仮縫いや本仮縫いの意味

今日は仮縫いや本仮縫いの意味というタイトルです。

私達のオーダーやリフォームでは、トワル仮縫いや本仮縫いを抜きにして、コートを仕上げることなどありません。部分修正にしても、最低限一回は仮縫いをやります。場合によっては二回、三回となることもあります。

その理由は、最短でベストの状態にするためです。その為に膨大な手間をかけるのです。

最短の意味は、出来るだけ余計な修正ややり直しをしないでという意味です。

仮縫いせずに適当に早くやって、クレームが出たら何度でも直せばいいなんて発想は私達には、ありません。

毛皮はナチュラルな素材の場合は特に、毛の長さや色が頭や背中心、腹など、それぞれに違います。

だからこれほどまでに立体感があって平面の画像で見ても綺麗なのです。

このことを頭に入れてよく考えてみてください。毛皮という素材は簡単に切って継ぎ足すように縫って問題がないという素材ではありません。

特に毛の短めな素材、例えばミンクのようなもの、さらには繊細な毛質のチンチラなどは縫い直しは厳禁です。傷縫いも目立ちます。

私も、時にはどうしてもカットして縫い直さなければならない場合があります。ただし、その時にも素材の皮の厚さに注意し、色の違いを最小限にすることを注意し作業をします。

素材の色、毛の長さに細心の注意を払い縫うのですが、それでも簡単ではありません。

仮縫いもせず、求める仕上がりと違ったならば何回でもお直しが出来ますと言う素材ではないのです。生地のように直接接ぎ目が見えないと言うだけで、縫い直しの影響はフォックス以外で毛の短めの素材であれば必ずでます。特にミシンワークが未熟であればなおさらです。

毛があるからわかりにくいということで、どんなお直しでも、何回でもできるというのは間違っています。

厳しい意見ですが、どんなに価格がリーズナブルといっても、価値のない商品やサービスの提供は意味がありません。

以前、価格の価値という投稿をしましたが、価値に見合わない仕事こそが一番高額な価格なのです。

最後に話を戻しますが、仮縫いや本仮縫いの本当の意味は形式的にお客様を納得させるための儀式ではないのです。でも、そんなところが多いのも現実です。

仮縫いで何をチェックするのかさえ知らない素人がチェックするのです。不安ならその場で聞いてみてください。仮縫い時のチェックは何をするのかを。あれこれ理屈をつけたとしても、まともに答えられるところは少ないと思います。

本来の仮縫いの意味は、仕上がり後の無駄な修正を100%無くすためにあります。

仮縫いをやって、お客様を形式的に納得させるというような業者都合の儀式ではありません。

仮縫いをやれば、お客様に文句を言わせないというような自分都合のものではなく、全ては完璧な仕上がりのためのものです。

ただし、そのためにはプロになるための努力が必要です。

今すでに仕事をしている、、、ということがプロということではありません。

意識と技量がプロであるかが一番重要なところです。

生意気ですが、そう思って私も日々の仕事をしています。

 

長澤

手間がかかるから儲からないという疑問

よく技術者の間で、 手間がかかり過ぎて儲からない、、、と言われることがあります。

その時に私はいつも思います。

それって、自分の技量が悪くて時間がかかっているんじゃない?必要な設備投資もしないで。

もちろん、本当に高度な技術が必要で時間がかかり過ぎる場合もあります。

しかし、大半は無駄な愚痴というか、時間がかかる理由の一番の原因は、本人の技量不足による場合が多いのではと感じます。

常に、もっと効率よく綺麗に仕上げることが出来ないだろうか?と自分に問いかけていれば、そんな愚痴は出ないはずです。普段の失敗を自覚して、もっと短い時間で同じことが出来たはずと、常に反省を繰り返していれば、愚痴など言っている暇はありません。

効率よくやることをすべて儲けの対象にして考えていれば進歩はしないと考えます。効率を上げて時間が生まれたら他のもっと必要な作業の時間に充てることを考えないとなかなか前に進みません。

何かひとつ良いアイデアで効率が上がったとして、すぐに楽ができたと考えるようだと、もともと効率が上がるような頭の回転はしていないということです。

毛皮という素材は個体差が強く、同じクォリティーを出そうと考えても、なかなかそれが出来ず、毎回本当に悩みます。出来ることとすれば、毎回、個体差や自分の技量によってぶれる仕上がりの差を極力小さくすることしかやれることがないのです。

テーマにもどりますが、自分の力がないから、コストが高くつくのか、それとも十分に技量があり、そのうえで手間がかかるというのか?

手間がかかるという言葉は同じでも、意味はまったく違います。

これじゃ儲からない、、という前に自分の技量はその仕事に足りているだろうか?と問いかけてみるのも良いかもしれません。

長澤

 

 

 

毛皮の仕上げやクリーニングでよく起きる誤解

今日は、 『毛皮の仕上げやクリーニングでよく起きる誤解』 というタイトルです。

このパショーネのブログでも、クリーニングや仕上げのことについてよく記載をしています。ひとつ誤解があるといけないので書いてみます。

私の毛皮を仕上げる技術は、自分で言うのもなんですが、かなり上手いほうです。

その理由は毛皮素材の本来の良さや作りによって毛皮のポテンシャルが上がることを知っているからです。

ただ、ひとつ誤解があるかもしれませんので書いておきます。

素材や作りが良くても、毛の癖や、汚れが付いていたり、毛皮の皮面が硬かったりすることで、本来の良さを出せていない毛皮があります。

その場合は、元の良さを引き出すことが出来れば驚くほど綺麗になります。

ただ、誤解があるかもしれませんのでお伝えいたしますが、パショーネ以外で、お買いになられた商品をパショーネでクリーニングをしたり仕上げをしても、もともと持っていたクォリティは発揮することが出来ますが、元のパフォーマンス以上にはなりません。

