激安で売っているのを見ました。それはそれで良いのです。確かに安いです。

しかし、最後に言った言葉がまずいです。

チンチラは傷が一番抜きにくい、、、というか、傷物はそのままでは使えず、半裁の使い方にしてその部分を捨てるか、またはポンポンなどの小さなパーツにして使うかしか出来ず、それ以外で唯一出来るとすればヤーン(編み込み)なのです。ミンクやセーブルは同じ高額素材でも傷は、技術があれば綺麗に抜くことができます。しかし、チンチラは私でも難しいです。傷をぬいたチンチラをむくの状態で使うのは、品質を気にしなければ良いのですが、まともなものを作ろうとすれば、傷のあるチンチラの使用は無理です。もちろん傷のないチンチラを使っても綺麗に作るのは難しいのですが。

そんなことはないという技術者がいれば、その技術者が作るものはまともなものではないはずです。それくらいチンチラに傷があるのはまずいのです。

裏を返せば傷のあるチンチラは二束三文になるということです。私は買いませんが買うとしても当然半額以下以上の価格です。いやそれでも買わないかもしれません。それくらい傷のあるチンチラは使い物にならなず価値がないのです。もちろん、傷のあるチンチラを無駄にしないという発想は大事です。しかし、だからといって、何を言ってもいいかというのとは別の問題です。言ったひとも、もしかしたら製造現場の現実を知らないのかのしれませんが、おそらく私の想像が正しいと思います。

話戻しますが、そのテレビショッピングの最後で、たくさん買い付けたチンチラの中から悪いものをはねて、良い物だけを選んで作ったと言いました。唖然としますが、それは真逆だろう、良いものをはねて、悪いものだけで作ったと正直に言わなければいけないところを真逆に言うのは消費者を騙す行為だと、唖然とし、少し時間をおいてから笑いました。よくこんなことが言えるなと。

作りがわからない消費者をそこまで真逆のことを言って騙すのは、同じ業者として、毛皮に対する不信感を植え付けるようで辛いです。その言い方はどうかな~というレベルではありません。真逆の理屈です。傷のあるものを集めて丁寧に安価に作りましたというべきところなのです。

ただ、それでは夢がないのでいろんな柔らかい言い方はありですが、真逆の理屈を言っては困ったものです。これがネットやテレビショッピングの現実なんだ、見えなければ何言っても何を書いてもいいんだと、とても残念な気持ちになります。 最後にひとつ付け加えますが、今日ここに書いたことが100%事実かどうかは分かりません。推測で書いています。一部間違いがあるかもしれません。しかし、今回の記載がどの程度の確率で正しいかどうかの判断は読む人にお任せいたします。併せて、私が過去に書いてきた記事をもって信頼出来るかどうかを判断していただければと思います。    長澤祐一

 

毛皮の毛の癖とり 最新版

毎年、毛皮を着る時期になると下のリンクにアクセスがあります。

毛皮の毛の癖をとる

毎年、新しい記事を書こうと思いながら書けていませんでした。

今年は書いて見ます。

本来はYouTubeなんかでやれば良いんですが、ビデオを撮るほどでもないので、ここに書いて見ます。

 

最近はシャツなどのしわ取りアイロン、例えばハンディタイプの小さなものや、丸いブラシのようなものからスチームが出るタイプがたくさん販売されていますね。

軽い毛の癖は、これですぐに取れます。仮にこの方法で取れない毛の癖は、染色や毛皮元々の毛の問題によって出たものですから、弱いスチーマーでは取れません。

ひとつ注意しなければならないのは、毛よりも皮にスチームが入ることで、クロム鞣しがかかってないナチュラルの毛皮素材はスチームが強くあたると、ギュッっと縮みます。場合によってはニカワのように硬くなって縮んでしまいます。危険なのはこれだけです。

ただ、意外に知らずに、こうなってしまうケースが多いのです。

そうならない方法は一つです。毛皮から3~5cは離して蒸気をかけることです。フォックスのように毛の長いものは、皮に蒸気が届くまでの距離がありますから良いですが、ミンクのように毛の短いものはスチームが強く勢いよく出ている場合は皮にすぐスチームが届いてしまい皮を縮ましてしまう可能性がありますから注意が必要です。

