PFAFF 3560でセーブルをレットアウト

今日は以前、紹介いたしましたがPFAFF 3560というミシンでセーブルを縫う動画をご紹介いたします。ビデオはワンクールだけで短いですが、多分ヘビーシルバリーセーブルを縫ったときのものだと思います。シーズン中で急いでいて、一瞬だけ撮ったのだと思います。

この動画はセーブルの皮の薄さと縫いの薄さを知ってもらうために、縫っている部分に近づけて撮っていますので、手ブレが少し起きています。でも、縫い目はしっかり見れますので是非ご覧ください。

PFAFF 3560でセーブルをレットアウトする

30年以上前に多分、当時の西ドイツで作られたこの大きなミシンは、当時、日本で大流行していたミンクのコートのレットアウトをするために作られました。私が独立する前にも当時代理店をやっていたところに来てもらい、縫いのサンプルなどをみせていただき、ちゃんと調整すれば縫えるのだろうと確信していました。

しかし、中古で買った当初は、中古ということもあり代理店も手厚いフォローをすることはなく、ひとりで苦労して何年もかかって今の状態にすることができたのです。当然、ミンクはいずれ当時ほど売れなくなるということも考えていたので、当時、ひと月に5着くらい作っていたセーブルのコートが縫えないかと、最初から、セーブルで縫えるようにトライしたのです。

当時を振り返ると、いきなりセーブルを縫うのは、かなり無茶なことで、強引だったかとおもいます。その理由は、ミンクに比べてセーブルは皮も薄く、毛も弱く繊細で、原皮の価格もミンクの何倍もし、失敗して皮一枚ダメにしたら大変な損失になるからでした。当時は、安く買ったと言っても国産高級車を一台軽く買えるくらいの金額で買ったこともあり、このまま、その当時のレベルの低い縫い上がりのままなら、うちでは使い物にならないと思っていたこともあり、毎日緊張感の連続で、その大きなミシンを調整していたのを思い出します。

もう、寝ても覚めてもパフのことばかりでした。幸い、セーブルの仕事はずっと続いていて、機械を調整するには絶好の時期だったのかもしれません。

工夫と調整の連続

毎日、じっと、動画をみるように、何度も、何度も機械を見続け、そのうちに少しずつ法則がみつかり、それをひとつひとつ丁寧に調整していったのです。 この機械の大事なところは、毛を分ける部分、カットする部分、皮をずらす、皮を縫う、毛皮を挟む部分、毛皮をつまむ部分、このいくつかのステージをすべて一直線上に揃えなければならないところが、この機械の難しさです。

所詮、手のように柔らかいタッチで毛皮を掴むこともできません。機械ですから。しかし、調整によって徐々に手のようなタッチに近づいてきます。

さらに難しいのは、静止している状態で合わせても、動き出すと振動、反動があり、若干設定位置が狂います。それを機械が動くことを想像して何度もセットしては縫いを繰り返します。さらに、ここはやっと正確な位置になったと思っても、他を調整すると、また狂います。

こんな感じで、螺旋階段を登るように何度も、同じ位置に立ち返ったりしながら調整をし続け、ほんとうに、あ~ もう人間を超えたな、、、、とおもったのは、数年前です。それくらい時間がかかりました。

もう、ビニールホースも劣化し、切れ始めると、一斉に、あっちこっち切れ続け、最近ではほぼ全ての細いホースは取り替えた気がします。

コンピュータ部分も、今ならきっと、この何分の一の大きさに出来るのでしょうね。なにしろ、パーソナルコンピュータなんて言葉がようやく出始めた頃の機械ですから。

全体の仕組みは、アウトプット、インプットスイッチや、 金属探知機のような近接スイッチを使い、それを基盤でリレーしてモーター、エアーシリンダー等で駆動させるというように出来上がっています。よくこの構造を考えたものだと、そばで見るとほんとうに感動してしまいます。

当初、日本から要望を出して、取り付けてある針受けのようなものは取り払っています。そんなものがなくても、正しい調整がされていれば、綺麗に縫えます。

カットする刃も、国内ユーザーからの要望で薄くのこぎりの刃のようにギザギザのついたタイプに変更されていましたが、それもダメでした。薄い刃では、少し厚い皮になると抵抗が強くかかり、刃が負けてしまい、セットされた正確な位置で皮をカットすることができませんでした。

きっと、素人が、ああでもないこうでもないと、買い手の強みで要望を出したのでしょうが、うまくいってはいませんでしたね。
私は、初期段階の厚い刃を使い、そこに、目立てヤスリで逆抵抗になるように、のこぎりの刃のように軽くギザギザをつけて、さらに回転させながら軽く研いています。こうすることで、切れ味が安定するようになりました。

場所によっては、紙のなかでも極薄のものをスペーサー替わりにはさみ、何度も入れ替えてみたりと、もう、何百時間つかったかわからないほどです。

時には、エアーで機械が動いているのですが、本来エアーで上がるはずの部分が下がってしまい、腕が挟まれて助けてもらったりしたこともあります。

機械を知り対処する

パフは今も、よく壊れます。でも、いつも、元をしっかりたどっていくと、大体直ります。電子機械なはずですが、機械本体はアナログ的な部分も多くあり、症状が見えることが多いのです。壊れる理由がちゃんとあるのです。

それから、一番大事なことは常に、トラブルが起きたときの症状と直したときの方法をスポーツ選手がつけるように、日記をずっとつけています。多分これがなかったら、今のように使いこなすことはできなかったのかもしれません。

もちろん、写真や動画でも記録しています。私は、仕事以外のことは、かなりずぼらなほうでいい加減ですが、このパフのことだけは、別人のように対処しています。そのおかげで、たまに受けるレットアウトの仕事も綺麗に仕上げることができているのです。

写真は、袖のレットアウトをしたものです。カット幅は正確に言えば、5.5mmくらいだと思います。両端にレザーがついていますが、これはパフのエアーで毛がレットアウトの縫い始めに巻き込まれないようにするために考えました。

セーブルレットアウト

これは、かなりシークレットなのですが、写真を加工するわけにもいかないので仕方がありません。でも、このレザーのおかげで、背中心や腹の部分を一回のカットで続けて切ることができるので、ここも効率アップにつながっていますね。これについては、当初から考えた訳ではなく毛がからまないようにと考えたのですが、結果として仕事が楽になりました。

写真のセーブルはワイルドの多分 3サイズくらいのものですので、当然サイズも小さく皮もファームに比べると薄い傾向にありますが、縫い外れもなく綺麗に縫えています。しかも、手で縫ったように、縫い上がりで皮がくるくると丸まってしまうようなこともなく長さも正確に仕上がります。

当時国内では、酷評された、この機械も、しっかりと調整がなされれば素晴らしい仕上がりを生み出すことができ、このものずごい機械を作ったドイツ人技術者達の能力の高さを知ることにもつながります。そんなすごいミシンです。

長澤祐一

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