パショーネがやっているのは、あくまで元々持っている素材や作りの良さを引き出すだけなのです。どんなに頑張っても元のクォリティ以上にはなりません。ただ一般的に売られている商品のほとんどが、本来の力さえも表現されていないことが多く、その多くは仕上げる前よりは良くなりますが、パショーネの商品と同じようにはならないのが現実です。

チンチラなどのボリューム感も一般のチンチラの例えば半裁横段のマフラーの多くは、横段の接ぎ目の間に1cm幅くらいのレザーが入っています。

チンチラの1パーツの幅が一般的に例えば5cだとします。そこに1cのレザーがチンチラとチンチラの間に縫い込まれます。そうすることで、5パーツ接ぎ合せると、ざっくりですがレザーによって5c分長さが長くなります。

こうやって高額なチンチラの使用枚数を減らします。これはこれで良いのです。ただ、ひとつ言えるのは、当然ですが1本のマフラーを作っても材料コストが原皮一枚分減ります。

見た目を同じように見せて使用枚数を減らすという売り手側の都合のよい作りになります。

そして、当然ですがボリューム感も減ります。綿をどんなに入れても素材のボリューム感と同じにはなりません。

もちろんレザーをチンチラの間に入れない職人もいますが、一つ一つのパーツを綺麗にそろえることや、チンチラの白い腹を均一にいれることなど注意すべき点がたくさんあります。

世に出ている大半のチンチラが、これを正しく守っていません。そのことによって、本来、横段で綺麗にみえるはずのチンチラが上下の幅やボリューム感が違ったりしていて汚い作りになっています。

話を仕上げにもどしますが、前回の”価格の価値とは”のブログでも書きましたが、安いには安いなりの理由が必ず存在します。流通コストを省いたことで安くできたり、工賃の安い職人に出したり、中国で作ったり、レザーを入れて素材コストを下げたり、、、とたくさん理由はありますが、常に何がしかの理由が存在します。

最後にもう一度、元のテーマにもどりますが、どんなにパショーネが仕上げをしても、元の素材が良くなるわけではないのです。私たちがやることは、元の素材の魅力を最大限に引き出すことをしているだけです。仕上げ方でごまかすことは出来ません。元が良ければ当然ですが、その力が100%引き出されれば魅力的な毛皮に戻ります。

ただ、一般的に世に出ている商品の多くの割合で、正しい作りや仕上げがされていないために元の素材のクォリティ以下に見えるものが多くあり残念だといつも感じています。

長澤祐一

 

 

 

価格の価値とは

今日は ”価格の価値とは” というタイトルです。

見た目の価格が高い安いということも大事かもしれません。

しかし、一番大事なのは、その提示された価格に商品やサービスが勝っているのか、それとも価格よりも低い価値なのか?が一番大事なはずです。

 

毛皮という商材は一般のお客様や、販売に携わっている人たちでさえ正しく理解出来ていない、または、本当に良い商品やサービスを知らないという部分があります。

プロの現場でさえそうなのですから、一般のお客様が知る訳がありません。

そんな状態のなかで、例えば、この商品は価格に対して価値があるかないかなど、ほとんどの人が解らないと感じます。

 

今日も、あるお得意様のコートをリフォームの前にドライクリーニングするのに、裏地や芯を全て外しました。このコートも元のコートは他社での一般的な仕上がりでした。しかし、一度サイズを詰めるためにお直し又はリフォームをしたとも聞いていました。

今回、このコートの裏地を取って毛皮だけにしてみて驚きましたが、サイズを詰めるのに、毛皮をカットして毛皮用のミシンで縫っているのではなく、平ミシンで縫っているのです。そして、その縫い代をアイロンが効かないので接着糊で止めていました。

元々、こんな加工屋に出す販売店の方がおかしいとも言えますが、それにしても毛皮用のミシンも持たずに、何故仕事を受けるのかと思います。

お客様から仕事を依頼されて、仕事を職人さんに出す元受けの知識のなさも呆れますが、道具も持たずに仕事を出来ると受ける方にも問題があります。仕事がないんで、あればなんでも受けるというところが垣間見えます。

しかし、こんなこと珍しくないのです。私から見れば大半がそう見えます。

毛皮は素材が洋服と違い厚みがありますので、外からは売り場の販売員や素人の方では問題に気付かないことが多いのです。スーツなら簡単に歪がでるようないい加減な仕事でも毛皮の場合は気が付きにくいのです。

分からなきゃいいじゃないか?ということもあるかもしれませんが、実際は着てる本人が気が付かないだけで、解る人が見ればわかります。

最初のテーマに戻りますが、価格が高いか、価格に対して見合った、またはそれ以上の価値があるかどうかは、作られた商品、リフォームされた商品の内容によって決まるのです。

よく、いろんなサイトをみて価格を最初に見るのかもしれません。しかし、一番大事なのはどれくらいの価値のあるものなのか、どれくらい質の高いお直しやリフォームをしているのかが一番大事であり、そのことと価格がどう連動しているかが本来は一番大事なはずです。

今日見たような、リフォームなど、一円の価値もないのです。それでも、軽く見積もって10万以上は取っているでしょう。うわ~~と思うかもしれませんが、大半がこんなものばっかりですよ。はっきり言いますが、ネットで有名なところがたくさんありますが、お~~この写真を平気で出すか?と思うなものばかりです。写真を掲載するということは、その商品の悪さに気付かないということですから。