それともう一つ、最大限に注意しないといけないことを書きます。

毛皮の例えばマフラー等であれば、クリップやカギホック等の留め具がついていますね。アイロンスチーマーを近づけ過ぎて、うっかり留め具にぶつかってしまう場合があります。この時に毛皮を留め具で引きずったままスチームを書けてしまうことがあります。こうすることで、スチームが同じ場所にかかってしまいます。一瞬でも例えば1~2秒くらいでも、同じ場所にスチームがかかると、ナチュラル素材の毛皮は簡単に縮みます。これだけは厳禁です。

上にリンクを貼った当時は普通のアイロンが主流だったので、別の方法を記載していますが、今は簡易的なスチーマーがありますのでそれをお勧めします。

ただし、今書いた、留め具で毛皮をうっかり引きずるようになってしまい、スチームが一箇所に集中されることだけは絶対にしないでください。

これをやったクリーニング屋さんや個人のお客さまがたくさんいらっしゃいます。でも、本人は無意識なのです。毛があるので縮んだことが分からないケースがたくさんあり、本人に聞くと、そんなことはやってないと言います。しかし、縮む場所の多くは留め具付近が多く、それしか考えられないのです。是非、気を付けてください。

ナチュラル素材の毛皮とは、例えば染色されていない毛皮素材のことです。ただし、黒は場合によってはクロム鞣しがされてない通常鞣しの強化ブラックもありますから、ナチュラル素材の毛皮を判断するよりは、全てが危険だと思って、スチームを離し気味にすることが大事です。

縮んだ場合、一般的にはクリーニング屋さんでもどこでも治りません。

価値のある大切なものをやってしまった場合には、元に戻せる可能性もありますので、迷わずお問い合わせください。他所では絶対に修復できませんから。

ただ、そうなる前に、スチームと毛皮の距離は出来るだけ開けてください。

ついでにですが、裏側の裏地側もスチームは厳禁です。裏地はあってもスチームは簡単に皮に届いてしまいます。結構、クリーニング屋さんが、このやり方でうっかりでしょうが、皮を縮ませてしまって私のところに来ることがあります。

スチームをかける速さは、よくシャツの癖とりのように、毛に接触した状態で、ゆっくりなんてのは絶対にだめですから、そこだけは気を付けてください。スピードはシャツの癖とりのCMビデオなどがよくありますが、あれの3~4倍くらいは速いスピードです。

手にスチームをかけても火傷しないようなスピードと距離です。

機器によってスチーマーの量が違いますので、最初は離し気味にスタートしてみて毛の癖の取れ具合を見ながら距離を近づけてください。 スチームをかける前と後には毎回櫛やブラシで毛を真っすぐにするようにするとより早く取れます。ペット用のブラシも使えます。

いろいろと書きましたが、これは急ぎの場合の方法です。

着る前に数日時間があるならば、ハンガーにかけておくと軽い癖は自然に空気中の湿気を吸収して取れていきますので無理にスチームをかけない方がベターです。

 

今日は以上です。ビデオでも撮れればいいんですが、時間がなくて、ごめんなさい。少しでもお役に立てばです。   長澤祐一

 

 

 

大事な方

昨日深夜、突然、海外のフォロワーからDMがあり、ある方が亡くなった、本当か?と英語で知らせがありました。その方とは少し前にも電話でやり取りしていたので、それは誤報だろうと思いインスタグラムを開いたところ、ホームに上がった新しい投稿で、そのことが本当だと分かりました。

間違いなく私の毛皮人生のなかで恩人と言い切れる中のおひとりでした。メーカーとして独立したころに助けていただいた中のひとりです。たくさん迷惑もかけました。それでも嫌な思いを私がしたことはありません。一度もです。そんな方はいません。ありがとうございました。頑張ります。   長澤祐一

チンチラの加工でよくある事象と国内毛皮加工の現実

最近、チンチラのお直しをしたなかであったことです。
最近では珍しく画像をお客様の了解を得て載せます。

 

チンチラは毛皮のなかでも特に弱い素材です。皮全てが弱い訳ではないですが、腹の部分の皮が薄くよく切れやすいのです。鞣しが良いものは、良く伸びてくれて切れませんが鞣しの悪いものは保管条件による劣化も早く、最初からの部分劣化も良く見られます。今日の画像は、おそらく最初からの部分劣化でしょう。私も時々ですが、バンドルで新しいものを買っているはずなのに皮全体が劣化していて、引っ張って簡単に切れてしまうものも、これまで数回ありました。原皮屋さんの保管場所がたまたま悪く、その数枚に強くエアコンの風があたったりして起こることもあるかもしれませんが、ほとんどの場合は鞣しの段階でだと思います。もちろん、鞣しの問題でもありません。鞣し前の皮に問題があったのだと思います。

