外注委託加工を使わない訳は?
当アトリエでは基本的には、アトリエで絶対に出来ない、毛皮のなめしや染色等の加工以外の縫製に関わる全ての作業はアトリエ内で行っています。一般的に毛皮部分の加工は工場内で行われ、残りのコートのまとめや裏地付け等は外注(下受けや内職)にまわることも多く見られます。
今日は弊社(PASSIONE)が全ての製造及びリフォームをアトリエ内で作成する理由と、外注委託加工に出さない理由をご説明したいと思います。
一般的に外注加工に出す理由がいくつかります。例えば、縫製機能を持っていないメーカーもそれにあたります。そして、縫製工場が外注委託加工を使う場合もあります。今回は二番目の縫製工場自らが外注加工を使うケースについて当社との比較をしながら書いてみます。
外注加工や内職に出す理由はいくつかあり、例えば生産が間に合わないとか、出来るだけコストを下げようとかが、その理由にあたります。
毛皮の職人さんのなかには毛皮しか出来ない人、または針仕事ができない方もなかにはいらっしゃいます。もの作りの完成度をあげようとするならばパターン、デザイン、染色、原皮、なめし、毛皮縫製、生地縫製、まとめ等の全てを熟知しているエンジニアのようなタイプの技術者が全体を仕切る必要があると私は思っています。
アパレル業界で言えば例えば、モデリストというような位置付けになるでしょうか。
余談になりますが、私はどちらかというと職人というよりはエンジニアであったりモデリストであったり、、、というようタイプを目指して、これまで仕事をしてきました。ですから、自分は確かに職人ではありますが、職人と呼ばれることには、あまりしっくりとこないのです。
話は戻りますが、アパレルではテキスタイルとパターンや縫製はアパレルというひとつの業種のなかに括られますが、業態としては少し距離があるようにおもわれます。ところが、毛皮は、生産数量が少量ということもあり、洋服に例えれば、一つの工場で生地もつくり、さらに同じ場所で形にする縫製を行うという流れになり、大半のことは一つの工場内で行われることが多いのです。
そんなこともあり職人さんの能力の大半は毛皮本体の部分を作ることに使われてしまい、かたちや風合いを表現する意味では以外に大切な最後の芯や綿入れ、それ以外のまとめ部分に、なかなか関われないことが多いのです。もちろん全てではないですが、そういう傾向も多くみられます。
私たちのアトリエでは、最終的な”求めるカタチ”や風合いを表現することに最後まで、とことん力を注ぎます。アトリエ内での作業は、価格に左右されないと言えば嘘になりますが、基本的には仕事を受けた価格に応じて、というよりも目の前にある問題や表現したいテーマに集中していきます。軽さや柔らかさが必要なデザインならば出来る限りのトライはします。場合によっては自分たちで皮を鋤くこともします。
都度、作りの途中でパターンも変更していきますし、加工の方法も様々に変化していくことになります。
そして、ここが以外に今回のテーマで大事なところですが、リフォーム等では、特に求められるのは、お預かりしたコートのデザインを替えて、さらに出来るだけ着丈を長く作りたいというような、作り手からすればかなりハードルの高い要望が、少なくありません。
例えば、元の毛皮のエリでで新たに作ろうとするデザインのエリが取れない場合は、エリ等を身頃の裾から取らなければなりません。そうなると、身頃を一旦最初の予定の長さまで出して、その後、エリを残った裾で作り、万が一、身頃を長くするゆとりがあれば再度、パターンを修正し、最終的に着丈を決定していくという臨機応変な作業が常に求められます。
更に、リフォームで最も大事な皮の状態は、作業をするなかで部分的な劣化を発見したり等、様々な問題が発生いたします。それを無視して求められたパターンに入れようとすれば皮は切れるか切れる寸前の状態になり、完成後にも大きな不安を抱えることになります。そんなときにはパターンを瞬時に変更し、使う水の量を控えたり、場合によっては水を使わない方法も選択しなければなりません。これは、現場で都度、毛皮の状態をみながらではないと出来ないということです。もちろん、気の効いた職人さんのなかには、お客様の要望を出来る限り聴いていこうとするひともいるでしょう。
しかし、外注加工の現場では、途中での作業の変更や段取り替え、またはパターンを都度修正するというのは、思ったよりも手間がかかり加工賃もあらかじめ決められているので、なかなか難しさがあります。パターンについても場合によっては外注であったりすれば、パターンメイカーは毛皮を見ながらパターンを引く訳ではないので、発注する側が、あらかじめゆとりをもった設定のなかで発注をしていきます。そんなこともあり、お客様との打ち合わせでは、この着丈が限界ですと言い切られてしまう場合も、おそらく少なくはないでしょう。
そんな意味からも、パターン作成から始まって、最終の仕上がりまでアトリエ内で行うというこだわりは私たちの理想であり、考え方(哲学)でもあり、外注加工を使わないという、ひとつの大きな理由です。
動画は、ヌートリアの皮の劣化を映しています。このヌートリアやビーバーは皮がしっかりしてる割に劣化が多いようです。このブログ記事でも何度も書いてますが、水がタンパク質に与える影響は大きく、通常のドレッシング(毛皮用のなめし)では特に影響があります。染色したクロム鞣しがされたものの劣化は以外に少ないということもあり、毛皮がどんな状態かを見て加工をしなければなりません。最初の映像は水に濡らすまえの皮です。ほとんど紙のような状態ですが、まだ強度があります。そして次の映像が水に濡らした皮です。もうほとんど、皮の繊維のチェーンが外れた状態で、紙を水に濡らしたような状態になっています。見た目、しっかりしている皮でも、劣化が進んでいる皮は水につけると、ほぼ映像と同じようになります。作る側にも常に大きなリスクがあるのです。