一般のお客様ならしょうがない気もしますが、一応プロとして小売をしているのであれば、もう少しまともな画像をだすべきかと私は思います。

話がそれました。

価格を店頭やオンラインショップに出せば、その内容に見合った商品を出す必要がありますし、またその内容も伝えなければなりません。

しかし、オンラインショップではなかなかすべてを伝えることが出来ず苦しみます。

このブログはその足りない部分を少しでも埋めるめに書いています。作りをいちいちすべて画像や動画で伝えても、すべてが伝わる訳でもなく自己満足になりがちです。そのため、パショーネがどういう気持ちで毛皮そのものや、ひとつひとつの商品、作業に向き合っているかをここで書くしかないのです。

そして、それがどこまで信頼や安心感につながるかは読むひと次第です。

それでも、どうせ分からないと思って、伝えることを諦めたら、そこで終わりです。

毛皮という、今は誤解も受けやすい素材を扱うものとして正しく素材の魅力を伝える以外にありません。

そして、そのことが付いている価格を正しく評価・判断する、、、出来ることにつながればと思います。

 

長澤 祐一

 

 

 

毛皮のご自宅保管での注意点

今日は、そろそろクリーニングや保管の時期になってきましたので、一般の方が簡単に保管ができる方法や気を付けなければいけないこと、さらに一般の業者も気が付かないことなども含めて書いてみます、、、と実は五月くらいに書き始めたのですが、忙しくて、こんな時期になってしまいました。すみません。

でも、真夏になってますが、今からでも試してみる価値はあります。是非読んでみて、やれることだけでもやってみてください。やらないよりは絶対に毛皮にとって良いはずです。

業者さんがやってることは私は正確には知りませんが、想像はできます。

クリーニング後にどういった状態で保管するか、そして納品直前に何をするのかが問題なのですが、完璧な解決方法がないのが正直なところです。

一番良いのは、コート一点を何にも近づけずに温度の高くならない暗い場所で保管するのが一番です。しかし現実には保管を仕事としてやる場合には大量のコートを一か所でお預かりするわけですから、コート同士がほぼ、軽く接触状態になるのは普通のことです。

ご自宅の場合であれば、例えばクローゼットがあったとしても、毛皮のコート同士、または他の洋服とピッタリに接触してしまっていては、いろんなリスクが発生いたします。

まずは、クローゼットで例えば湿度や温度が調整できる環境であっても、クローゼットが空の状態であれば全体に温度や湿度管理がいきわたりますが、ものが入ってしまうと空調の対流が妨げられて湿気が溜まってしまう場所が発生します。

例えば、コートを向かって左向きにハンガーで掛けた場合には右袖が奥側になり右袖に湿気が溜まります。私が、過去にやったリフォームの中に、右袖だけが極端に劣化しているコートが三点ほどありました。すべてミンクです。ミンクは毛皮素材のなかでも特に強いほうの素材ですが、劣化していました。

この事象からもハンガーに掛けた方向とラックに入れる向きにもよりますが、どんなに環境を良くしたとしても、壁際だったりする端になる部分は湿気が溜まりやすく、空調設備があるクローゼットのようなスペースでも絶対に安心とは言えないということです。

解決方法としては、クローゼットの環境をよくするよりも、コートのかける向きを夏場の時期に最低一度は変えて、湿気が溜まった奥側にある袖の方を手前にしてあげて、新しい空気に触れさせて湿気を取ることをお勧めいたします。

それと、夏場のオフシーズン中に、何度かハンガーラックのようなものに間隔を開けてコートを一度裏返しにして 暗い場所に数日置いて、裏側に溜まった湿気を取り除くことをお勧めします。

これくらいやっていれば、そう簡単には皮の劣化はしません。一般的に、よくみるリフォーム品の極端な劣化は、超最悪の環境に長期継続して保管してしまったことによるものが多いと私は考えます。

よく、以前クリーニングに出して、その後何十年もしまったままだったというようなケースがありますが、たまたま保管した場所の状態が湿度や温度の高い場所に長期間保管したケースが多く、しかも着ないために、どうしても保管場所が奥の奥にいってしまい、環境としては一番最悪の場所になったことも原因のひとつです。

普通に扱えば毛皮はそんなに簡単には悪くなりません。それは、私の手持ちの在庫や仕掛り品在庫をみても、何十年も経った仕掛り品がありますが、劣化などしません。

たまにチンチラが劣化している場合がありますが、これは買った時からすでに劣化が始まっていたようなチンチラ原皮がありますが、それにしても、過去35年くらいの間で数枚のことです。

意外に怖いと私が想像するのは、メーカーや小売店のバックヤードに長期保管されてしまっているようなコートや小物は怖いと感じます。

その原因のひとつは、一か所に継続して長期保管をした場合には、どんなに空調があっても行き届かない場所がたくさんでますので、かなり危険だと感じます。

保管を業務としているところでも問題を抱えているはずです。ただ、現状の保管の方法しかすべがなく、クリーニングに出したものを保管する場合は特にそうですが、コートは完全に綺麗になったという前提がありますから、例えば不織布のようなコートカバーに入れて納品まで保管することになります。

しかし、洋服のように完全に汚れが落ちた訳ではありません。毛皮の皮についた虫やカビは一般のクリーニングでは落ちませんから、仮にいい状態のコートの隣にクリーニングを完了しているといっても、皮にダニやカビが付いたコートを密着状態で保管したら、当然ですが、隣にも匂いやカビ、虫が移るリスクは通常以上にあります。自宅保管よりリスクが高くなるのです。

燻蒸処理するという話も聞きますが、毛皮の一番怖い部分が裏地、さらには芯の奥にある皮の部分であり、そこに匂いやカビ、虫などがいるので、燻蒸がどこまで効果があるかは分かりません。仮に害虫や菌が死んだとしても匂いは残るような気もします。燻蒸ですべてのリスクがなくなるというのは無理があるかなと、私は感じます。

 