このチンチラマフラーが国内加工か海外かは分かりませんが、国内加工だと推測して記載しています。マグネットが留め具としてついていて、その止め方がチンチラに直に取り付けられていて皮に強く負担がかかる状態でした。マグネット付近もすでに切れていて、せめてマグネット付近くらいは芯が貼ってあればなと感じました。

私のところでは当然、自分で原皮を仕入れて自分で作るのですが、一般的にはメーカーまたは問屋さんが下職(工場)に委託加工として出して、職人さんが作ります。そのため、一本のマフラーを作るのに原皮の使用枚数を指定されますので、多少悪い部分があったり、今回のように劣化していても使うしかないのです。一部には申告をすれば通る場合もありますが、原皮を余計に使うということを申告するのはしずらいものです。

ただ、今回の画像のように細かく劣化していてすでに切れているものを縫い直すこともなく薄い芯のようなものを貼って製品に仕上げるというのは、やはりまずいです。使用回数にもよりますが、いずれ必ず芯が剥がれ切れた部分が毛の間から露出してきます。

私は普段は、私自身が技術者であるために、努力をしない技術者には厳しい意見が多いです。ただ、今回のこの処理をした職人さんの気持ちは、よく理解できます。私も以前、30年くらい前にはメーカーとして起業する前のことですが、独立当時は委託加工を受けて加工を専門に仕事をしていた時期があります。おそらくですが、この手のマフラーの加工賃は時給換算しても1,000円にも遠く及ばないのが想像できます。何十年も前に、国内加工会社の社長に、大量に受けているマフラーの加工賃を聞いたことがありますが、その時、彼は、 ”長澤さん、工賃なんか恥ずかしくて言えないよ” と言っていました。

よく加工を出すメーカーや問屋は、こっちだって予算がありギリギリだし大変なんだ、、、と言いますが、それでもちゃんと休みも取れて余裕を持った生活をしているところが多いはずです。中国との競争で価格競争に30年以上も前からさらされて来た国内加工屋さんにとっては大変な時代です。そんな状況にも拘わらず大量に仕事を出すから安くしろと言われて仕事を受けるしかないという状況は私にも経験があり他人事ではない気持ちになります。儲からない仕事を大量に出されたら赤字が拡大するだけなのです。そんなことも知らない無知なメーカー側が多いというのは、この業界だけではないのかもしれませんが悲しい状況です。私は今そんなメーカーや問屋からの仕事を一切していないので、どんなことでも言えますが、仕事をもらっている立場は、余程大きな規模か、技術力でもない限り弱いです。

例えば、付属代が加工賃の大きな割合を占めるストールなどでは、出す側はこれがこれまでの業界の相場だからと言って自分に都合の良い解釈と言い訳をして譲りませんが、とても理不尽なことが多かったのを記憶しています。一度大手のメーカーさんの下職をしているところに仕事をお願いしようとしたときに、職人さんが言ってたのは、そのメーカーの仕事を100%にすると食べていけないとも言っていました。それほど、職人さんにとっては厳しい現実があります。もちろん、仕事を出すほうの側にも、きっと職人さんを維持するために無理して現時点で必要のない商品を作ったりすることもあったことも認めます。そこに甘んじて必要な努力をせずにいた技術者もいたと思います。今、現在そんな関係でつながっているメーカーと技術者がいるかどうかはわかりませんが、どちらにしても難しい問題です。厳しいようですが、最終的には技術者が自分自身で解決しなければならず、誰にも頼れない問題でもあります。

話それました。毛皮加工業はとにかく厳しいのが現実です。そんな厳しい現実のなかで劣化してボロボロになったチンチラの皮をとりあえず見えないから縫わずに芯を貼って誤魔化そうとする気持ちはせつないほど私にはよくわかります。そして、苦しかった当時を思い出します。もちろん、私が同じことをやることはありません。しかし、食べるための方法の逃げ道として使った今回の処理の辛い気持ちは理解できるのです。

 

そんなことを独立して数年経験し、これはダメだなと思い、全ての委託加工の仕事をきっぱりと断り、であればメーカーに自分がなろうと決心し、今に至っています。しかし、過去にも私と同じように加工屋さんが少し大きくなって原皮を自分で仕入れてメーカーや問屋のようになったところがありますが、その大半が潰れています。それくらい難しいことなのです。

その後、大きな毛皮の国際見本市に出て、海外業者からイッツパーフェクト!と賞賛されたりして、加工仕事をやめて数年間、いくつかの大きな(今は倒産しましたが)呉服屋さんの展示会に出て、100着くらいのオーダーを取ったり、小売店と取引したりして、最後は、このブログでもよく書いている某百貨店毛皮サロンに常設するところまで辿り着いたのです。

おそらくですが、技術者が立ち上げた会社が、あの当時も日本一と言われていた毛皮サロンに入ったのは、そのサロンの長い歴史の中で私の会社だけだったと思います。当時もそのサロンは大きな問屋さんが競合しあっていましたから。大きな会社の方が度々サロンマネージャーに挨拶にきて常設を頼んでいたのをよく見かけました。そのサロンで当時、私が作って納めていた問屋さんが、その毛皮サロンで、ものすごい勢いで私の作るシェアードミンクコートが売れていたこともあり、その商品力は知られていて、当時その取引先が倒産したのを機に、知人を介し当時の取締役さんの紹介もあって、本店の当時の婦人服のGMにお会いしたりと、手を尽くしながら出店にたどり着きました。最終的には当時のサロンのマネージャーが素晴らしく優秀な方で、商材をよく理解してくれて引き上げてもらったことで今があります。

今はもう撤退いたしまいしたが、常設当初は、ある方に間接的に聞いた話ですが、ある問屋さんから(現在はいません)、パショーネ以上の商品をいくらコストがかかってもいいから作れ、そしてパショーネの特徴を潰せ、追い出せ、、、とすごい指示が飛んでいたらしいです。

私は、当然、怖くもなんともなく家内と笑っていました。だって作れるならとっくに他社が作れているはずですから。私が作っていたシェアードミンクは、そんな簡単に出来るものではありません。似たようなものさえ作れなかったのです。

ひとつ付け加えますが、パショーネが商品力だけで、あの日本一といわれた毛皮サロンに20年も在籍出来たわけではありません。
あの毛皮サロンは商品力だけで残れるほど甘くはなく、商品力以外にも販売員同士の熾烈な競争や量的競争、企画力など、あらゆる部分で戦いがあり、そんななかで、自分の力をしっかりと示し、そして上手く協調もし、丁寧に時には面白く顧客対応をしたりと、あらゆる努力をしてくれた、当社専務でありデザイナーでもある家内がいたからこその20年だったのです。

私はあまり自分を職人とは呼びません。どちらかというと技術者またはエンジニアのような感覚で毛皮と接しているからかもしれませんが、ひとつには過去の職人時代の辛い時期があったことも影響しているのかもしれません。それともうひとつには、昔、有名な建築家が言っていらっしゃった言葉で、システムのなかに感性をちりばめる、、というような発言があり、その言葉に何かを感じ、自分の作る作業工程のなかに数値で判断できるものはないだろうか?または各工程のなかでの作業順番を変えることで美しさの表現が変わったりするところに着目したりと、職人というよりはエンジニアのように仕事をしてきたことが今につながっています。CADもやってCGや3Ðシミュレーションソフトを使ったりと毛皮の技術者としてはかなり珍しい部類だろうと思います。

話を戻しますが、国内毛皮業界ではそれほど作るひとの立場は弱く、全てではないと思いますが、その弱い職人さんたちの上に成り立っている人たちがいるという現状が、今回のチンチラのずさんな処理を生んでいるとも言えます。私も、あ~気持ちはわかるけどな、でも買うお客様には関係のない問題だからな、、、と複雑な気持ちになります。

今現在、周りを見渡しても過去にそういう経験を強いられたメーカーや問屋の多くは今は存在しません。一時的には仕事を受けますが、あまりに理不尽なメーカーからは皆離れていき、最後には潰れています。作り手をないがしろにしてきたところはやはり最後は自分に返ってくるということの証です。

今日は、私の過去の辛い時期の話も含めて国内作り手をテーマに書きました。ただ今はネットで自分が作ったものを誰でもが売ることが出来る時代です。それぞれがそれぞれの工夫で自分の生きる道を模索できる時代です。努力すれば以前よりは報われる可能性があります。自分も含めてですが、頑張って欲しいと思います。