話戻しますが、保管をする際に不織布のカバーのようなもので保管し、他のコートと密着状態になれば、綺麗なほぼ新品の状態のコートに隣の古いコートから匂い、カビ、虫等が移る可能性があるのです。普通の洋服のように完全に汚れが落ちた状態でビニールカバーにかかったものが隣り合わせになるのは問題はありませんが、毛皮の場合、裏地が付いた状態での完璧なクリーニングはあり得ませんので、都度リスクが発生いたします。

クリーニングに出したはずが、逆に、保管や作業中のコート同士の接触によって匂いやカビが移る可能性があるという矛盾した問題がつきまといます。

私のところでも、この部分には一番神経を使います。

最初のご自宅での保管の話にもどしますが、上に書いたことを気を付けて頂けば、そう簡単に皮が劣化したりしません。劣化するまでには、そうとう無意識に酷い環境で保管しないと簡単に皮が劣化したりはしません。室内温度が超熱い場所やクローゼット、場合によっては桐箱なんかに入れっぱなしにした状態を何年も続けている場合です。

桐の箱が良いなんてよく言われますが、確かに虫よけにはなるのかもしれませんが、湿気を吸った毛皮を何年も入れっぱなしにしてはいけません。昔のストールを桐箱に入れてダメになったのを何度も見ています。

桐ダンスに入れて保管する呉服については私は分かりませんが、毛皮の皮は生き物のように湿気をすったり出したりしています。その湿気の逃げ道を無くしてしまった状態で長期保管などあり得ないのです。

毛皮で一番のリスクは皮にあります。毛は虫に食われたりもあるかもしれませんが、コート全体がダメになることはありません。皮が劣化したら、毛皮コートとしては価値が無くなります。

極端に心配する必要はないですが、せめて、上に私が書いたことを毎年守っていただければ自宅保管もありだと考えています。

とにかく大切にクローゼットでも洋服ダンスでも、奥の奥に何年もしまったままはやめてください。

 

私も、これだけ長い間、扱っていても明快にこれだというものが見つかりませんので、責任は持てませんが、上で書いたことをやらないよりはやった方が確実にコートの寿命を延ばすことは出来ます。

業者さんも、これが絶対だとは思ってないはずです。思ってるんだとしたら、知らないことが多すぎるのだろうなと推察できます。

昔、脱酸素剤を入れてビニールのパッケージで空気を抜いた状態で保管するものがありましたが、あれも問題が多いですね。だって脱酸素といっても、毛皮のコートから完全に湿気が取り除かれての脱酸素なら良いですが、ほとんどの場合、毛皮に湿気が含んだ状態での脱酸素です。しかも、毛も皮も脱酸素によって、本来あるべき毛質やコートの形が崩れてしまうわけですから、シーズンになって着ようとしても、その毛と皮の癖が取れるのに、おそらく一週間はかかります。自分もパッケージを一個だけ買って試しましたが、納得できるものではありませんでした。

ひとつ付け加えますが、最近染色をした毛皮をよく見かけます。これは染色をするためにクロム鞣しをしているので劣化はほとんどしません。

ただし、匂い、カビ、虫は付きます。劣化しないぶん、リスクは減りますが、匂いやカビも大問題です。残念ですが、一般のお客様のコートの20年くらい経ったものの大半はカビが生えています。匂いでわかります。

 

いろいろ書きましたが、それくらい、問題が多い毛皮のクリーニングや保管です。

上に書いたことを実践してもらえれば簡単にはカビも生えませんが、一度カビが生えてしまうと、裏地が付いたままのクリーニングではカビは二度と取れることはありません。

私のところで、クリーニングも保管も、扱い方が見える顧客のものしかやらないのは、状態の酷い毛皮を預かって、商品やお客様のお預かり品に問題が起きたら大変なことになるためです。

時々お問い合わせで、毛皮に情熱が感じられる場合にのみですが、お手伝いとしてクリーニングを受けることがありますが、その時にも慎重に作業をいたします。チンチラやセーブルのヤーン(編み込み)マフラー等のクリーニングも、おそらくですが、私のところでしかやれないと判断している素材や仕様のものは、お手伝いの意味でクリーニングを受けることがありますが、基本的にクリーニングは受けていません。リフォームとセットの場合は解くついでに徹底したクリーニングが出来るので、保管のリスクが減りますから、その場合はリフォームの中でクリーニングをやると言うことでお受けしております。

極力ですが、私は自宅保管をお勧めします。その理由は保管に出した方が、匂いやカビが移るリスクが大きいからです。

それと、一般的にはクリーニングをしてから保管ですが、これも微妙なのです。本来はクリーニングをした直後がシーズン初めなのが一番なのです。ドラムという機械で毛も起毛し皮も多少は柔らかくなっています。ところが、一般的には、そこから保管に入り、半年ちかく保管状態が続き、せっかく起毛してフワッとなった毛も潰れてしまいます。

私のところでは、クリーニングはやはり最初にやります。理由は汚れを早く落としたいからです。しかし、保管だしのときに、もう一度、硬くなりかけた皮や保管で潰れてしまった毛を起こすためにもドラムにかけます。

手間を考えるとドラムをかけずに、そのままお渡しが楽ですが、やはり一番良い状態でお渡しをしたいのでそうしています。

今日も長々と書きましたが、上に書いた何点かのポイントを押さえてもらえれば、自宅保管もありです。ただし、放りっぱなしはダメです。一旦放りっぱなしになると永遠に何もしなくなります。そして気が付いた時には、どうしようもない状態になってしまいます。

とにかく大事にしてもらえると作り手としても嬉しいです。

 

長澤祐一

 

 

 

原皮の保管方法と毛皮のクリーニングとの関係

今日は、原皮の保管方法と毛皮のクリーニングとの関係と言うテーマです。

一般の方には、あまり関係のない話ですが、原皮をある程度大量に抱えている会社にとっては大事なことです。

私のところでも、会社の規模も小さいですし大量に商品を生産して大量に販売するというわけではありませんが、そんな私のところでも在庫をエクセルで管理していますが、小さなアーミンのような原皮も含めると2,000枚は楽に超えます。