 

最後にひとつだけ、、、加工賃がどんなに安くても苦しくても、今もそうですが当時も技術開発や自身のテクニックを磨くことを止めたことはありません。技術者として、それだけは誇れます。  長澤祐一

古い商品または、高い商品の見分け方 その1

古い商品または、高い商品の見分け方

今日はこのタイトルで書いてみます。文字数はきっと短いですが、シリーズとして書いていければと思っています。

先日、ネットで、うわっ!ずい分高いな!と思って、よく画像を見ました。裏地と毛皮の境目、いわゆる裏地をまつっている部分のところなのですが、パイピング仕立てというのが20年以上前に一時流行りましたが、そのパイピング仕立てになっていたのです。飾りっぽく仕上げる意味で効果があったためでしょう。

それ以前は三角に折った生地を重ねて繋げたものを後襟ぐりに付けて見たり、ルーシングという飾りを毛皮と裏地の境目全体に付けてみたり、さらには裏地の裾に刺繍のはいったものを使って高級感をだしたりと、いろんなことをしていました。毛皮が分からない国内のお客様に高そうに見せるためにやられていたのです。私は、最初から商品には自信があったことと、当時から軽く柔らかく仕上げることを目指していましたので30年前でもそんな仕様にすることはありませんでした。今現在では業界全体でも、ほとんど見ることはなくなりました。

話それましたが、今日のパイピング仕立てとは、同素材の裏地をバイアスにカットしてそれを半分に折り、バイアスであることの伸び縮みする自由さを生かして、コートの裏地を取り付ける部分に一周取り付けて、その丸く折られたパイピングの端3mmくらいを残して裏地をまつりつけることで、裏地をまつるのに毛が邪魔にならず簡単であったり、裏地の端がパイピングしたように見えたりすることで高級感が出た感じがするので、一時流行ったことがあったのです。100%ではないですが、このパイピング仕立てで作られているとしたら、ほぼ、10~20年以上前のものだろうと疑ってかかってもいいでしょう。画像があればいいのですが、当然うちには、そんな商品はなく、ネットで見た画像は掲載できませんので画像は許してください。

先日見たそのコートも新品で当然出ている訳ですが、そのパイピング仕立てがされていました。かなり高額でしたが。こんなものこんなにするか!と思いましたが私がどうすることも出来ませんので、ここに少しだけでも被害にあわないようブログにしてみました。

パイピング仕立ては海外、特に中国のものにも以前はたくさんありましたが、今はほとんど見ることがありません。ネットで購入される方は、どうしても現品を見ることが難しく、不安なまま購入されることになるのですが、少しでも知識があれば、業者の嘘やからくりを見抜くか、見抜けないまでも少しでも警戒、または疑問を持つことができ、業者に問い合わせしてみることが出来るはずです。そこで、いい加減な回答がくれば怪しいことが、おおよそですがわかります。残念なことですが、まともに、丁寧な回答をできる業者さんは少ないはずです。

毛皮コートも大量に過去に作られたものが売れ残り、たくさん在庫として世界中にあるはずです。そして、その在庫の古い商品をリメイクして新品で小物として出てくるものも、なかにはあると思われます。不安を煽るわけではありませんが、やはり気をつける必要があります。宝石以上に、素材や作り方が曖昧でわかりずらい分、そこにつけこんで、いい加減な業者さんも多いというか、、、というよりも知らないショップオーナーもいらっしゃるのでしょうね。ご自身が、仕入れ業者に騙されているという可能性もあるかもしれません。困ったものです。

また次回、超古いものの見分け方がありましたら、またここに記載いたします。今日は短いですがこれで終わります。   長澤祐一

 

よくある、お客様からのコメント

今日は、他のサイトやショップにときどき見かけるお客様からの嬉しい、またはお礼のコメント、、、がありますが、それについて書いてみます。

私も、以前インスタグラムでのフォロワーからのコメントについて数回、このブログに載せました。これは、相手が確定していてインスタグラムのコメントは相手側のものは相手しかコメントできないというシステムなので、私が勝手に書くことはできませんので、ブログに載せてもいいかと判断して載せてみました。