当然一年で使い切ることはありません。

そう考えると何が一番大事になるかと考えると、原皮の状態を徹底してベストの状態で管理することです。

チンチラのように元々、劣化がしやすい素材はクロム鞣しという処理を染色屋さんでしています。これは染色などのための前処理として耐熱効果を出すための処理ですが、劣化防止にも使えます。

今期、初めてですが、セーブルやミンクの一部にもクロム鞣しをして劣化防止をしようと試みました。しかし、クロム鞣しのために少しグレーっぽく色がついてしまいます。セーブルのように元色が、そこそこ濃いものは良いのですが、ホワイトミンクや薄い色のミンクにはクロムの色が少しついてしまい、ホワイトやパールミンク等の原色としては使えません。

敢えてグレーっぽくしたいなら良いのですが、ナチュラルの色としては、わずかにグレーっぽく、くすんだ色になり難しいのです。

 

それと皮が少しだけ硬くなります。通常の毛皮の鞣しは、ドレッシングと呼ばれていますが、要はドレスのように柔らかく鞣すということです。

クロムを入れて耐熱処理をした皮は少しだけですが硬さがでます。

そんなこともあって染色用のホワイトミンクはクロム鞣しする意味がありますが、ナチュラルの色のまま使うパールやサファイア、ブルーアイリス等のミンクにはクロム鞣しをかけることが出来ないことが分かりました。

劣化防止にはクロム鞣し以外にもう一つあります。これは、やったことがない人には、毛皮業界の人と言えども理解できませんが、以前書いたことがありますが、鞣し屋さんのひとと話すと意見が一致した方法があります。

その方法は鞣しの最後の工程で毛皮の脂をドライクリーニングの機械で抜きます。この抜く作業によって毛皮から余計な脂が抜けて、皮の表面もカラッとした状態になり、空気中の湿気を吸収しなくなります。

もちろん、一般のレベルのドライクリーニングでは、私の感覚としては、まだ全然不足していますので、鞣し屋さんに再鞣しをしてもらい最後のドライクリーニングのときに少し強めに脂を抜いてもらいます。

自分でやる場合は、オガに有機溶剤をたくさん混ぜて、毛皮用のドラムに原皮と一緒に入れて三日間くらい回します。ドラムを回し始めて三日目に入ったところくらいから突然柔らかくなりだします。そして、ドラムのなかで有機溶剤が自然に気化するのを回しながら待ちます。

その後、ドラムの蓋を網の蓋に替えてオガを落としながら徹底して乾燥させ、原皮の筒状の中に入ったオガも綺麗に落ちるまで回します。

こうして、通常の鞣し上がりのときの、皮に含まれた脂が多いかなと思った状態から、触ってもサラサラいうような気持ちのよい感触になり、湿気のある国内での原皮の長期保管に適した状態になります。

よく、長期保管したミンクの原皮の皮が硬くなり、ミンク本来の柔らかさや風合いが無くなり、ミンクの束も以前より重くなった感触のときがあります。

もともと仕上がった少し多めの脂が入った状態のミンクが長期間、動かすことなく同じ場所で保管されたことで湿気を吸ったまま皮がわずかに硬化してしまうことがあります。

鞣し上がったばかりの柔らかく軽やかな状態から変わることがあるのです。

これは湿気を吸収して、その湿気によって皮が硬くなるからです。私たちの毛皮加工の中で水を使って皮を伸ばしたり曲げたりして毛皮を加工することがありますが、この原理と同じです。濡らすほどではないので加工の時のように固くはなりませんが、同じことが原皮の保管の時にも起こります。

これを防ぐには水分を吸収し難い皮の状態にするしかありません。

そのためにドライクリーニングをしています。

このことは、自分のリスクで何年も仕入れた皮を保管し、自分で良いと思った方法が正しいのかどうかを何年もかけて見続けて確認する必要があります。

今、現在私がやっている方法が現時点での最良の方法と考えていて、この考えのもとにクリーニングもしています。

私の中ではクリーニングが一番の目的ではなく皮と毛の状態を管理することで皮に匂いがついたり劣化したりしないようにし、毛皮本来の魅力が持続することを目的とするためのクリーニングなのです。

毛皮の毛も確かに汚れます。しかし、毛は意外に洗って落とすことが可能です。私のインスタグラムのロシアのフォロワーもバイオクリーニング剤を使って毛の表面から洗っている動画をよくみかけます。

ただ、残念なのは毛皮大国のロシアでさえも皮に一番のリスクがあることを理解していないように見えます。もしかしたら気候の違いで皮が湿気で酸化したり匂いが発生したりしないのかもしれません。

皮の部分の管理は、毛皮にとってかなり重要であり大変です。

正直、私も、最初は表の毛を綺麗につくることばかり考えていました。

25年以上もですよ。しかし、10年くらい前だったかもしれませんが、あるとき、いくら綺麗に作っても毛皮本来の魅力を引き出すのには皮そのものの状態をベストにしないと毛皮本来の魅力が引き出せないことに気が付きました。

 

技術的なノウハウや道具がそろったのが、ようやくです。ほんと、ようやくここに来て、いろんな問題が人に頼らず自分で解決できるようになったところです。

このコロナになったことや、そのことで某百貨店毛皮サロンを辞めさせてもらえたことで、これまでよりも時間が出来、考える時間を貰えたことで時間のかかる試験をすることが出来て、なんとなく、あ~こんな感じかな、、と思えるようなところに辿り着きました。