しかし、よくサイトに見かけるコメントは、お相手が、例えば、何々県、30歳女性、、とか確定しない人の意見として、 仕上がりが素敵でした、、、とかが良く載っています。例えば、よくオンラインショップにあるコメントも、場合によっては、ショップ側が書くことが出来ることがあることを以前知りました。全てのショップがそれが出来るわけではないのでしょうが、以前、ミシン屋さんの店長とやり取りしていて、この文をコメントとして使っても良いですか?と言われて実際に掲載されたことがあります。私が直接コメントしてないのです。

でも、これではお客様からのコメントの信頼性なんかなくなりますね。私も驚きましたが、現実にあった話です。

これ以外にも、ホームページにもよく、お客様からの言葉として掲載されていることがありますが、これを載せて、私のところはお客様からすごく喜んでいただいていますというような意味合いで、勝手に書くことができる、そんな言葉に信憑性が担保できるのだろうかと思ってしまいます。

いつものごとくですが、私のところでは意地でも、そんな勝手に書くことができる、お客様からの言葉なんて、ここに載せることはありません。これまで私が書いてきたことの価値がなくなってしまいます。

万が一、そんな言葉をここに載せたなら、仮に本当の、頂いた嬉しい言葉だったとしても、せっかく頂いた大切な言葉をショップやサイトのPRに使ってしまったら私にとっては大変なことになります。商品やサービスの提供で頂いた言葉は大切に自分のなかにしまっておきます。

アピール下手と言えばそれまでですが、そんなメーカーだからこそと問い合わせしてくださるお客様がいて、それで十分なのです。どちらにしても大量に商材を提供するわけでもなく、大量なサービスが出来るわけでもありません。逆に言うと限られたひとのための限られた商材でありサービスです。それでいいと思っています。

私は、このブログやオンラインショップを設計するときに私なら絶対に何度も同じものを読む、そして絶対にここで買う、そんなブログやショップを作りたくて今に至っています。

時に、ブランド力に大きく水を開けられ(当たり前のことなのですが 💦)、悔しい思いをします。しかし、それでもいつか買っていただいたお客様が誇りをもって商品を使うことが出来る、そんな時が必ず来ると信じています。その為のこのブログです。動画がいくら良いと言われてもこのブログにこだわる理由はそこにあります。

いつも生意気なことを書いていますが、これを書くだけの商品とサービスを実際に提供しています。そして、作ることに対しての失敗も成功も積み上げています。今日はここで終わります。 次回は、毛皮のことを何か見つけて書こうとおもいます。   長澤祐一

読み返しのお願い。

今日は、少しお願いごとを書きます。

私のブログは場合によっては際どい部分もあります。その時の思いで書いていますが、書いてアップした後も何度も間違いや生意気な言い回しはないかと、これでもなのですが何度も何度も読み返し書き換えています。ですから1週間くらいした後、気が向いたらもう一度読み返していただけると助かります。少しは落ち着いた正しい言い回しになっているかもしれません。

毛皮を作るときと同じで何度も考え書き換えます。もちろん、完全に納得することはありません。しかし、少しでも正しい記載が出来ることで読む人が正しい理解・判断が出来ること望んでいます。 長澤祐一

カテゴリーについて

今日は、このブログについてお伝えいたします。最近、更新もしながら過去の投稿やブログ全体をチェックしたりしていましたが、意外に探したいものが見つからないことがありどうしようか考えていました。

まず分かったことはカテゴリーワードの設定が欲を出して一つの投稿に複数のカテゴリーワードを設定していたことに気付きました。
これだと、例えばリフォームを読みたいのにクリーニング記事まで出てきてしまって、本来、読んでもらいたい投稿、または読みたい投稿に、なかなかたどり着かないという状態になっていました。

そのため、極力、カテゴリーワードはひとつに変更致しました。ただし、リフォームとクリーニングのように、どうしても二つのカテゴリーワードが必要な場合もあり、その場合のみ複数のカテゴリーワードになっております。それでも、これまでのように、どうでもいいようなカテゴリーワードが複数設定されることはなくなりましたので、今後はサイト一番下のカテゴリー欄から見たいものを選択してもらえば見たいものに早くたどり着けるかと思います。

それと、一つお詫びしなければならないのですが、携帯からサイトに入られる方にはモバイル仕様のサイトが立ち上がりますが、カテゴリーを表示する設定がなく、サーチ機能しかありません。リフォームやクリーニングは検索をかけてもらえればすぐに出てきますが、それ以外で私が書いているものをカテゴリーワードで検索するには一番下にあるディスクトップをクリックしてもらい、ディスクトップ用サイトに入っていただき一番下のカテゴリー欄にて、お探しいただきますようお願いいたします。
お手間おかけいたしますが、よろしくお願いいたします。

以上のように、見たいものはカテゴリーから選択してもらえれば、ほぼ読みたいと思うテーマに沿った投稿が見つかると思います。これで、無駄になっていた見たいものを探す時間が節約できるかと思います。

私自身が、このサイトを再構築する能力がありませんので現状のシステムのなかで、出来る範囲で見やすい、探しやすいように今後は修正をしてまいりたいと思います。百貨店での仕事や、その百貨店を辞めた後の一年間はアトリエリニューアルやオンラインショップの立上げ等をやっていて、なかなかこのブログに何年もの間、手が付きませんでしたが今後は少しでも読みやすい、少しでも探しやすいブログに変えてまいります。

もちろん、世の中は動画の時代でもあり、このテキストだけのブログにどれほどのひとが集まるのかは分かりませんが、このブログを探してくれた方は、一度に集中して何ページも続けて読んでいただけているようで、私自身嬉しく思っています。
元々、たくさんの人がこのサイトに入ってくることなど当初から想定も期待もしておらず、今のままで良いとも思っています。

逆に言えば、この難しいブログであるからこそ、いい加減な問い合わせがほどんど来ないとも言えます。
それで良いと思っています。

 

長澤祐一

日本製 という誤解

今日は、以前から良くみる日本製という文字について、毛皮に関連付けて書いてみます。

私達も以前、某百貨店時代に商品タグと一緒にmade in japanというタグをつけていました。仕方なくです。

一般的な目で見れば海外製品よりも、国内生産品のほうが少し割高だけれども品質は良いというイメージがあります。毛皮についてはどうかというと、あまり決定的なことは言えませんが、日本製ということを特にお勧めは出来ません。その理由は元々、海外に比べて技術的な歴史があるわけでもなく毛皮産業自体も激しい落ち込みもあって大きな工場もなくなり設備投資も、もう十年以上なく新しい後継者や技術者も育たないという現状を考えれば国内生産のものが必ずしも良いとは言えないのが現実です。

中国製も相対的にみれば決して良いとは言えませんが中には、あっと思う柔らかさや軽さのものがあります。柔らかさや軽さについてはいつかまた書きますが、たったそれだけのことなのですが国内生産のつくりには、とても古さを感じます。もちろんパショーネ以外のという意味です。

以前、一年だけ商品を増やしたいと思い国内工場を使ったことがありますが、結果は点数が増えただけという結果に終わりました。決してレベルの低い工場を使った訳ではありません。しかし、残念な結果に終わりました。

Instagramでみる海外の商品もピンキリですが、それでも、時々、ドキッとするものがあります。

国内技術者が新しいことを考えるということをすでにあきらめたかのようにも感じます。新しいこととは奇抜なことや変わったことをやるという意味ではありません。例えば毛皮の欠点でもある見た目以上の重さや硬さを改善することも大切なのです。昔のように硬くても重くてもなんでも売れたという時代ではありません。

そんなことを日々感じながら仕事をしていると、一応パショーネ商品タグにも一番下に 原産国 日本 と小さく書いてはありますが、これまで、以前の取引先の指示でつけていた made in japan のタグは 他の日本製毛皮と、十把一絡げにされてしまうようでとても気持ちよくはなかったのです。

一度良く考えてみてください。本来であれば自分のところで作ったものに一番の自信があれば日本製なんて必要ないですね。以前にも書きましたが他人が決めた価値に頼る必要なんかないはずです。自分が提供する商品に自信がないから、何か別の付加価値を付けなければならないのです。私はそう思います。この辺でこのテーマは終わります。

前回のどこにでも同じ情報を出す、、、 というブログを書きましたが、今回はその最初のブログです。私のブログは技術的な記載も含め、どこかで見た気の利いたことをコピーして載せることなどありません。全て書いていることは自分が失敗も成功も含め経験したことです。それ以外のことは書いていません。時々私の記事に似たものがありますが、前後の記載された内容を比べて頂ければどちらが発信元かは必ず解ります。

今後もこれだけ長いブログを最後まで読んでいただける内容を載せてまいります。最後までいつも読んでいただいてありがとうございます。

長澤祐一