誤解されるかもしれないので一言付け加えますが、今まで作ったものがダメだったということではありません。

ただ、毛皮は鞣す作業も手作業ですので、常に私が望む皮の状態とはいきません。どうしても、今回は皮が厚いな、、とか、今回は皮が脂っこく重いな、、とか都度変化します。

じゃあ、鞣しのせいにして、しょうがないと言って、自分が納得していない状態で作業を進めるのかという問題にぶつかります。

自分の場合は、そのまま先に進めないので皮が厚ければ薄く鋤こうと思い回転アイロンという機材を使って皮を鋤いたりするわけです。

脂も抜きたいと思えば自分で抜く方法を考えるだけなのです。

誰も拘らないところに拘り、執着して来ましたが、ようやく100%とはいきませんが、そこそこの平均値を出すことが出来るところに近づいたような気がします。

以前よりも時間も手間もかかりますが、前工程の誰かのせいにすることなく自分で解決策をみつけられたことは大きいです。

原皮の保管と毛皮のクリーニング、離れたテーマのようで、とても近い距離にあり毛皮の本当の魅力を引き出すための大事な部分なのです。

 

長澤祐一

 

passione ファーコートという他社での記載

こんにちは、今日はPassioneというブランドについて、いくつか類似するものがあるので説明を致します。

私の会社が社名をパショーネとし、商標登録をプレステージアスパショーネとしたのは27年くらい前のことです。

当時すでにパショーネ(passione)は商標登録されていて使えませんでした。

呼び方もパショーネとしたのは、正式なパッシオーネは日本では発音しにくかったこともありパショーネにしています。

本来であればPassioneで商標登録が出来れば良かったのですが、当時は取得出来なかったのです。どちらが権利をもっていいるのかは今も解りません。

同じ毛皮業界でも似たような社名が私たちの後に出てきましたが、社名は多分ですが、地域が違えば同じ社名もありなのかと思いますので仕方ありません。

そのかわりですが、ドメインだけは、passione.co.jp で当然ですが、これは日本で当社だけのものです。

ショップドメインはfur-passione.comです。

 

前置きが長くなりましたが、最近、よくオークションサイトで passione ファーコート というような、品名がたくさん見受けられます。 passione の o の上に 横棒が入っていて、ものによっては パシオーネという名前で出ていらっしゃいます。

 

これは私のところの商品ではありません。くれぐれも誤解のないように気を付けてください。

このような表示が一社ではありません。よく調べると株式会社ですが、代表のお名前がそれぞれに違います。

ファッションブランドでよく同じ名前がありますが、パショーネではなくパッシオーネという名前だったりします。

パッシオーネやパシオーネはよくありますが、パショーネは当社しかないはずです。

ブランドタグもpassioneのOの上にバーがあって、おそらくパシオーネかパッシオーネと読むのでしょうか。

レジスターマークも入っていますので、商標登録されているものだと考えますが、一見私のところのラベルの白黒を反転させたように見えてしまい誤解を受けそうですが、私のところの商品がオークションサイトに出ることはありません。

ブランドタグも以前のものと今現在のものは違いますがアルファベットでPrestigeious passioneと記載されています。

お買いになられたお客様がオークションサイトに出すこともないわけではないですが、作られた商品数からいっても確率は少ないかと考えます。

下記に一例を記載しますが、正規品 美品 passione とありますが、かなり紛らわしいです。

 

★正規品 美品 passione パシオーネ 豪華!フォックスファー使用 メタル混ツイル トレンチコート ブラウン

 

こんな記載がネット上にあり、他にもたくさん passione ファーコート というようなものもあり、しかも一社ではなく数社で、このような表示がされています。

 

オークションサイト以外にもあるようです。

おそらくですが、パシオーネさんというブランドがあり、それが正規品として出たり、中古品としていろんなオークションサイトに出ているものと思われます。

今現在当社の商品が販売されているのは川越アトリエとオンラインショップでの販売だけですので、都度ご確認をお願いいたします。

もちろん、他社様のものも素晴らしいのかもしれませんが、川越アトリエとオンラインショップ以外の掲載はPassioneと記載があっても当社の商品ではありません。

お間違えのないよう、よろしくお願いいたします。

 

長澤祐一

 

毛皮の腹を裂く

今日のタイトルは(毛皮の腹を裂く) です。

私のインスタグラムでも私がやっている方法を以前アップしたことがあります。コメントもたくさんいただきました。

 

私のインスタグラムフォロワーの動画のなかにもたくさんミンクの腹を裂いている動画がアップされています。

毛皮の商品を作るうえではとても基本的な作業のひとつです。

三回ほど前に、いかにプロであってもという投稿をしましたが、よく加工依頼する場合に、通常は相手方で腹を裂くのは普通のことなのです。

しかし、私は自分で腹を裂いて出します。理由は腹の中心を正しくカットできないと、例えば1センチどちらかにズレてしまうと、左右の差は二センチになります。それだけズレると他のミンク同士をジョイントするときに毛の長さや面積に大きな差がでます。

しかし、一般的には依頼するとでたらめなカットをされるケースが多く、仕方なく自分でカットして依頼してます。

 

つい先日も、腹は私の方でカットしてくださいと言われます。あたり前のようにです。

なぜ、自分達で正しい腹の裂き方をしようとしないのかがとても不思議です。少し道具を使うか、少しの気遣いをするかだけのことです。

しかし、それが出来ないのです。ロシアや海外のフォロワーが私のやり方をみて、学ぶひともいれば、自分達の方法をアップするフォロワーもいます。しかし、皆そこそこの仕上がりです。

ものづくり日本といわれるこの国での毛皮のレベルは技術そのものが低いということ以前に意識が低いと感じます。厳しい言い方かもしれませんが、まさにそう思います。

そして、仕上がりをよくするため、相手が努力やさらに上の考えを持たないために、こうして欲しいと要望をだすと、それじゃ作業が三倍になる、、、といい拒否されたりします。依頼したのは簡単な作業です。一枚多く見積もっても1分でしょう。それさえも時間がかかるといい嫌がられます。

これでは国内での仕事が無くなってしまいます。そしてその1分以外に無駄な作業をきっとたくさんやってるはずだと想像します。自分達の作業を究極までに考え尽くすこともなく、1分が作業として増えるために全体の作業が三倍になると言われます。

それが大変だというなら、どれほどまでに他の仕事を数値化したりして効率を上げているというのか疑問に思います。

これでは海外の業者に後れを取ってしまいます。仕事量も減ります。

毛皮が売れない、、人件費が高い、、物価が高い、、というだけの問題ではありません。

それぞれの作業が大変なのは私は理解しています。私も同じような作業をしていますから。しかし、効率や楽をするほうばかりを考えて進んで、本当によくなるのかという疑問ももってしまいます。厳しいですがそう思います。

自分のことなら諦めることなく努力の継続を考えますが他人に押し付けもできません。最後は当事者本人が考えることです。

きっと、このブログを読んでいただいている方のなかには、私にいつも批判の感情を持たれていらっしゃる方がたくさんいるかと思います。それは、私のブログで書くことに一見、他への批判的なものが多いからです。

しかし、それは毛皮という本来とても魅力的な素材を扱うものとして、もっと毛皮を大事に大切に扱ってほしいという願いから出てくるものです。

ここで書くことは、他への批判的なものもありますが、それ以上に毎回、自分の首も絞めてもいます。そのことを覚悟の上で書いています。

こいつ、生意気だと言われても仕方ありません。正しいと思うことを書いて批判を受けても、そのなかに一人でも共感や毛皮の魅力を知りたいと思う方がいればと考えています。私のアトリエに来て、保管している原皮や商品をみれば必ずわかります。

 

最後はタイトルの意味と違ってしまいました。ごめんなさい。

この記事は一回非表示にしました。その後、何度も考えて修正をし再度アップしております。

最後まで読んでいただいてありがとうございました。

長澤祐一

 

オガの汚れ具合と吸収力 その2

毛皮のクリーニングで使うオガの保湿力と吸収力 という5月12日の投稿でクリーニング関係の投稿は最後にしようと思っていましたが、また新しいことがあったので書いてみます。

今日のタイトルは オガの汚れ具合と吸収力 その2 というタイトルです。

数回前の オガの汚れ具合と吸収力 という投稿でオガを洗ったときの水の真っ黒になった画像をお見せしましたが、今回の洗濯機の中の水は、黄色く濁っています。前回とは洗うものが違うことで汚れる水の色もはっきりと違います。

 

前回は、染色の内容が酸性染料なのか酸化染料なのかはわかりませんがブラックのコートのクリーニングをしたオガでした。そのため洗濯したときの色は真っ黒です。もちろん毛から色がほんの少しは落ちしますが、実際にたくさん落ちているのは皮からです。

今回は通常の染色していないナチュラル素材のミンクコートをクリーニングしたオガです。

そのため今回の汚れた水の色は黄色っぽく濁った色でした。鞣し屋さんが皮を鋤くときにグリスのような油を皮に染み込ませて皮を膨らませて皮を鋤くと聞きますが、そのグリスのわずかに残っている分が有機溶剤で溶かされてオガに吸収されたものなのかどうかはわかりません。オガに吸収された汚れかもしれませんが、明らかに黄色い色です。もしかしたらオガそのものの色もあるかもしれません。しかし、それにしては異常に黄色く濁っています。

下の二つの画像の上の画像が今回のもので下の画像が前回のものです。画像では差がわかりにくいですが実際には上の水の色は油を溶かしたようなはっきりとした黄色の色で、下の画像は実際は真っ黒でした。おそらく、上の画像の汚れた水にプラスして黒の毛皮の皮についた染料が落ちたものだと考えられます。追記しますが、毛皮の酸性染料は毛にはしっかりと吸着しますが、皮には染料が刺さるような状態で付いていますので、このようにオガに染みこみやすいのです。決して毛皮の毛についたものが落ちる訳ではありません。

 

洗剤は前回同様、一般の洗剤では香料が入っているので、無香料のバイオクリーニング剤を使いました。お湯に粉を入れると強く炭酸が出るように泡立ちます。重曹と似ていますが、詳しくはわかりません。

バイオクリーニング剤で通常の油汚れを落としてみると確かに油が分解して落ちてしまいます。ですから、オガが吸収した脂や油を溶かして取り除くことが期待できます。

オガは、このバイオクリーニング剤を使った洗い方で数回繰り返して洗ってから濯いでいます。徐々に水が透明になっていき最後は無色透明の水になります。

 

乾燥も今回は扇風機をあてて乾かしていますが、やはりかなり早く乾燥します。前回は二か月以上かかりましたから。

 

今日はもうひとつ大事なテーマがあります。

前回洗ったオガで、原皮を長期保存用に有機溶剤にて脂を抜いてみました。結果は驚くほど綺麗に脂も落とせ柔らかさと軽さも出ました。

洗ったばかりのオガの効果と数回使ったオガとの効力の違いがはっきりでたと感じます。

洗ったばかりのオガと、数回使用したオガの匂いも明らかに違いがあります。洗ったばかりのオガの匂いはヒノキの匂いだけで、それ以外の匂いは無く無臭ですが、使用済のオガの匂いには、ヒノキの匂い以外に別の匂いがします。

 

ここ何回か試していることですが、オガと有機溶剤でドライクリーニングをしますが、このドラムを回す時間にも脂が綺麗に抜くための方法がありました。

オガは有機溶剤によって最初は濡れた状態になり、その濡れた状態のオガが毛や皮に付着して有機溶剤が皮や毛に少しずつ染みこんでいくわけですが、最近分かったことなのですが、オガに染みこんだ有機溶剤が毛皮に移動して毛皮の毛や皮の脂を溶かし、オガがさらにその脂を吸収していくのですが、そこで止めると中途半場な状態で終わってしまうことに気づきました。オガドライの効果をパーフェクトに引き出すことが出来ないような気がしました。もちろん、これは肌感覚でしかないのですが。

わずかな違いですが大きな違いです。

 

途中で止めずに、毛皮の脂を吸収したオガがドラムの中で少しずつ気化していき、ドラムの中でほぼ乾いた状態になるまで丸三日くらい回すのです。こうやって時間をかけて少しずつ脂を吸収した有機溶剤が気化するまでドラムを回します。

私のところのドラムは、クリーニング屋さんのような完全密封ではありません。ドラムが木製でできていることで、ドラムの蓋のわずかな隙間や木のつなぎ目または木の材質そのものから自然に有機溶剤が飛んでいくのかもしれませんが、時間をかけて徐々に気化していきます。

ドラムの蓋を網に変えて、オガを落とすのはオガが完全に乾いてからです。こうすることで毛と皮からバランスよく汚れや脂が取れて柔らかくなります。

毛からも脂が取れることで今後の毛の黄ばみとかも軽減するはずです。

前回投稿でも書きましたが、こうすればこうなるというような空想のようなものですが、何年もかかって黄ばみが出るものを時間単位で見続けることは出来ませんので想像するしかないのです。それでも、やらないよりはやった方が効果があるといえるものはやるべきだと考えています。

毛皮の作りも奥が深いのですが、この毛皮のドライクリーニングという作業も作りに大きく影響し毛皮の商品化にも最も大事な部分と私は考えています。少し、変人的というくらい、このブログでもたくさんクリーニングについて書いていますが毛皮の状態が上手く調整できると作業の半分くらいが終わったように私は作るときに感じます。

一般の技術者でもアトリエにきて原皮を見れば、その大きな違いがわかります。もちろん、素人の方でも見れば、いい状態になった原皮がいかに綺麗かが理解できます。見たいと思う方はいつでも連絡ください。    長澤祐一

蒸留水を使う

今日は珍しく二個投稿します。

精製水(純水)というものがあります。

以前インスタグラムでロシアの技術者とやり取りしていて、毛皮加工に使う水を蒸留水を使っていると教えられました。

国内技術者では、おそらくですがそんなことをしているところはないと思います。

私もさすがにそこまでは気付きませんでした。

どんな意味があるのかは彼は言いませんでしたが、決して間違っているとは思えません。そんなこともあって現在は、自分も使ってみています。結果はまだわかりません。というよりもずっとわからないのかも知れません。

しかし、それでいいと思っています。

最近、直本さんの蒸気アイロンの水に純水を使っています。それとは別のボイラーにも純水を使ってみています。結果は出ていませんが、純水を使うことで機械の中に長期使用で貯まるカルキが少なくなることを考えれば機械にもいいし長持ちもするはずです。

このするはずが、実は大事だと考えます。実際に結果をみることは何十年も使いその結果でしか見れませんが、想像をしてこうあるべきだという理屈に従うことは毛皮の技術にもよくあることです。

このような、きっとこうすれば、これを使えばよいはずだということの積み重ねでしか結果は得られません。

今回の毛皮に純水を使うというロシアの彼の考えも、理屈ではなく感覚できっと蒸留水が良いだろうと考えたのかもしれません。彼も自分で考えるタイプです。他のロシアの技術者から教えられることは少ないですが、彼はロシアでは特別に繊細な気がします。

話戻しますが、純水がいいとははっきりとは言えません。ただし不純物がないということは皮にとっても水を使う際に、カルキだったりなにがしかの不純物が皮に入り、それによって酸化が進んだり劣化がしないとも言えません。

結局のところ、こんなことの積み重ねを何重にもしていくことと、その結果を頭のなかで想像して、それを繰り返すしかないのです。そしてその結果が時々ですが、オッと驚くような結果が出ることがあります。気が長いですが偶然に出くわすまでやるしかありません。そしてその偶然の結果を見逃さなくするには、自分が継続してやり続けていることのひとつひとつを忘れずにいることです。

 

 

最近、インスタグラムのDMにドイツの方からメッセージが届きました。ちゃんと日本語に訳してくれてです。

こんにちは。
最近、毛皮職人として独立したのですが、以前から書き込みで素晴らしい感動を与えていただいたので、お礼を申し上げようと思っていたのです
以前の記事で、私と同じフランス製のクリーニングドラムを使用しているのを見ました。最近、中古でこの機械を購入したのですが、使用する上でいくつか質問があり、残念ながらもうこの場で誰も答えることができないのです。
質問を送ってもいいですか?何枚か写真を撮ったのですが、残念ながらInstagramのメッセージに添付することができません。メールでのお問い合わせは可能でしょうか?
ありがとうございました!よろしくお願いします。
Jan Rich・・・・・ (Germany)

 

こんな感じです。インスタグラムでは、このブログほどたくさんのことは書いていませんが、それでも読んでくれてメッセージをいただくことがよくあります。ドイツは昔は毛皮の大国でしたが、今は国内で毛皮を着てはいけないようにも知人からは聞きます。そんななかで毛皮を始めようとするひとがいるようです。

何かしらのお役に立てればいいのですが。

国内にもそんな方がどこかにいるのかもしれません。以前は某百貨店毛皮サロンに常設していて、いろいろと出来ないこともありましたが、今は何も気にせずに何処の誰とでもお会いすることも時間も使えます。

私で解ることがあれば、いつでも質問をお受けいたします。たいしたことが出来るわけではありませんが、国内にもどこかに、上のドイツの方のようなひとがいるかもしれません。技術者としてアトリエに来ていただくこともOKです。

最後はテーマと違ってしまいました。ごめんなさい。    長澤祐一